30,これは運命
朝食を終えて安酒場を後にした僕らは、乗合馬車の停車場へ向かって小走りをしていた。
「この調子だと、馬車に間に合わないかな?」
思いの外、話し合いに時間をかけてしまった。乗合馬車は乗客が一人も居ない時は結構待ってくれるが、逆に何人か居てそれ以上来そうにない場合は、早めに出発する事もある。
「構いません。今日は王都の周りでいっぱい残滓を集めて、クラレットちゃんをびっくりさせましょう!」
まさか、変に目立つのを嫌っている彼女から、そのような提案が出るとは思わなかった。どうやら今日は、本当にやる気のようだ。彼女がその気になれば、王都周辺の魔物など残らず狩り尽くせるだろう。
それもこれも、クラレットと仲良くなる為だからか。まあ英雄にだって、友達が居てもいいだろう。
やがて中央広場に差し掛かる。朝だから比較的空いてはいるが、それでもここは町の中心だ。既に多くの店が開いていて、朝食をゆったりと楽しむ人や、のんびりと軒先を見て回る人の姿があった。
「あ、クラレットちゃん!」
そんな人々の中から、リラが見知った顔を見付ける。見れば前方から歩いて来るのは確かに今話題の人、クラレットだった。
「あ、リラさんに…、ライさん」
少し驚いた様子だったが、彼女の方も僕らの名前を覚えてくれていたようだ。僕の名前を口にする時だけ、声が低くなった気もするが。
「今日はどうしたの?」
「あの、今日は、お休みなんです。だから、朝のお散歩に…」
さっそく嬉しそうに話しかけるリラだったが、肝心のクラレットは何だか落ち着かない様子である。
「そうなんだ! 私たちはこれから討伐に行くんだけど、見た事ないくらいいっぱい残滓を集めて来るね!」
「そ、そうですか、凄いですね…」
その後もリラは気付かずに上機嫌で話しているが、クラレットの方は相変わらずぎこちない。むしろ僕の方を、チラチラと見ている気がするのだが。
「………」
昨日は結局、丁度確認が終わって書類が戻って来たところで、彼女が少し強引に話を終わりにした。そんな彼女がもし僕の事を気にしているとしたら、理由は魔力持ちの話しかないだろう。
「…昨日の話なら、他所ではしてないよ」
僕が小さな声でそう言うと、少しだけ彼女の緊張が解けた気がした。
「そう、なんですね…」
何の話とは言わなかったが、彼女にはきちんと伝わったようである。これで少しはまともな会話になるかと思ったが、いつの間にかリラが何も言わなくなっていた。
不思議に思って隣を見ると、彼女は黙ってどこか遠くを見詰めていた。
「あの三人…」
彼女が、不意にそう呟く。
見ればクラレットの後ろ、ずっと向こうを、昨日交換所で騒ぎを起こした三人組が歩いていた。
あの後どうなったか知らないが、今日もこれから元気に討伐へ向かうようだ。一応知った顔ではあるものの、正直彼女が気にするほどの事とも思えない。
しかし三人組に気付いたリラは、急に真剣な表情になって言った。
「追いかけましょう!」
そして強い意志をもって、クラレットの手を取った。
その緊迫した彼女の様子は、僕に一年前のあの日の事を思い起こさせた。
唐突に、僕は理解した。これから彼女の力が必要な、何かが起こるのだと。
今ここには彼女が居て、クラレットが居て、あの三人組が居る。昨日の関係者が全員だ。これが偶然などであるはずがない。
僕は、なんて愚かだったのだろう。自分の尺度で彼女を量り、分かった気になっていたなんて。彼女がここまでする理由が、ただ友達になりたいだけだなんて、そんな事あるはずがなかったのに。
今この瞬間に、これまでの事が全て一つに繋がり、運命が回り出したのだ。まだ結末は分からないが、その答えはきっとこの先にある。
「えっと…、あの?」
リラに手を引かれながら、クラレットは助けを求めるように僕を見た。
しかし僕は彼女の後ろへ回ると、その背中を押してリラに追従した。
「それじゃあ、行こうか」
「え、えぇ!?」
途中で、門番がチラリとこちらを見たが、止められる事はなかった。
そして僕らは三人組の後を追って、二人がかりでクラレットを町の外へと連れ出したのである。
リラ:あの三人なんて、どうせ大した事ないんだから。みっともないところを見せれば、クラレットちゃんもスッキリするよね!




