黒き刃の嵐 ①
「撃て撃て! 地球奪還軍の底力を見せてやれ!」
「ちょっと危ないわよ! 奴らしぶといわ!」
「斬り刻む! 援護して!」
トラノスケ達の部隊が戦闘を始めている頃、カズキとモモカの部隊もグラトニーとの戦闘が始まっていた。
隊員たちの士気高い叫び声と共に、グラトニーに攻撃を仕掛けていた。
目的は侵食樹の破壊。その樹を守るように暴れ狂う嵐をトラノスケたちが止めた後、すぐに近づいて壊すのがカズキの部隊の役目。そのために周辺のグラトニーの掃討を行っている。
「他の部隊もそろそろ戦闘に入っているか。ならばこちらも目的を達成しに行かなければならない」
隊員たちが戦闘している場所から遠く離れて、コープ越しから敵を見ながら、周囲の状況を確認するカズキ。
彼の持っている武装は他の隊員たちと比べて特殊なものであった。
カズキが握っているスナイパーライフルはあまりにも巨大であった。対戦車スナイパーライフルよりも大きい。
普通の人間なら持ち上げるどころか、引きずることさえできないほどの重量。それをカズキは機械の肉体で持ち上げている。
そして銃の形も独特だ。
普通のスナイパーライフルの形はしておらず、銃身は長方形のように太長く、ストックの部分の翡翠色をした液体が入った筒状のガラス管が付いてある。
銃口も大きく、それだけでこのライフルの威力の高さが想像できる。
この武装の正式名称はチャージビームスナイパーライフル、隊員たちは『チャージライフル』と呼んでいる。
かつては戦争で、ビームバリアを壊しながら本体の戦車を貫くために開発された、対ビーム兵器搭載戦車破壊ライフルだ。それを機械人間用にカスタムされた小笠原カズキ専用のチャージライフルだ。
「射撃軌道の予測を各隊員に送った。今から狙撃に入る。射線には絶対に入るな」
そのチャージライフルをしゃがみ姿勢で敵に狙いを定めて射撃。
すると銃口に光が集まり、巨大なビームとなって発射される。
狙ったビーム弾はグラトニーたちの足元に命中。するとそこから円状にビームの灼熱が広がっていき、その熱にグラトニーたちを焦がし灰にしていく。
火力を高め、圧縮されたチャージライフルのビーム照射は着弾した場所から広範囲に爆発していく。直撃すれば一瞬で溶かし、避けてもその余波のビーム爆発でその身を焦がす。
遠くからの狙撃ならば敵を確実に殺しつくす、効果力ビーム兵器の恐ろしさ。
「次」
一発で終わるつもりはない。銃身が焼ける直前まで撃ち続ける。
容赦なく引き金を引き、高火力のビーム弾をグラトニーにぶつけては爆撃させていく。一発の狙撃で多くのグラトニーを翡翠の光をあびせていった。
機械人間であるカズキの眼にはチャージライフル弾の予測線が見える。機械の眼だからこそできる。
「流石、小笠原指揮官! 百発百中ですね!」
「まだ任務は終わっていない。引き続き周囲の警戒を」
「はい!」
カズキの周囲にいる隊員が称賛の声を送るもスコープから目を外さない。
彼女たちはカズキの護衛だ。もしグラトニーが奇襲を仕掛けてきても、すぐに対応できるように彼女たち隊員がいる。
「邪魔だっ!」
そしてグラトニーの集団の前に、一人の戦士の雄叫びが響き渡った。
モモカだ。
力に身を任せた槍の一振りで複数のグラトニーが真っ二つになる。なぎ払えばグラトニーが斬られていき、どんどん数を減らしていく。
『ギギギ!』
その暴れっぷりにグラトニー達も先に倒さなければならないと思ったのか、モモカに向かって飛び掛かり。空を見上げれば、至る所にグラトニーがいる。避けることは不可能。
「数をそろえたところで!」
だがモモカは避ける必要はないと考えた。
槍を頭上にあげてから手で高速回転。竹とんぼのように回したビームスピアはグラトニーの飛び掛かり攻撃を防ぎつつ、ビームの刃でその体に斬撃を刻んでいく。
グラトニーの数の攻めはモモカに対して無駄な攻めだ。
「うわ! 来ないで!」
「『友往邁進!』 直進する!」
遠くの仲間の声。危険が迫ってくるときの声だ。
その声を聴いた瞬間、モモカの眼が翡翠に光る。
彼女の向かう方向に道ができる。翡翠の道をモモカは踏み込み、最高速で味方の元まで移動しつつ、グラトニーの横を通り抜けながら斬り捨てる。
そしてその勢いのまま迅雷が如く突っ込み、ハイスピードの突きをグラトニーにかました。
『グギャァ⁉』
体の中心を貫かれたグラトニーが一瞬にしてその身を灰になり、風と共に消えゆく。
そしてモモカは振り向いて、
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます!」
「無事ならよかった。まだ戦えるか?」
「当然です!」
味方の無事を確認して、すぐさま敵の方に槍を向ける。
「グラトニーは一つ残さず全滅する。それが私の使命だ!」
街を守るために、病に侵された者を救う手段を見つけるため、そして憎きグラトニーの恨みを晴らすため、理由は多くある。
だからこそ、全てを成し遂げるためにグラトニーに槍を振るう。
闘志に満ちたモモカの槍さばきはグラトニーを一方的に葬っていく。
「よーし、副隊長に続け! 撃ち続けてグラトニーを消し飛ばせ!」
「指揮官も後ろで援護してくれているのよ! こっちも頑張んないと!」
その活躍ぶりに隊員たちも意気揚々とグラトニーを討伐していく。
撃って、斬って、爆発させて、グラトニーの数をどんどん減らしていく。
「戦闘はまだ始まったばかりだ。私たちの仕事をするためには、松下指揮官の部隊があの嵐を消してくれることを祈るしかない」
侵食樹の嵐さえ消えれば突撃できる。そして所持しているウカリウム濃縮弾をその樹にぶち込めばいい。
その時間が来るのを耐えつつ、カズキはスコープで遠くを確認。
索敵ドローンの範囲外のグラトニーの位置を機械人間の肉眼で調べていく。
「――っ! 全隊員! 銃を構えろ!」
「な、なに?」
何かを見つけたカズキ、すぐさま隊員に通達。
突然の指揮に隊員たちは戸惑いながら武装を握りしめる。そしてその直後カズキからの指示がと飛んだ。
「侵食樹の方向から嵐の大玉が向かってきているぞ!」
それは前に飛んできたかまいたちより大規模なものであった。
風の刃が密集した大玉がこちらに向かって飛んで生きているのだ。
「前見た風の刃より大きい!」
「どうするのよ!」
「私のチャージライフルならあの大玉も消せるはずだ! 各隊員! あの嵐の動きに備えておいてくれ!」
部隊の隊員たちに防御態勢をとらせる。
あの嵐の大玉を消しきれなかった場合に備えて。
「寺山隊員! 無茶を言うが、あの嵐に突撃できるか!」
「問題ありません! 元より承知の上!」
カズキが狙いを定めて、モモカが走り出す。突然やってきた災害の塊を止めに行く。
「ファイア!」
先に動いたのは指揮官のカズキ。
エネルギーが充填されたチャージライフルの引き金を引き、巨大なビームを何度も飛ばしていく。
嵐の玉にぶつけると、その玉に大きな穴が複数できる。
だが、それでも風の大玉は止まることはない。
ならば、とモモカが止めに行く。
「我が『友往邁進』に! 妨げるものは無し! 私が進むべき道こそ正道だ!」
突き進むべき道に目を向ける。
モモカの目には己が行く道が見えている。
そしてそれは一つの直線の道だけでなく、急な角度で何度も曲がっている道であった。
「『瞬迅雷・五閃』!」
その嵐にむかって直進。モモカの通った所の風が消える。
そして、モモカは途中で急停止してすぐさま体の向きを斜め後ろに向けて再び前進。それをキッチリ四回立ち止まり、五つの直線が風の大玉に道を作る。
『友往邁進』は一度直進して自身が指定した場所にたどり着いたら能力は消えてしまう。ならばすぐに身体の向きを変えて再び場所を指定、そして直進。それを刹那の速度で繰り出していく。
何度も訓練を重ねたそれは、立ち止まった瞬間さえも隙にならない。
止めようとした瞬間、それよりも先に繰り出される無敵の直進によってひき殺されてしまうのである。
モモカの直進はたった一度では止まらないのである。
ビームの射撃とモモカの猛進、それによって嵐の大玉が動きを止めて爆発する。その爆発も弱く周囲に小さいかまいたちを飛ばす程度であった。
モモカはすでに『友往邁進』によって大玉から距離を取って離脱している。
「かまいたちが飛んでくるぞ! ビームシールドを構えろ!」
「あれぐらいなら防げるはずよ!」
「痛っ⁉ やっば! ちょっとかすった! あとで治して!」
爆発して飛んできたかまいたちも、さっき見た嵐の大玉に比べたら楽なものだ。ビームシールドを立てて、自分たちの身を守っていく。防ぎきれなくて腕や足に当たった隊員もいたが、軽い斬り傷で治療薬があればすぐに治る程度の怪我である。
「何とか防げたか……しかしあれほどの風の塊を繰り出せる奴がいるとは。敵の親玉に違いない――⁉」
嵐の大玉を防げたことに安堵していたモモカであったが、その瞬間、体に電流が走るような感触が伝わってきた。
(この、プレッシャーは……感じたことがある……)
戦士としての本能がモモカの体に危機を伝える。
いる。
この場で絶対的強者が近くにいると。
「そこか!」
その直感を信じて、いると思った場所に向けて最大出力のビーム斬撃波を飛ばした。
「あら? バレちゃった。地球人にしては勘が鋭い」
その斬撃が黒い巨大な風の刃によって相殺された。
高出力の斬撃波を止められて目を細めるモモカの前に、黒緑の髪を揺らしながら人型のグラトニーがすがたを現したのであった。
「もうちょっと遊んであげたかったんだけどな――」
――ガキン!
無駄話をしようとした人型のグラトニーにモモカが急接近してビームスピアを振り下ろす。
その刃を両腕で何とか防ぎきるグラトニー。
やはり、と確信するモモカ。
普通のグラトニーならウカリウムのビーム兵器を防ぐことなんてできない。
だが目の前のグラトニーはそれを楽々と防いでいる。
このグラトニーは自分たちが討伐するべき敵、スターヴハンガだ。
「ちょっとちょっと! いきなり攻撃してくるなんて! ボク、その光嫌いなんだよ! わざわざ体を変えないと耐えられないからさ!」
「お前だったのか……そうか! まさか再び出会えるとはな! 風のスターヴハンガ!」
モモカはこのグラトニーを知っている。
自分の顔に傷をつけたあのグラトニーだ。
「仲間を! 友を殺した! 殺すべき相手を忘れるわけがないだろう!」
怒髪天を衝くかのような鬼の形相で槍を握る腕に力を込める。
それでもスターヴハンガは笑みを崩さない。腕も一センチたりとも沈んでいない。力では完全に風のスターヴハンガが上である。
「なに? ボクは君のこと知らないなあ。一方的に覚えてくれるなんてボクのファン?」
「ああ大ファンさ、この目に傷のサインをつけたお前のことを忘れたことはない。すぐにでも殺してやりたいと思ったほどにな!」
「過激だねえ。でも残念、そんな傷、ボク覚えてないや。君よっぽどのザコモブだったんだね」
「なら覚えてもらおうか! どうせ覚えることさえできなくなるだろうがな!」
「いい加減、腕がしびれてきたな! そろそろどいてよ!」
グラトニーが腕に力を込めて槍を弾き飛ばす。
互いの距離が開き、モモカが睨みつけグラトニーは飄々とした笑みを浮かべる。両者真逆の対応だ。
『寺山隊員! 何があった!』
「スターヴハンガに遭遇した」
『なんだと? すぐに救援を送る!』
「いや、送らないほうがいい。コイツは……強い。生半可な隊員では瞬殺されてしまう」
怒りで心を燃やしながらも、目の前のスターヴハンガの実力を冷静に判断するモモカ。
カズキの救援もこのスターヴハンガ相手では意味がない。
仲間の隊員は頼りになる。だがスターヴハンガ相手ではそうではない。『キセキ』を持っていなければ相手にもならない。
一度刃を向けたからこそ、モモカにはそれが嫌にでも理解してしまった。
「スターヴハンガ、ね。違う違う、ボクにはちゃんとした名前があるの。ボクの名前は『ラァ・ネイドン』だよ。キミたちの希望を奪う者さ」
「戯言を!」
自己紹介なんて知らんとばかりに再び突撃を繰り出そうとするモモカ。
だが足を一歩踏み込んだ瞬間――自身の両腕に一閃の傷が生まれてそこから血液は噴出した。
「――なっ⁉」
「ファンサービスさ、受け取ってね。ザーコ!」
(いつの間に……⁉ いつ斬られた⁉ さっきの鍔迫り合いで⁉)
ラァ・ネイドンはモモカのビームスピアを跳ね返したその瞬間、腕から風の刃を出してモモカの腕を斬っていたのだ。
腕から垂れる血を見て痛みに悶える。
「へー、切断できなかった。君、結構頑丈なんだね」
「この程度でちぎれるほど軟な腕はしていない!」
「でもね、それが不幸なんだよね。ボクの風刃が君の体にたくさん刻みつけられるんだからさ!」
両手に黒風が集まっていく。それを刃のように細く鋭くさせて腕をふるってかまいたちを飛ばしていく。
「チィッ!」
手刀から飛ばされる風の刃をモモカはなんとか避け続ける。
(あの侵食樹を、グラトニーたちに風の力を与えてたやつはコイツだ……それにふさわしい実力がある! 気に入らないが!)
腰の小さいポーチからウカリウム治療薬を取り出して、それを摂取。重症であった斬られた腕の傷がみるみるうちにふさがっていく。
『寺山隊員、聞こえるか! 今、アキラ隊長に救援要請を出した! すぐに来る!』
「――隊長が!」
第02小隊隊長のアスカがこちらに向かってきている。
(隊長のことだ、すぐに来てくれる! 一緒に戦えれば……だが……)
普通なら時間稼ぎをする方が大事。
だがモモカの心は奴を討つべきだと訴えかけてきている。そしてモモカはその声に受け入れるように槍を構える。
「私の目を奪い、仲間を奪った、そのグラトニーがいま目の前にいる! 倒しきらなければならない!」
ずっと抑えてきた怒りの感情が爆発する。
奴こそが自分が殺すべき仇。奴に殺されない仲間の無念を晴らすべき敵。
最初に出撃した任務のことが、ラァ・ネイドンに出会ったことが昨日のように感じられた。実際は2年以上前のことなのに。
あの時は一方的に殺意の暴力をぶつけられ、味方の死をまざまざと見せられた。何もできない自分の無力さを恨んだ。
「私の『友往邁進』は無敵だ!」
だが、今は違う!
「お前は死ななければならないのだ!」
瞳が翡翠に光る。
モモカはたった一人でスターヴハンガのラァ・ネイドンに立ち向かおうとしていた。
仇敵討つために。
「速いだけじゃーん!」
ほんの少し体を反らしてモモカの『友往邁進』を避けつつ手を伸ばして貫手をモモカの横腹にぶつける。風の刃もまとわせているため、かするだけでも皮膚をズタズタにする凶悪な突き手であった。
「効かん!」
「あれ?」
だがモモカは無傷、そのまま攻撃を続ける。ラァ・ネイドンは戸惑いながらもモモカの槍のなぎ払いを避け続けた。
「おっと! 速い速い! 雄牛さんみたいだね」
「その口を閉ざす!」
気楽そうな顔で戦っているラァ・ネイドンに対してさらなる怒りに燃える。
突撃しながら槍を振るってラァ・ネイドンの体に傷をつけにいく。
だが、それでも刃がラァ・ネイドンの体に届くことはない。最小限の動きで避けられ続けている。
(うーん、一方的に攻撃されてるなぁ)
挑発的な態度をとっているラァ・ネイドン、心の中では冷静であった。
モモカの直進攻撃に反撃の風の刃を当てているのに効いている様子はない。全くの無傷。
その言葉通りなのだろうとラァ・ネイドンは思った。モモカの『友往邁進』は発動している時はどんな攻撃も効かず一方的に攻撃できる、無敵の突進だということを。
ならばモモカが立ち止まった瞬間を狙って風を放つも、すぐに『友往邁進』の突進で無敵になって風を無力化させながらカウンターを仕掛けてくる。
攻撃の無力化を押しつけてきながら突撃してくる様を見て、
「なんかムカつく。いい気になってさ」
うまくことが進まないことにラァ・ネイドンはイラつきがつのっていく。地球人が自分より自由に立ち回っていることに腹を立てている。
自分たちグラトニーの方が地球人より優れているという傲慢な考えから生まれる怒り。
その怒りを鎮めるにはさっさとモモカを叩きのめすほかない、ラァ・ネイドンはそう考える。
ラァ・ネイドンはその場に立ち止まり、どっしりと構える。避けながら攻撃を行う、先ほどまでの動きをやめた。
(何を考えて?)
不気味に思うモモカ。
しかし、だからといって突撃を止めるわけではない。全力前進でラァ・ネイドンにビームの刃をぶつけにいく。
「――ごめーん、やっぱり遅かったね」
自身の首に迫ってくる槍を掴んで防ぎ止めた。
「なっ⁉」
まさか自身の武器が掴まれてしまうことに驚くモモカ。そしてラァ・ネイドンは悪鬼のように嘲笑う。
「確かにキミの突撃は無敵! ボクの風刃を持ってしても傷を与えられない。あと隙もちゃんと消している。無敵なだけは認めてあげるよ」
だけどね、
「その突進は無敵なだけ! その程度の火力じゃあ! このボクに傷つけることなんてまるでできないんだね!」
ラァ・ネイドンが狙っていること。
それは『友往邁進』を真正面から受け止めてからのカウンターであった。
槍を掴んでいない方の手に風の球体が現れて、空間そのものがその風に吸い込まれていく。そしてその風は黒く染まっていく。
「紅い風を巻き起こせ! 『荒レ狂ウ螺旋風』!」
その風を握りつぶし、その手が刃の嵐と化す。
それをモモカの腹に向けて放つ。黒い風はまさに風の螺旋槍。大地を貫くドリルのようであった。
「――ガハッ⁉」
至近距離では避けきれないモモカ。直撃し腹部と口から血があふれ出し、その血を風が吸ってどす黒い赤き旋風が咲き誇った。
嵐の勢いのまま大きく吹き飛ばされるモモカ。地面を跳ねて、彼女が通った道には血の道ができていた。それをラァ・ネイドンは踏みしめながら近づいていく。
「避けなかったら楽に死ねたのにねえ! そんなに虐められるのが好きなんだっ!」
再度、風のドリルを発射。
ラァ・ネイドンにとってこの技はただ風を飛ばすより楽な技。連発することぐらい動作でもない。
狙う場所はモモカの手足。肉と骨をぐちゃぐちゃにして痛みに苦しむさまはこの目で見ようとしている悪趣味な攻撃。逆転の希望を握りつぶす残虐な選択肢であった。
「ザコは! 死ぬ時ですらオモチャにされるのさ!」
「ま、まずい……」
避けようにも体は動いてくれない。立ち上がることも、転がって避けることもできない。
先ほどの風の螺旋槍によって抉れた脇腹、そこから血が止まらず痛みも止まらない。それによって意識が朦朧としている。
自身に襲いかかってくる風のドリルにモモカはただ見ることしかできなかった。
――バコンッ!
人体に当たったとは思えない音が聞こえてきた。
「え」
ラァ・ネイドンも思わず驚きの声。
何に当たった? それを確認したらもっと驚愕した。
「あ、アタッシュケース……?」
それはこの場では場違いなほどデコられたアタッシュケースであった。
逆に気味が悪くなる。
(なんなの? あの変な飾りばっかのアタッシュケ―スは? ボクの風で斬ることができなかったなんて)
ラァ・ネイドンの手から放たれる風の刃は鋼鉄さえも容易く斬り裂く。
指先一つで金属を斬り刻めるのだ。
なのに自分の風が全く効いていない。ただのアタッシュケースではない。頑丈さ的にも、やたらとデコられていることも含めて。
警戒を強めて観察していると、ケースから何かがこぼれた。
――アタッシュケースからこぼれたモノ、それは爆薬にウカリウムを混ぜたエネルギーグレネードだ。
「え⁉」
それらが何個もラァ・ネイドンの足元に転がる。
そして瞬きする間もなく爆発を起こした。
翡翠の閃光と熱がラァ・ネイドンに襲いかかった。
「くっ⁉ なんなのよ!」
上空から地面に向けての風のシャッター。暴風の壁によってダメージを負わずに防ぎ切る。
しかし、ラァ・ネイドンの思考はまだ混乱の中にあった。あのアタッシュケースはいったい何なのか。
『来てくれたか! アスカ!』
指揮官のカズキはそのアタッシュケースが何なのかを理解している。その持ち物の名前を叫んだ。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」
そしてアタッシュケースが勢いよく開かれ、そこから第02小隊隊長、萩アスカが出てくるのであった。




