39,ベルとの再会
「いやはや、申し訳ございませんでした。ご案内する部屋を間違ってしまったようです。この件については、くれぐれもご内密に。…特にベルディグリ様には」
改めてベルの待つ部屋へと向かう道すがら、老紳士はそう言って念を押して来た。王様と会った事を絶対に話すな、という事か。まあ、あまり言いふらすような事でもないけれど。
今度はさほど歩かされる事もなく部屋へと到着し、僕らはようやくベルとの再会を果たしたのである。
「ようこそ、いらっしゃいました。ライ君、リラちゃん。お久し振りですね」
その部屋は先程のものよりも、少しだけ落ち着いた雰囲気だった。恐らく先程の部屋は王様用で、調度品などもより高価だったのだろう。それ以外は大体同じで、中央のソファには僕らのよく知る人物が澄ました顔で座っていた。
「わあ、ベルちゃん! お姫様みたい!」
豪華なドレスに身を包み、僕らを待っていたのはサウスラントのお姫様、ベルディグリ王女その人であった。
リラの言い方はちょっとどうかと思うが、一応ドレス姿を褒めているのだろう。
「本物のお姫様ですよ」
それを分かっているのだろう、ベルは冗談めかして答える。うん、やはり彼女は僕らの知るベルだった。
「久し振りだね、ベル」
僕も慣れないお城で、多少緊張していたのだろう。ようやく知った顔を見れて、懐かしさよりも先に安心感を覚えた。
「…一応、驚かせようと思って気合を入れたのですが。ライ君は本当に、私に興味がないんですね」
しかしベルには、それが不満だったようだ。一応彼女が凄い格好をしている事には、ちゃんと気が付いていたのだが…。
いきなり王様が出て来た後で、久し振りとはいえ知った顔を見たら、それはまあ驚くよりむしろ安堵もするだろう。それについての文句は、王様に言って欲しいと言いたい。口止めされているので言えないけど。
召使いらしき人が紅茶の用意をして部屋を出て行った。
僕らに改まっての挨拶は不要だろう。部屋に僕らだけになると、さっそく思い出話に花が咲いた。
「結局ライ君は、リラちゃんが言うまで気付かなかったんですね」
まあ、主に僕がベルの素性に気付かなかった話なのだが。
「初めは素性を隠して、一訓練生として過ごしたいと思っていたはずなのに、気付けば食の殿堂へ連れて行ったりとか、逆に気付かせるような行動をしていたはずなんですが…」
うん、まぁそれは、食の殿堂の凄さに圧倒されて、ベルの方にはあまり注意が向いていなかったからかな。
「他にも門番に無理を言って町の門を開けて貰ったのは、今思うとやり過ぎなくらいだったと思うのですが…」
確かにそれも、凄過ぎるなとは思ったのだが。その直後に、もっと凄い事が起こったから。
「…そうですね。それに関しては私も思わぬ収穫がありましたから、後悔はしていません」
これに関しては、ベルも僕と同じ気持ちなのだろう。あの件がなければ、僕らは身近な英雄の存在に気付けなかった。反省すべき点はあるものの、後悔はしていない。
僕らはどちらからともなく、リラの方を見た。
「え? 何ですか?」
当のリラは紅茶に口を付けていて、あまり聞いていなかったようだ。
「いつの間にやら想定とは真逆の日々でしたが、まあそれも今となっては楽しい思い出です」
僕としても、あの三年間は楽しかったと言えるだろう。罰掃除を含めたとしても。
そんな総括でひとまず納得したのか、ベルは僕への追求を止めて話題を変えた。
「それで、リラちゃんは魔力を扱えるようになったんですか?」
突然、追及の矛先が自分の方へ向いて、リラは紅茶を吹き出しそうになった。
「えっと…、ベルちゃんこそ、お城ではどうしてたの?」
そして返答に窮したリラは、更に話題を変えた。
「そうですね。私は騎士たちに混じって伯父様…、ウィスタリアの特訓を受けたりしていました」
兵士や騎士と言うのは、戦闘訓練を受けた魔力なしの人達の事である。この国では、魔力持ちは討伐者になる事を推奨しているので、さすがに門番たちまで全員魔力持ちで揃える事は出来ないのである。
「後はライ君の魔術に刺激を受けて、攻撃以外にも色々と試したり。例えば、風魔術で自分の声を大きくする事が出来るようになりました」
そう言ってからベルは、実演をしてみせた。
「これも! 兵士へ号令をかける時なんかに! 便利なんですよ!」
見た目はお姫様が澄まして喋っているのに、声だけは叫び声のようで、見ているとちょっと頭が混乱する。
いずれにしても結論としては、ベルはやっぱりお姫様らしくないという事だった。僕が気付かなかったのも無理からぬ話なのである。




