38,再会の前に
クラレットと別れてから、僕らは門番にお城の入口まで連れて行かれた。そしてそこからは、身なりの良い老紳士に案内される事となった。
恐らく執事とか侍従とか、そういった人なのだろう。どう違うのか僕は知らないが。さておき老紳士は廊下を歩きながら、お城における注意事項を説明してくれた。
「城の中ではくれぐれも私から、はぐれないようお願い致します。ここには王族の方々もいらっしゃいますので、見慣れない者が案内もなしに歩いていた場合、念の為拘束する事になっております」
さっきのクラレットの件といい随分と物々しいが、王様もいる場所ならこんなものか。
それからも結構な距離を歩かされて、大分高くまで登ったところで、僕らはようやくその部屋へと辿り着いた。
「お話が終わっても、私がお迎えに上がるまで、決して部屋からお出にならないで下さい。拘束されますので。それでは」
僕らが部屋へ入ると、老紳士はそう言って外側から扉を閉めた。
外観の無骨さとは違って、その部屋は随分と煌びやかだった。部屋全体に絨毯が敷かれ、数々の調度品が飾られ、真ん中には大きなテーブルとソファ。どうやら家主が、客の相手をする為だけの部屋のようだ。
そして今、そのソファに堂々と腰を下ろしていたのはベルではなく、見覚えのない中年男性だった。ここから改めてベルの所まで案内してくれるようには、到底見えない身なりである。むしろこの部屋の主と言われた方が納得の出で立ちだった。
「やあ、よく来たね」
男は言った。
「いや失礼。実は娘が友人を招いたと聞いたのでね。少々無理を言って、こっそり先に会わせて貰った」
僕らを呼び出したのはベルであり、そのベルを娘と呼ぶこの男性は、つまり…。
「お、王様!?」
リラが驚きの声を上げた。
「まあ、そう構えずに。楽にしてくれて構わないよ」
緊張して固くなるリラに対して、王様はそう言って気さくな笑顔を見せた。
「は、はい!」
その様子は相手が王様である事を考えると、僕にはむしろ胡散臭く見えたが、額面通りに受け取った彼女は、すんなりとソファへ腰を下ろした。…まあ彼女が警戒していないのなら、多分問題はないのだろう。僕はやや緊張しながらも、彼女の隣に腰を下ろした。
「それでは改めて自己紹介だ。兄上ほど有名ではないが、私はセオドリック。このサウスラントの国王をしている」
僕はここで、初めて王様の名前を知った。
「ええと、君がライムライト君で、君がライラック君かな?」
一方の王様は、僕らが孤児院出身である事も、訓練所の卒業生である事も、現在は討伐者をしている事も全て知っていた。
まあ僕自身は知らなかったとは言え、お姫様と同期だった訳だし、僕らの事は一応調べてあったのだろう。
「良かったらあの子が、訓練所でどんな様子だったか教えてくれないかな? あの子は自分から、あまり話さなくてね」
「えっ、は、はい、そうですね…」
そう聞かれてリラがした話は、いかにも同性の友人同士といった感じのものであり、まあぎりぎり微笑ましいと言えなくもなかった。
だが王様が何をどこまで知っているのか分からない以上、僕が知る訓練所での武勇伝は言わない方が良いのだろうな。僕は王様の相手をリラに任せ、黙っている事にした。
やがてリラの話が一段落すると、王様はふと真面目な表情になって言った。
「なるほど。しかしあの子もそうだが…君たちは、死が怖くないのか?」
唐突とも思える質問。
しかしそれ故に僕は、この邂逅もまた運命であったと理解する。恐らくはリラの、英雄としての覚悟を問うているのだろう。
その質問に対して、リラは特に構える様子もなく答えた。
「怖いです」
その言葉を聞いて、一瞬とは言え彼女を疑った事を僕は恥じる。
彼女の言葉には、続きがあった。
「…だから皆を守れるようになりたいと思います」
「!」
死と聞かれて彼女は、初めから自分を度外視していたのである。
そしてその言葉を聞いた僕は、訓練所で初めて彼女と出会った時の事を思い出す。あの時も彼女は、そう言ったのだ。皆を守りたい、と。
「フッ」
今更ながらに彼女が英雄である事を、思い知らされた気分だ。
「ふふっ、そうか…」
彼女の答えを聞いて、王様も低く笑った。きっと僕と同じ気持ちだったのだろう。
「さて、そろそろ君たちを解放しないといけないな。今日の事は、あの子には内緒にしておいてくれ」
そう言って王様が呼び鈴を鳴らすと、先程の老紳士が部屋に入って来た。
セオドリック:お前たち英雄志願者どもには人間らしい感情がないのか?(意訳)




