33,新しい約束
僕らが安酒場を追い出された後、三人組はそのまま意気揚々と討伐へ向かった。
「それじゃあ、僕らも行こうか」
いつもより少々遅くなってしまったが、僕らも討伐へ向かおうかと思ったが、何故かリラの反応は鈍かった。
「…どうかした?」
不思議に思って問いかけると、彼女は少し不機嫌そうな顔で言った。
「今日はもう、このままお休みにしませんか?」
いつも元気な彼女らしからぬ様子だった。そう言えば、先程の三人組との話し合いにもあまり入って来なかったし、もしかしたら少し疲れているのかもしれない。
「………」
そう考えてから改めて僕は、聖属性の負担がどれくらいのものか知らない事に気が付いた。他の五属性についてはおおよそ知っているが、聖属性は絶対数が少ないのでこれまでそういった話を聞いた事がなかった。
これは僕の落ち度だろう。もっと僕が気にかけるべきだった。ただでさえ今は訓練も兼ねて、ほとんどの魔物を彼女が倒しているのだから。
今回は彼女自身が言い出しているくらいだ。今日はもう休んだ方が良いだろう。
「分かった。今日は休みにしょう」
「! …はい!」
僕が了承すると、彼女は思っていた以上に喜んだ。そんなに辛かったのかと、僕は反省する。
「それじゃあ、また明日。朝食の時に落ち合う、で良いかな?」
そう言って僕は部屋へ戻ろうとした。実は昨日の余韻に浸っていたので、今日は朝の掃除がまだ終わっていないのだ。
「え!? どこへ行くんですか? 一緒に街を見て回りましょうよ!」
しかし何故か驚いた彼女に、引き留められてしまった。
「え? でも今日は討伐に行かないんだろう?」
僕が力になれるのは、魔力を引き出す事だけだ。それに疲れている時は、大人しく部屋で休むべきである。それなのに彼女は、一体どうしたというのだろう。
「…分かりました。じゃあ私が奢ります! それなら良いですよね?」
有無を言わさぬ調子で、彼女はそう提案してきた。
確かに以前、そんな感じの事を言ったかもしれない。しかし共同討伐のお陰で、今の僕と彼女の稼ぎは完全に同じである。収入のなかった訓練所時代ならともかく、今彼女に奢らせるのはさすがに気が引ける。
「?」
そこまで考えて、僕はその違和感に気が付いた。
彼女が一つの事に、妙にこだわる。これはクラレットの時と全く同じである。討伐には行かず、部屋で休む事もしない。しかし街は見て回る。それはつまり、今度は街中で何かが起こる、という事か。
この王都で彼女の力を必要とするような事件が起こるなど、にわかには信じ難いが、運命に導かれた彼女であれば有り得ない事ではない。彼女自身は自らの運命に無自覚なようだが、そんな彼女が運命に導かれるまま、未知の魔物を討伐したのは、つい昨日の出来事である。
そうと分かれば、同行を断る事など出来ない。むしろ、こちらからお願いしたいくらいだ。
「まあ? あの人たちにも奢って貰っていたみたいですし? 嫌とは言いませんよね?」
それはそれとして、奢ると言われたから態度を変えたと思われても困る。
本来の僕は、他人を遠ざけている訳でもなければ、奢りと言われてホイホイ付いて行く人間でもない。ここは何か、別の理由付けが必要だろう。
「…分かった。それじゃあ、今まで奢って貰ったのと同じ分だけ、これからは自腹で付き合うよ」
僕はその約束に、明確な回数も金額も定めなかった。いつか彼女に僕の協力が必要なくなった時、この約束だけ残っても困るだろうから。
「! …それじゃあ一旦戻って、装備は置いてきましょう。今日はもう、絶対働きませんよ!」
僕が承諾すると、彼女は上機嫌になった。どうやらこれが、正しい運命の選択らしい。
しかし、何か起こるというなら剣は持っておいた方が…いや、彼女が必要ないと言うのだ。きっと、ただ魔物を討伐するような、そんな簡単な事ではないのだろう。
そうして僕らは一度下宿へと戻り、身軽な服装になってから街へと繰り出したのだった。
リラ︰ちょっと奢って貰ったら、す〜ぐ仲良くなっちゃうんですね!




