29,安酒場の朝食
屋根裏部屋と聞いて、どんなものを思い浮かべるだろうか。
ここ王都においても、屋根裏部屋は最上階にある他より狭い部屋であり、基本的に稼ぎの少ない若者が借りる部屋である。
討伐者となった今の僕らであれば、もう少し良い所を借りられるのだが、贅沢慣れしていない僕らにはこの辺りがちょうど良い。
僕らは今、王都の中心から外れた所にある下宿の、屋根裏部屋を借りて住んでいる。
朝早くに目を覚ました僕は、既に習慣になっている掃除洗濯を始めた。
訓練所にいた頃は夕方にやっていたが、今は遅くなる事もあるので自然と朝にするようになった。
朝する事を済ませたら、身支度を整えて部屋を出る。そして長い階段を降りて外へ出ると、まだ通りには人の姿もまばらだった。
ノースラントには作物の育たない時期があるそうだが、ここサウスラントでは年中何かしら採れるので、人々の暮らしは割とゆったりしている。
通りを渡って近くの安酒場へ入ると、テーブルにはポツポツと人が座っていた。と言っても、別に酔っ払いが居座っている訳ではない。この酒場では一晩中営業した後で、仕事終わりに余り物で安い朝食を提供しているのである。
店主にお金を渡して一人分の朝食を受け取ると、僕は手近なテーブルに着いて食べ始めた。あくまで酒場なのでメニューの幅は狭いが、そこは王都だ。食材が良いのか店主の腕が良いのか、値段の割に美味しい。
しばらくすると、遅れてリラもやって来た。
「おはようございます…」
やや俯いて歩くその姿は、いつも朝から元気な彼女にしては覇気がなく、どこか眠そうに見えた。
「おはよう。…クラレットの事かな?」
挨拶と同時に僕がそう尋ねると、彼女からは力ない肯定が返って来た。
「はい、彼女に何か言ってあげたかったんですけど…」
昨日、交換所を出た後の様子から、そんな気はしていたけれど。ついあの少女の事を考えてしまって、眠れなかったのだろう。
「…分かった」
僕は昨日、ある決意をした。
もしも一晩経っても、彼女の気持ちが変わらなければ、これを何らかの運命と考え、僕も真剣に取り組むと。
「ここからは僕も一緒に考えよう」
まだ言葉にはならなくとも、彼女がクラレットに何かを感じているのなら、僕はその勘を信じよう。
「ほんとですか!」
僕が真面目な顔でそう言うと、彼女は驚いた顔で目を見開いた。僕がそんな事を言い出すとは、思っていなかったらしい。
「ちょ、ちょっと待ってて下さい!」
彼女はそう言って、大急ぎで朝食を買って戻って来ると、僕の向かいに腰を降ろした。
「さあ、何から考えましょうか!」
先程までが嘘のように溌剌としている。うん、これでこそ彼女だ。
それでは順を追って考えてみよう。
まずクラレットの抱く罪悪感だが、これは実体のないものである。
ここサウスラントは王様が討伐者を増やす政策を採っているので、既に他所よりもずっと討伐者の数が多いのである。あまり勤勉ではない者が多いからうまく回っているが、もしこれで皆が勤勉だったら魔物の取り合いになっているだろう。
だからまあ王様以外は、誰もこれ以上増えろとは思っていないのである。彼女が申し訳なく思う必要など、どこにもない。
「…けど、そういう事じゃないんだろうね」
「ですよね…」
僕がそう言うと、向かいのリラも肩を落とした。
他人がどう思うかは関係ない。クラレットの中には、そう思うだけの理由があるのだろうから。
「そうなると、まずはその理由を探る必要があるかな。それによって、すべき事が変わって来るから。もしかしたら彼女は、特級討伐者並みの力を隠しているのかもしれない」
確かにそれなら、申し訳ないと思っても不思議ではない。
「それはないと思います」
うん。僕もそう思う。
取り敢えず理由を探る為にも、まずは親しくなる事だと、今日も残滓をいっぱい集めて交換所へ会いに行く事になった。
「よーし! 頑張りますよ!」
嬉しそうに張り切るリラを見て、僕は彼女がこの件にこだわる、運命よりも簡単な理由に気が付いた。
それはクラレットと、友達になりたいというものである。
リラ:どうせならもっといいところ…イエ、ナンデモナイデス




