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ウカミタマ ~地球奪還軍第00小隊~  作者: ろくよん
イチカ・アンチノミー
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灰色の結晶樹での開戦

 嵐に包まれた侵食樹に向かう途中、グラトニーがその樹を守るようにトラノスケたちに襲い掛かってくる。

 先に動いたのはリオとソウォンだった。


「人型に植物型。『ガキ』と『マンドラゴラ』か」


 リオがグラトニーの集団を目にして、どの種族名かを口に出す。『ガキ』はよく戦うが、『マンドラゴラ』はそうではない。

 頭に禍々しくも刺々しい一輪の花を咲かせて、根っこの形をした手足でぴょんぴょん飛び跳ねながらこちらを見据えている。この機動力で相手を錯乱しつつ、花から灰結晶弾を飛ばしてくる厄介なグラトニー。叫び声を聞いても何も起こらない。

 しかし、リオとソウォンならば問題はない。


「私の前では小手先の動きは無駄だ」

「言うわね。まっ、それはアタシも同じだけど!」


 リオは空を飛び、そして落下しながら体を回転。そこから弾をまき散らしていく。そのビーム弾は的確にグラトニーの身体に命中していく。ジェットブーツで空を飛びながら、回転射撃で多くの敵を貫き、そしてその機動力で反撃も軽々と避けていく。

 リオ得意の空中戦法。

 グラトニーは彼女を捉えられず。ただ一方的にビームを浴びせられる。どれだけ灰結晶の弾を撃とうが、リオの身体にかすることはない。

 なにより、


「動きのキレがさらに増しているわね」


 マリはリオの動きを見て、より機敏に動いているのを見抜いた。

 空中での移動が前より速くなっている。

 ジェットブーツの出力を上げてスピードを上げているのだが、そうすればその分射撃も難しくなる。

 だがリオは難なく敵を撃ち貫いていく。

 より強くなっているのだ。 


「わあー、速い!」

「これが第00小隊の隊長……なるほど、アスカが目をつけるのもわかるわ」


 リオの攻撃に感嘆の声を上げるソウォン、彼女もまたグラトニーに攻撃を仕掛けていた。

 背中のパックに搭載されていたガンビットを排出。それを操って真上からグラトニーにビームの雨を浴びせていく。その射撃も正確無比、一撃も逸らさずにぶち当てていく。

 さらに本人の銃の腕も冴えていた。

 彼女の愛銃、既製品のビームライフルの出力を上げたカスタム銃『スンリ』を握りしめて撃ち出す。

 その射撃はグラトニーの頭部に命中していく。

 激昂しやすい性格に思えるソウォン、しかし戦闘は冷静、じわりじわりと精密な射撃で相手の戦力を崩していく。

 あの自信に見合う実力をグラトニーにぶつけていった。


「へー、口先だけじゃないのね」

「二人が敵の陣形を乱した! 彼女たちを支援するようにさらに攻めてくれ!」

「「「了解!」」」


 リオとソウォンに負けじと第00小隊と第02小隊の隊員が突撃。彼女たちも銃口をグラトニーに向けて引き金を引く。

 混乱している相手にダメ押しの攻め。


『ギギ! ギャギャ!』


 だが敵もやられてばかりではない。

 奇襲にも近い攻撃を立て直し、反撃とばかりにグラトニーも攻撃を仕掛ける。

 奴らの腕や口から強烈な風の弾丸が発射され、リオたちに避けられはしたものの、地面に当たれば爆発してその威力の高さがわかる。


「風を!」

「やはりスターヴハンガから力を! 間違いない! この場所にビィ・フェルノと同格の奴がいる!」


 ほとんどのグラトニーが黒い風を飛ばしてきている。

 そして嵐に包まれた侵食樹。

 スターヴハンガがいるのはほぼ確定だ。

 あの侵食樹の中がスターヴハンガの本拠地なのであろう。

 ならばあの樹を壊すべきだ。

 トラノスケたちは周囲のグラトニーを、どんどん討ち取っていく。


「なんだありゃ⁉」


 すると第02小隊の隊員から驚きの声。

 警戒を強めて武装を構えると複数の黒いつむじ風が地面を削りながらこちらへ向かってきている。

 全てを巻き込む竜巻ではない、鋭い刃が舞っている竜巻だ、味方であろうグラトニーなんて関係なく突き進み飲み込まれたグラトニーが輪切りのように斬り刻まれている。

 つむじ風の中身を見ると、灰結晶色のイタチのような姿に尻尾が太刀のようになっている。

 そんな化物が高速回転して刃のつむじ風を作り出しているのだ。


「回転しながらこっちに向かってくる! 竜巻に意思があるみたいに! 尻尾が太刀みたいだ!」

「『カマイタチ』だ! 気をつけろ! ヤツの尻尾は名刀並みに鋭い!」

「でも、こんなことしてこなかった……このグラトニーも力を授かっているみたいですね」


 戦ったことのある隊員たちはカマイタチのいつもと違う攻撃の仕方により警戒を強める。

 普通のカマイタチなら尻尾を振り回し、自身をカッターみたいになって飛んでくる。

 だが、黒い風の力を授かったカマイタチは刃の嵐と化した。

 迂闊に近寄ればその風に身を無数の切り傷を刻まれてしまうだろう。


「あの二人ばっかり活躍して」


 だが、マリの視線はリオとソウォンの方に向けられていた。カマイタチなんてまるで脅威なぞ抱いていないかのように。

 ビームソードでグラトニーに斬り刻みながらリオたちに追いつき、そこから光の如き速さで移動。

 そして戦場に翡翠の一閃が無数に生まれ、その閃光に巻き込まれたグラトニーが悲鳴を上げること無く真っ二つにされていく。


「風じゃあ閃光には届かないわよ」


 トドメの一振りはカマイタチの風をも切り捨てる。

 自分に向かってきた黒い風をなぎ払いながらグラトニーを絶命させた。

 マリの斬撃はグラトニーの真空波よりも鋭いかった。


「こ、こっちに来ないで!」


 必死に射撃しているイチカ。銃口の先にカマイタチが回転しながら突撃を仕掛けていた。


『ギギギッ! ガッ!』


 獲物に狙いを定めたカマイタチが蛇行しながらイチカのビームライフルの弾を避けながら近づいていく。

 回転の勢いをつけて鋭い尻尾をイチカの頭にぶち込もうと振り下ろしていく。


「キャ!?」


 悲鳴を上げながらも横に回避して、ライフルのストックをぶつけて吹き飛ばし。

 最高のタイミングのカウンターを無意識にやった。


「チャ、チャンス!」


 それを確認したイチカがチャンスと言わんばかりにエネルギーグレネードをぶん投げて爆撃をぶつけた。


『ギャッ⁉』

 

 その爆発に飲み込まれて霧散していくグラトニー。

 体全てが翡翠の光によって消えていった。


「やっ、やった……」


 なんとか倒せてホッと一息つく。


「イチカ、腕大丈夫か?」

「う、運が良かったみたいで……傷一つ付いていません」


 カマイタチのつむじ風に近接戦を仕掛けたが、腕には傷跡は無かった。おそらくストックを当てた瞬間につむじ風の威力が弱まったとイチカ自身はそう推測した。


「なによ」

「な、なんですか⁉」


 ソウォンがイチカを見て、


「及第点以上の腕はあるじゃない。なにビビってんのよ」

「へ?」


 怒られると思ったイチカだが、ソウォンのその一言に呆気を取られる。まさか、褒められるとは思わなかった。 


「数が多い……敵の本拠地だからか、こっちに大勢向かって来ているぞ!」

「無駄な消耗は避けたい、とは言ってられないわね!」


 グラトニーにとってもこの場所は大事な場所だということだろう。

 数がいつもより多く、攻めの勢いも強い。


「トラノスケ、私が前に出る。合図を送ったら撃ってほしい」

「いつものだな、わかった!」


 この状況を打破するため、トラノスケとリオが攻勢に出る。

 リオは両手の愛銃、『ジャック&エース』を握りしめて敵陣に飛び込んでいく。銃口を光らせながら敵集団の中央に着地、そのまま回転して周りの敵を一掃する。

 そしてトラノスケはリオにビームバルカンを向けて、 


「踊ってこい!」


 射撃。

 ビームバルカンの弾幕はリオの方に向かっていき、


「――『光射す道(ライトニングカレイド)』!」


 リオが目を光らせてキセキを発動させる。


「『ミリオンバレッツ』!」


 彼女に向かって放たれたビールバルカンが軌道を変えて、敵のグラトニーに風穴を開けては他のグラトニーの身体にも穴を開けていく。一発のバルカンで三体以上貫くように操っている。

 さらに自由に弾幕を操りながら、リオはサブマシンガンをビームダガーモードに変更。弾幕に身を潜ませながら、グラトニーの横を通り抜けては真っ二つにしていき、一瞬で無数のグラトニーを灰に変えていく。


「もう一発!」


 最後にトラノスケがハイドラグンのビームキャノンを発射。それは残ったグラトニーたちに目掛けて飛んでいき、その肉体を翡翠の光で燃やし尽くしていく。

 グラトニーは一気に数を減らしていった。


「ヒュー、大暴れね。燃えてきたわ!」

「さすが指揮官さまと隊長さん! 息ぴったりですね!」


 トラノスケとリオの活躍っぷりに味方も士気が上がっていく。


(トラノスケがいれば、どれだけ敵の数が多かろうが問題ない!)


 リオも心が震え上がる。

 自分たち二人ならどんな敵でも倒せる。

 一人で全てのグラトニーを相手にしてやろうと思っていた、あの頃では抱くことのなかったこの気持ち。

 勝利への思いにリオは引き金を強く引きまくる。


「このままじゃあハイスコア更新されちゃう。第00小隊にばっか活躍させてはいけないわ!」

「ソウォン、こっちも頑張ればいいよ」

「おい、またくるぞ! 侵食樹の方向から!」

「まだいるのね」


 ソウォンからしてみればちょうどよかった。今度は第02小隊たちだけで殲滅してやろうかと意気込む。

 エースとしての自覚があるのだ、仲間が活躍しているところを見たらそれ以上に戦果を上げたい、そんな負けん気を持っているがソウォンなのである。


「いや! 敵だけじゃない!」

「え⁉」


 だが、向かってきているのはグラトニーだけではなかった。


「嵐のような風の大玉がやってくるぞ!」

「なにッ!?」

「なんですって!?」


 索敵ドローンのカメラに空を高速で飛んでいる嵐を見かけた。直撃でもしたらただではすまない。


「方向は――小笠原指揮官の部隊がいる方向だ!」


 そしてその玉は自分たちではなく、仲間の部隊のところに飛んでいたのであった。

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