ようこそ、血塗られた恋の島へ
「わぁ……本当に海がエメラルドグリーンだ……!」
豪華なクルーザーの甲板で、私は思わず歓声を上げた。
潮風が私のセミロングの髪を揺らす。
視線の先には、白い砂浜と鬱蒼とした緑に囲まれた美しい孤島――通称『エデン島』が近づいていた。
私の名前は星野結愛。
ごく普通の中学3年生。
そんな私がなぜこんな豪華な船に乗っているかというと、中高生に大人気の恋愛リアリティショー(※台本のないリアルな恋愛模様を映す番組)、『シークレット・エデン』の出演者に選ばれてしまったからだ。
「絶対受かるわけないって!」と笑っていたのに、親友の美桜が勝手に二人の写真を送って応募したら、なぜか揃って合格してしまったのだ。
「結愛、あんまりはしゃぐと海に落ちるよ?」
後ろから声をかけてきたのは、その美桜だ。
私よりずっと大人っぽくて、学校でも目立つ存在の彼女が隣にいると、少しだけ安心する。
「だって、同世代のイケメンや可愛い子たちと過ごすひと夏なんて、夢みたいじゃない?」
「ふふ、そんなにキョロキョロしてると、本当に転ぶよ?」
突然、横から甘い声が降ってきた。
振り向くと、そこには金髪で王子様のような男の子――西園寺司くんが微笑んでいた。
テレビで見たことがある。
有名な財閥の御曹司だ。
その隣では、黒髪で切れ長な瞳を持つ如月湊くんが、海をじっと見つめている。
彼と目が合うと、すぐにプイッと逸らされてしまったけれど、その横顔のあまりの美しさにドキッとしてしまった。
集められた参加者は、男子4人、女子4人の合計8人。
島に到着すると、私たちはヨーロッパのお城のような豪華な洋館に案内された。
エントランスには美味しそうなスイーツが並び、シャンデリアがキラキラと輝いている。
「すごい……お姫様になったみたい」
「本当ね、写真撮らなきゃ!」
インフルエンサーだという美しい女の子、莉奈さんがスマホを取り出す。
「皆様、エデン島へようこそ!」
突然、スピーカーから機械で加工されたような、不気味で甲高い声が響き渡った。
洋館の巨大モニターに、可愛らしいウサギのキャラクターが映し出されている。
番組の司会役だろうか。
「これから皆様には、最高の恋を見つけていただきます! そのために、まずは素敵なプレゼントをご用意しました。テーブルの上にある箱を開けてください」
言われた通りに各自が箱を開けると、中には黒い革製のチョーカーが入っていた。中央には小さな赤いランプが点滅している。
「それは**『キューピッド・チョーカー』**です。お互いのドキドキを測るためのアイテムなので、全員、すぐに首に装着してくださいね」
なんだか少し不気味なデザインだったけれど、番組の演出だと思った私たちは、大人しくそれを首に巻いた。
カチッ、と冷たい音がして、ロックがかかる。
「はい、装着完了ですね! では、さっそく最初の**『ラブ・ミッション』**を発表します!」
ラブ・ミッション。
番組から出される恋愛の課題のことだ。
きっと「誰かと手をつなごう」とか、そういう可愛いものに違いない。
『ミッション・1。現在時刻から30分以内に、異性と【唇にキス】をすること』
「え……?」
私は息を呑んだ。
初対面で、いきなりキス!?
他のメンバーもざわつき始める。
「いくらなんでも展開早すぎない?」
「台本ないって言ってたのに」
「あ、言い忘れていました」
ウサギのキャラクターの目が、モニターの中で赤く光った。
「この番組での『失恋』は、文字通り『死』を意味します。
ミッションをクリアできなかった方、または番組のルールに従わなかった方は――**『脱落』**となります。
もちろん、そのチョーカーを無理やり外そうとしても、同じ結末が待っていますよ」
「はぁ? ふざけんなよ!」
男子の一人、ヤンチャな雰囲気の翔太くんが怒鳴り声を上げた。
「こんな悪趣味なドッキリ、やってられるか! 俺は帰る!」
翔太くんは首の『キューピッド・チョーカー』に指をかけ、無理やり力任せに引きちぎろうとした。
「あっ、ダメ――!」
湊くんが鋭く叫んだが、遅かった。
ブブーッ!
耳障りなエラー音が鳴り響いた瞬間。
翔太くんのチョーカーの赤いランプが激しく点滅し、そこから小さな針のようなものが飛び出して、彼の首筋に突き刺さった。
「がっ……あ……!?」
翔太くんは白目を剥き、口から白い泡を吹いて、ドサリと大理石の床に倒れ込んだ。
ビクビクと痙攣したあと、二度と動かなくなる。
床に、赤い血が少しずつ広がっていく。
「…………え?」
静寂。
誰かの悲鳴が、洋館に響き渡るまで数秒かかった。
「キャアアアアアアアアアアッ!!!」
「ウソだろ!? 翔太!!」
パニックになり、泣き叫ぶ参加者たち。
私は恐怖で足がすくみ、一歩も動けなかった。
これはドッキリなんかじゃない。
本物の、死だ。
「さあ、残り時間はあと25分です」
モニターのウサギは、楽しそうに笑っていた。
「誰からも選ばれない可哀想な人は、誰かな? 最高のサバイバル・ラブゲームを始めましょう!」




