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せかいでいちばんつよいひと  作者: イカロ
第3章:討伐者
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29,安酒場の朝食

 屋根裏部屋と聞いて、どんなものを思い浮かべるだろうか。

 ここ王都においても、屋根裏部屋は最上階にある他より狭い部屋であり、基本的に稼ぎの少ない若者が借りる部屋である。

 討伐者となった今の僕らであれば、もう少し良い所を借りられるのだが、贅沢慣れしていない僕らにはこの辺りがちょうど良い。

 僕らは今、王都の中心から外れた所にある下宿の、屋根裏部屋を借りて住んでいる。


 朝早くに目を覚ました僕は、既に習慣になっている掃除洗濯を始めた。

 訓練所にいた頃は夕方にやっていたが、今は遅くなる事もあるので自然と朝にするようになった。

 朝する事を済ませたら、身支度を整えて部屋を出る。そして長い階段を降りて外へ出ると、まだ通りには人の姿もまばらだった。

 ノースラントには作物の育たない時期があるそうだが、ここサウスラントでは年中何かしら採れるので、人々の暮らしは割とゆったりしている。

 通りを渡って近くの安酒場へ入ると、テーブルにはポツポツと人が座っていた。と言っても、別に酔っ払いが居座っている訳ではない。この酒場では一晩中営業した後で、仕事終わりに余り物で安い朝食を提供しているのである。

 店主にお金を渡して一人分の朝食を受け取ると、僕は手近なテーブルに着いて食べ始めた。あくまで酒場なのでメニューの幅は狭いが、そこは王都だ。食材が良いのか店主の腕が良いのか、値段の割に美味しい。

 しばらくすると、遅れてリラもやって来た。

「おはようございます…」

 やや俯いて歩くその姿は、いつも朝から元気な彼女にしては覇気がなく、どこか眠そうに見えた。

「おはよう。…クラレットの事かな?」

 挨拶と同時に僕がそう尋ねると、彼女からは力ない肯定が返って来た。

「はい、彼女に何か言ってあげたかったんですけど…」

 昨日、交換所を出た後の様子から、そんな気はしていたけれど。ついあの少女の事を考えてしまって、眠れなかったのだろう。

「…分かった」

 僕は昨日、ある決意をした。

 もしも一晩経っても、彼女の気持ちが変わらなければ、これを何らかの運命と考え、僕も真剣に取り組むと。

「ここからは僕も一緒に考えよう」

 まだ言葉にはならなくとも、彼女がクラレットに何かを感じているのなら、僕はその勘を信じよう。

「ほんとですか!」

 僕が真面目な顔でそう言うと、彼女は驚いた顔で目を見開いた。僕がそんな事を言い出すとは、思っていなかったらしい。

「ちょ、ちょっと待ってて下さい!」

 彼女はそう言って、大急ぎで朝食を買って戻って来ると、僕の向かいに腰を降ろした。

「さあ、何から考えましょうか!」

 先程までが嘘のように溌剌としている。うん、これでこそ彼女だ。


 それでは順を追って考えてみよう。

 まずクラレットの抱く罪悪感だが、これは実体のないものである。

 ここサウスラントは王様が討伐者を増やす政策を採っているので、既に他所よりもずっと討伐者の数が多いのである。あまり勤勉ではない者が多いからうまく回っているが、もしこれで皆が勤勉だったら魔物の取り合いになっているだろう。

 だからまあ王様以外は、誰もこれ以上増えろとは思っていないのである。彼女が申し訳なく思う必要など、どこにもない。

「…けど、そういう事じゃないんだろうね」

「ですよね…」

 僕がそう言うと、向かいのリラも肩を落とした。

 他人がどう思うかは関係ない。クラレットの中には、そう思うだけの理由があるのだろうから。

「そうなると、まずはその理由を探る必要があるかな。それによって、すべき事が変わって来るから。もしかしたら彼女は、特級討伐者並みの力を隠しているのかもしれない」

 確かにそれなら、申し訳ないと思っても不思議ではない。

「それはないと思います」

 うん。僕もそう思う。


 取り敢えず理由を探る為にも、まずは親しくなる事だと、今日も残滓をいっぱい集めて交換所へ会いに行く事になった。

「よーし! 頑張りますよ!」

 嬉しそうに張り切るリラを見て、僕は彼女がこの件にこだわる、運命よりも簡単な理由に気が付いた。

 それはクラレットと、友達になりたいというものである。

リラ:どうせならもっといいところ…イエ、ナンデモナイデス


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