18話
見慣れた教室、見慣れた黒板、ここはボクが通った小学校。またこの夢か……この夢を見ると決まって嫌な事を思い出す。
「起立、気をつけ、礼!」
日直の人の掛け声に合わせてクラスメイトが礼をする。
「ではテスト用紙を配ります。みんな定規とコンパスは持ってきたかな?」
担任の先生が算数のテスト用紙を配っていく。皆んなの机には必要な道具が揃っているけど、ボクの机には鉛筆と消しゴムしかない……
「あれ? 実月くん、定規とコンパスはどうしたの?」
「えっと……忘れました」
「そっか……じゃあ先生のを貸すね」
「大丈夫です。必要ありません」
今思えばこういう所が周りに距離を置かれる理由だったんだろうな……
テスト問題は簡単すぎてつまらない。そう思うなら隣の子や困っている子に教えてあげればいいのに……と今更ながら後悔する。
「そこまで! 時間になったので回収します」
終了を告げるチャイムが教室に鳴り響く。そこで場面は切り替わり、今度はテスト返しが行われた。分かってはいたけど、結果は100点だった。
「あいつ何なんだろうな? コンパスと定規を忘れたくせに100点なんだってよ」
「天才は楽でいいよな〜」
クラスメイトがボクの方をチラチラとみてくる。
天才は楽で良いと言うが、そんな事はない。皆んなと違うというのはそれだけで距離を置かれてしまう。
今はそれを個性とか多様性と言うけど、やはり心の何処では拒否されてしまう……
ボクも皆んなと同じだよ。宿題はめんどくさいしゲームをして遊びたい。そう言いたいのに上手く言葉に出来ない。そこでいつも通り夢から目覚めた。
* * *
「……ここはどこ?」
目を覚ますとそこはベットの上だった。周りに人はいない。何だか薬品の変な匂いがする。
「うっ……痛った〜」
周囲をキョロキョロ見渡していたら頭に鈍い痛みが走った。そうだ思い出した。ボクは黒豹と戦ってそれで負けてその後が……
「失礼します。実月さん、ご気分はいかがですか?」
過去の記憶を遡っていると、看護師さんがボクの隣に来て声をかけてくれた。
「はい、大丈夫です。えっと、ここはどこですか?」
「ここは地元の病院です。救急車で運ばれたのを覚えていませんか?」
救急車……言われてみたらそんな様な気がする。でも誰が呼んでくれたのかな?
頑張って思い出そうと頭を捻っていると、扉が横にスライドして絵梨香さんが部屋に入って来た。
「失礼します。って実月くん⁉︎ 目が覚めたの⁉︎」
「えっと、ちょうど今起きたところです」
「大丈夫? 痛くない? もう平気?」
「はい、まだ少し頭が痛いですが大丈夫です」
「よかった〜 心配したのよ!」
絵梨香さんは両手を広げると、ボクを包み込むように抱きしめてきた。
「ちょっと、絵梨香さん! 苦しいです……」
「よかった〜 もう目が覚めないかと思ったのよ!」
絵梨香さんの両腕に力が入る。何とか抜け出そうとしていると、次は万丈さんがやって来た。
「よぉ、実月、目が覚めたみたいだな!」
万丈さんはお見舞いのリンゴを置いて近くの椅子に座る。
「はい、何とか……」
「なら良かったがまだ安静にしてろよ。あと何か欲しいものがあったら遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます。あの……子供たちは大丈夫でしたか?」
「あぁ、問題ない。安心しろ」
万丈さんの話によると、なんと子供たちがクラフトメタルを使ってイノシシを捕まえたらしい。子供の想像力は凄いな……
「じゃあ、そろそろ行くぞ絵梨香。長居すると実月が休めないからな」
「そうね、じゃあまた明日来るね」
万丈さんと絵梨香さんはボクに手を振ると部屋を出ていく。その日は両親や児童館の子供達も来てくれた。
時間はあっという間に過ぎていきもう夕暮だ。流石にもう誰も来ないと思うけど……
「よぉ、入るぞ!」
ドアをノックする音と同時に扉が開いた。えっ? どうしてここに!?
「意外と元気そうだな」
「どっ、どうして貴方が?」
意外過ぎる人物に声が裏返る。それもそのはず、何故ならボクをこんな目にした張本人──黒豹が来たのだから……
* * *
「何しに来たんですか!」
ボクはいつでも反撃出来るようにクラフトメタルを取り出して黒豹を睨みつけた。
「そう警戒するなって、見舞いに来てやったんだよ」
「見舞い? 誰のせいでこんな事になったと思ってるんですか!」
お腹の中でぐつぐつと怒りが湧いてくる。なんだこの人は?
「確かにそうだが、俺があの時救急車を呼ばなかったら危なかったぜ」
黒豹はお見舞で貰ったりんごを勝手に取ると、クラフトメタルをナイフに変えて切り始めた。
「どういう事ですか?」
「そのままの意味さ」
黒豹は切り分けたリンコを口に放り込む。
そういえばハンマーで頭を殴られて意識が朦朧としていた時、黒豹が何処に電話をしていた気がする。あれって救急車だったんだ……
「これ美味いな、お前も食うか?」
「結構です! 何が目的なんですか?」
「まぁ、そうイライラするなって、可愛い顔が台無しだぜ」
「ふざけないで下さい!」
さっきから完全に黒豹のペースに乗せられている。これは良くない。一旦落ち着こう……
「ふぅ〜 目的は何ですか?」
「少しは落ち着いたか? 実はお前に確認をしに来たんだよ」
「確認? なんの事ですか?」
「覚えていないのか? あ〜でもそうか、気を失っていたもんな」
黒豹はまたリンゴを口に放り込む。気を失う……確か最後ボクに何かを言っていたような気がする。
「じゃあ改めて聞くが、俺の仲間にならないか?」
「なっ、仲間⁉︎ 何言ってるんですか⁉︎」
あまりにも想定外の事に、せっかく落ち着いた心がまた乱れる。
「初めて会った時から俺に似てるな〜 と思ってたんだよ。どうだ? 一緒に来ないか?」
「そんなの……そんなの、嫌に決まってるじゃないですか!」
ボクはベットシーツを握る手に力を込めて黒豹を睨みつけた。
「ふん、まぁ、そう言うと思ったぜ。ならゲームをしよう」
「ゲーム? 何ですか?」
「簡単な事さ、1週間後ショッピングモールに来い。そこで蹴りをつけよう。お前が俺を倒したら潔ぎ良く手を引く。警察にでも出頭してやるよ。ただし……」
黒豹はりんごを切っていたナイフをボクに向ける。
「もしお前が負けたら俺の仲間になれ。分かったな?」
「………嫌だと言ったら?」
「拒否権は無い。分かるだろ?」
黒豹がナイフでボクの顎をクイっと持ち上げる。獣のような鋭い目で睨まれて息が詰まる……
「じゃあなぁ、実月、1週間後が楽しみだぜ!」
黒豹はそう言い残すと部屋を出ていった。緊張感から解放されてどっと疲れがのし掛かる。
1週間後……ショッピングモールで全てが決まる。負ける訳にはいかない。でも、今のボクでは悔しいけど黒豹には勝てない。一体どうしたら?
頭の中で色々シュミレーションしてみたけどやっぱり勝てる気がしない……
もし負けたら仲間にさせられる。そんなの絶対に嫌だ! クラフトメタルを悪用する人と協力なんてしたくない!
「あんな人と仲間になるくらいなら……」
ボクはクラフトメタルをナイフに変えると──右手の袖をまくった。
* * *
「ごめん実月くん、忘れ物を取りに来た〜 って、何してるの⁉︎」
絵梨香さんは部屋に入るなり、荷物を投げ捨ててボクの手を掴んだ。
「離して下さい絵梨香さん!」
「嫌! 離すわけ無いでしょ!」
絵梨香さんの手に力がこもりボクの指先が白くなる。ジタバタ抵抗してみたけど無駄だった。ナイフは取り上げられてベットの上で正座をさせられる……
「一体何があったの⁉︎ ちゃんと説明して!」
迫力に押されてボクは渋々経緯を説明した。普段の絵梨香さんは優しいけど今は本気で怒っているのが伝わってくる。
「今さっきギャングのボス……黒豹という男が来たんです。仲間にならないかと誘われて……」
「それ本当? 断ったわよね?」
「はい、もちろん断りました。でもそしたら1週間後、ショッピングモールで蹴りをつけようと言われました。もしボクが負けたら仲間になるようにと言われて……」
「それで仲間になるくらいなら死のうと思ったの?」
「………はい」
「何それ……信じられない……」
絵梨香さんは深くため息をつくと、ボクの目を真っ直ぐ見つめる。
「いい? よく聞いて、実月くんに何かあったら私や万丈やご両親が悲しむのよ。勝手な事はしないで!」
「ごめんなさい……でもボクはどうしたら良いのですか?」
「決まってるでしょ? 黒豹を倒すのよ!」
「でも今のボクたちでは勝てません!」
「大丈夫、今から研究部のところまで行くよ」
「えっ、今からですか⁉︎」
絵梨香さんはボクの手を握ると、病院を飛び出してメタリック社に向かった。
* * *
「やぁ、実月くん、話は聞いたよ。大変だったね」
メタリック社1階の研究室に向かうと、日下部さんが出迎えてくれた。相変わらず目元には酷いクマが出来ている。
「お久しぶりです日下部さん。実は……」
ボクはさっき絵梨香さんに話した内容を日下部さんにも説明した。
「なるほどね、敵は強敵だね。でも大丈夫。これを見て!」
日下部さんはボクの話を聞き終えると、作業台からクラフトメタルを取り出した。通常の物とは明らかに違う。漆を塗ったように光沢を帯びている。
「これってもしかして?」
「そう、君たちが戦ったイノシシから回収したんだ! 調べてみたら不純物が一切ない純度100%のクラフトメタルなんだよ。使ってみて!」
「ありがとうございます!」
黒豹がやっていた様に人形を作って歩いている所を想像すると、ボクのイメージした通りに動きだした。これはすごい!
「通常のクラフトメタルは人形を作る所で限界だったけど、この純度100%の物は一味違うよ。なんと動かす事も出来るんだ! どう? 実月くん、これがあればいけそう?」
「はい! これで戦えます!」
ついさっきまでは勝てるイメージが無くて絶望的だった。でも今は違う。新たな可能性が広がり勝利への道筋が見える!
「実月くん、1週間後、絶対に勝とうね!」
「はい!」
ボクはクラフトメタルをしまい力強く返事をした。
「日下部さん、ありがとうございました!」
「健闘を祈るよ、実月くん」
1週間後に全てが決まる。必ず黒豹に勝利してみせる! ボクは新たに得た可能性に胸をふくらませて病院に戻った。
余談だが、勝手に病院を抜け出した事がバレて看護師にこっぴどく叱られたのは言うまでもなかった……
1週間後
「キツネ、ショッピングモールは貸切にしたか?」
「はい、もちろんです」
「ご苦労。ヘビ、準備はできたか?」
「はい、いつでも行けます」
黒豹はいつもの黒いジャケットを羽織ると、アジトを後にした。そのすぐ後ろをキツネとヘビがついてくる。
「2人ともよく聞いてくれ、あいつらは強い。特に実月は強敵だ! 殺すつもりで戦え。じゃないとこっちがやられる」
「「はい!」」
黒豹はポケットに手を入れると、最後の舞台であるショッピングモールを見上げた。
ご覧いただきありがとうございました!
後4話で完結です!




