37,お姫様からの召喚状
驚きの事実が判明したその翌日。僕らは早めに討伐を切り上げて、王都へと戻って来ていた。
「…今日は、あんまり集められなかったですね」
リラは、そう言って肩を落とした。
それと言うのも、今日は開き直った彼女と王都周辺で討伐をしたのだが、一昨日の彼女の大量討伐の話がすっかり広まっており、会う人会う人みんなに『俺たちの分も残しておいてくれよ』と、冗談半分本気半分で言われたのである。そんな訳で、さすがに遠慮して早めに切り上げた、という訳なのだ。
そんな僕らが交換所までやって来ると、普段であれば窓口にいるはずのクラレットが、人の少ないホールの中を何故か落ち着きなく行ったり来たりしていた。
「あ! ライさん、リラさん!」
僕らに気が付くと、彼女は血相変えて駆け寄って来た。
「ラリーちゃん、こんにちは〜」
どう見てもそれどころではない彼女に対してリラは呑気に話しかけるが、クラレットはそれを無視して手に持っていた紙を突き付けて来た。
「大変ですよ! お二人宛てに、お城から召喚状が届いてます!」
「………」
お城という言葉を聞いて僕はリラの方を見たが、その同じタイミングで彼女はどこか明後日の方を向いた。どうやら犯人は彼女で間違いないようだ。
「あ~…えっと、勝手にバラしちゃったから、一応連絡をしたんですけど…。こんなに早く返事が来るとは…」
彼女が今もベルとそんな気軽に連絡を取り合える事にも驚いたが、取り敢えず正式な召喚状であるなら行かない訳にはいかない。
召喚状というのも随分と仰々しい気はするが、まあ僕の知っているベルなら、わざとそういう事をやりそうではある。お姫様であったとしても、彼女は相変わらずのようだ。
「それで、いつ行けばいいのかな?」
僕はちょっと懐かしい気持ちになりながら、クラレットにそう尋ねた。すると彼女は大きな声で簡潔にこう言った。
「今日! これから! すぐですよ!」
「「…え?」」
僕らはクラレットが慌てている理由を、ようやく理解した。
王都は歴史の古い町であり、昔はもっと小さな円だったらしい。
しかし国の発展と共に南へ南へと拡張されて、現在は北の丘に位置する王城を起点として扇型になっている。そんな王都の中央を真っ直ぐに貫く大通りを、僕らは北へ向かって歩いていた。
「う~、ちょっと緊張するね」
「はい、私も王城は初めてなので…」
リラの言葉に、その隣を歩いているクラレットも同意する。
何でも呼ばれたのは僕らだが、召喚状自体はギルド宛てに送られて来たので、ギルド職員が責任を持って王城まで連れて行かないといけないらしい。
そこで見習いであり僕らと知り合いでもある彼女に、練習を兼ねて話が回って来たのだとか。
先程も言った通り王都は北へ向かうほど古めかしく、それが僕ら庶民には少々威圧的にも見えた。まあ実際にお金持ちや、国の要職に就いている人達が住んでいるので、その感想もあながち間違いではないだろう。僕もさすがに、少し緊張している。
やがて王城の近くまでやって来たが、改めて近くで見るお城は全体的に角ばっていて、思っていたより意外と無骨だった。
「何だか、遠くで見ていたよりゴツゴツしてますね」
そんなリラの感想と同じく僕も、もっとお金持ちの家っぽく煌びやかな感じだと思っていた。
「サウスラントは自由の国であると同時に、ずっと魔物と戦って来た国ですから」
クラレットの言葉に納得する。徐々に拡張していったのなら、あの町を守る分厚い防壁も昔はなかったのだろうし、砦のような意味合いもあったのかもしれない。
「?」
そんなお城の前にある小さな広場には、何故か似つかわしくない紙ゴミが散らばっていた。よくよく見れば、それには『英雄ウィスタリアを王に』と書かれている。どうやら昨日のクラレットの話にもあった、過激な英雄崇拝者の仕業のようである。
「昨日話した人達の中には、こういう事をする人達もいるんです。でもウィスタリア様も王族なので、別に王族自体を否定している訳ではないからと、国王様も大目に見ているみたいです」
そしてついに王城の門の前まで来ると、クラレットは緊張した面持ちで門番に声をかけた。
「すみません、討伐者ギルドです。召喚状にある討伐者二名をお連れしました」
そう言ってクラレットが門番に召喚状を見せると、門番の一人が彼女に詰所で待つように告げた。
「ギルドが責任を持って召喚状の人物を連れて来た事を保証する為に、お二人がお城の中に入っている間、私はここで待たないといけないんです」
まあ確かに言われてみれば、ベル以外のお城の人は僕らを知らない。だからギルドを通したのか。
「お二人がお城の中で問題を起こしたら、私も罰せられますから! お話が終わったら、真っ直ぐ戻って来て下さいね!」
詰所へと向かう間も、クラレットは必死に念を押してきた。
「ラリーちゃんってば、心配性だなぁ」
それをリラは微笑ましく見送っていたが、クラレットが心配しているのは僕らの身ではなく、僕らが何かやらかさないかの方だと思う。