32,三人組と魔術談義
翌日の朝は、まだ昨日の余韻が残っていて、いつもよりゆっくり部屋を出た。
彼女が大型の魔物を討伐したのは、一年振りくらいになるか。あの頃と違って剣の扱いを覚えた彼女の前では、大型の魔物ですら一撃だった。今となっては、あの時の不格好な取っ組み合いなど、言っても誰も信じないだろう。
「フッ」
そんな事を考えながら外に出る。下宿の前の通りには人影もまばらで、今日も朝のゆったりとした空気が流れていた。
「いたぞー!」
そんな空気をぶち壊すように、暑苦しい雄叫びが響き渡った。
「あいつだ!」
「逃がすな!」
それに呼応して、路地からは更に二人の人影が姿を現す。よく見れば、それは昨日も会った例の三人組だった。彼らは僕の方を指差しながら、必死の形相でこちらへ向かって駆けて来る。
「………」
よく分からないが一応念の為、僕は目潰しの用意をしながら迎撃の構えを取る。
すると彼らは僕の目の前で急停止したかと思えば、横一列に並んでそのまま勢い良く頭を下げた。
「戦い方を教えてくれ!」
「ついでに魔術の使い方も!」
「ケチケチすんなよ!」
そのあまりの急展開に、ちょっと頭が追いつかなかった。
「…は?」
僕が何も言えないでいると、彼らは口々にこのような行動に出た理由を話し出した。
「いや、あの後お前の言う通り、バラバラに戦ったんだけどさ…」
「まあ、心細さとかはあったんだけど…、やり易さもあったんだよな」
「そうそう」
彼らがここにいる理由は分かったが、その為に何の当てもなく朝から走り回っていたのか。まあその考えなしは、僕の中の彼らの印象と完全に一致するが。
しかし言っておいて何だけど、彼らに僕のアドバイスに従う素直さがあるとは思わなかった。そして教えを乞おうとする情熱も。まあ礼儀は知らないようだが。
「ふむ…」
別に彼らに対して、何かを教える義理など全くないけれど、それはそれとして少しだけ訓練所時代を思い出して懐かしい気持ちになった。皆で魔術について語り合った事や、その始まりとなった出来事を。
だから僕は、こう言った。
「朝食を奢ってくれるならいいよ」
僕はいつもの安酒場を指差して、ニヤリと笑った。
「おまっ、昨日の大型も持って行ったくせに…」
けれど彼らは、そう言って難色を示した。やはりお金持ちの子息のようにはいかないようである。まあ確かに彼らの稼ぎは少なそうだが。
「嫌なら別に」
しかし、これは儀式みたいなものだ。昔を懐かしむ僕にとっての、ちょっとした通過儀礼。
「ちょっと待った! この酒場のでいいんだな。分かったよ!」
結局、彼らはすぐに折れて、僕は無事に朝食を奢って貰う事が出来た。
店へ入ってから一人前の朝食を受け取ると、支払いは彼らに任せてさっさと席に着く。すると彼らもその向かいへ並んで座り、僕らは改めて自己紹介をした。
右から土属性のブリックと、水属性のデニムと、風属性のアイビー。魔力属性以外は似たり寄ったりなので、それだけ覚えておけばいいだろう。
そしてその後の彼らとの話し合いだが、これが意外と盛り上がって、遅れてリラがやって来てからも続き、最終的には朝食の時間が終わって店主に追い出されるまで続いたのだった。
と、それだけだと何なので、以下に三人組と話した内容の一部を記す。
取り敢えず剣術に関しては僕も、ひたすら剣を振れくらいしか言える事がない。なので魔術を主体に話をするとして、まずは大まかな方針を決めよう。
最初は土属性のブリック。
土属性は攻撃も防御も得意だが、本人の技量が伴っていないので、ラセットのようにはいかない。魔物の攻撃は自力でかわす事にして、魔術はあくまで補助的な攻撃手段と割り切った方がいいだろう。
「ラセットって誰だよ?」
次に水属性のデニム。
以前の魔術談義には水属性がいなかったので、これまであまり考えた事がなかった。なので差し当たってここでは、ゼニスがやっていた戦い方を教えようと思う。
「いやゼニスって誰だよ、俺はデニムだよ」
そして最後は風属性のアイビーだが…。
技量が違い過ぎて、ベルの戦い方を真似る事は不可能だろう。
「だからベルって誰だよ?」
しかしウィローがやっていた崩しも、決して簡単ではない。あれも彼が体術を習っていたから出来た事だ。正直アイビーの技量では、まともな戦い方が思い付かない。
「俺だけ扱いが酷くない!? あとウィローって誰だよ?」
なのでいっその事、風の球でも作ってみようか。
「は? 球?」
魔物は火球と光球の区別がつかない。だったら風でも、同じ事が出来るかもしれない。そして三人とも強くはないので、魔物に囲まれないよう牽制に使うのだ。これなら当てる技量も必要ない。
「強くないは余計だろ。でも牽制だったら別に、土でも水でも出来るだろ?」
いや、それは違う。風属性は攻撃力が低く、火属性よりも負担が軽いから意味があるのだ。風以外でやっても、それはただ攻撃を外しただけ。それよりは当てる努力をした方が良い。
「それもそうか」
と言う事で、ここからはもう少し話を詰めていこう…。




