45,中央広場にて
安酒場を出てから、僕らは中央通りへ向かった。さすがにこの辺りまで来れば、ベルもそこまで目立つ事はない。
何しろこの通りは討伐の行き帰りに、必ずウィスタリアが姿を見せる場所なのだから。
「あ、このお店はどうですか?」
「良いですね、のぞいて行きましょう」
リラとベルが通り沿いの店を見て回るのを、僕は一応護衛らしく一歩下がって付いて歩いた。リラの方は護衛の事をすっかり忘れているようだが、まあ対人戦闘は僕の仕事だから良しとしよう。
とは言え、護衛と言っても怪しい人物の見分け方なんて知らないし、ただの暴漢程度ならベル本人が返り討ちにするから、ひとまず僕は魔力持ちの方を警戒する事にした。これなら警戒すべき人物をかなり絞り込めるだろう。
魔力持ちは通り沿いの店にも数人いたが、おかしな行動をする者はおらず、皆クラレットと同じく魔力持ちである事を隠して生活しているだけのようである。
「ライくんもどうぞ!」
「おいしいですよ」
そんな事を考えていると、突然リラが黒い物体を差し出してきた。
「え…、何これ?」
結局、ベルが誰かに狙われるような事もなく、お昼近くになって僕らは中央広場の方へと移動した。
お昼時の中央広場は、既に大勢の人々で賑わっていた。
「さあ、約束通り何でも奢りますよ」
そんなベルの言葉に、今度はリラも反応しなかった。他でもない彼女自身が、食べ物探しに夢中だったからだ。
少し進んで行くと、広場の中心付近に人だかりが出来ているのが見えた。その真ん中には舞台があって、何やら演説をしている人たちがいる。
「…救世神話に曰く、初代国王は英雄であった!」
断片的に聞こえて来る話の内容からして、前にクラレットが言っていた過激な英雄崇拝者たちのようだ。
「あちらへ行きましょうか」
ベルは苦笑しながら、その団体を避けて進んだ。まあベルが見つかると面倒な事になるかもしれないし、その方が賢明だろう。
そうして進んだ先で、今度は見知った顔に声をかけられた。
「よう、今日はお揃いだな」
その言葉に振り返ると、そこに居たのはラセットだった。
大抵の場合、討伐に出たら何かあっても門前広場で済ませ、中央広場まで戻って来る事はない。今ここにいるという事は、彼も今日の討伐は休みなのだろう。見ればラセットは、剣を持っていなかった。
「…ベルも一緒と言う事は、とうとうアレに気付いたのか?」
ラセットは大分ぼかして言ったが、まあ間違いなくベルの素性の事だろう。本当に僕以外は皆知っていたようだ。
「いいえ。最後まで気付きませんでしたが、今はもう知っていますよ」
ベルはそう言って、大袈裟に肩をすくめてみせた。
「…知っているならいいか」
だがラセットの本題は、それではなかったようだ。ベルの返事を聞いた彼は一つ頷いてから、身を屈めて囁くように言った。
「広場のあちこちに、何かを見張っているような怪しい連中が居るんだが、何か心当たりあるか?」
その言葉に僕は息を呑んだ。いつの間に、そんな連中に囲まれていたのだろう。僕は慌てて魔力の感知範囲を限界まで広げた。
「最初は舞台の上の連中でも見張っているのかと思ったんだが…、もしヤバそうだったら手を貸すぞ?」
怪しい連中に続いてベルの姿を見かけて、もしかしたらと声をかけてくれたようだ。隙あらばフォローに回るのは、相変わらずのようである。
しかしそれに対してベルは、額を押さえて深い溜め息を吐いた。
「あ~…、すみません。それは恐らく伯父様か兄様が付けた、私の監視兼護衛でしょう」
その言葉に僕は、ホッと胸を撫で下ろした。どうやら不審者の類ではないようだ。
「父様の許可はとっていたのですが…」
魔力の反応を見る限り、僕らを除けば今この付近に討伐者らしき者はいない。居るのは、僕らを囲む位置から動かない魔力持ちだけである。
更にその内の一つは、かなり強い光か聖だ。強力な光属性の不審者という事でもない限り、恐らくこれはウィスタリア本人だろう。
ひとまず安心したところで。
僕の感知範囲ギリギリの所に、もう一つ気になる物を見付けた。
それは光ではなく、むしろその逆で一切の光を返さない何か。
真っ暗な穴のように、見えないからこそ逆に目を引く存在。
異質でありながら、よく知っているこの反応は…。
「この広場に…、魔物がいる?」




