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  作者: 六木 正道


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5/5

爪の裏側

私は爪の血を舐めた。

 彼の背中にグサリと刺した後、叫ばれるのを恐れたため仰向きにさせ喉を突き刺せた。「ヒュー、ヒュー、」必死で呼吸しようとする様がなんとも見窄らしい。空いた穴から呼吸をする音が漏れ出す。彼女が叫ぶ前に私は彼女の口を押さえた。「ベーコンサンドを届けたのに、食べないとは悪い子だなぁ。」私は腕を切り付けた。彼女は泣きながら悲鳴を上げようとする。「抵抗しなければ何もしない。」私はこう告げた。全裸の二人を横目に私は悦に浸っていた。普段はただの会社員であるのに人格が変わるこの夜だけは私にものだ。私は四肢をベッドに括り付け彼女を眺めた。彼女は今から何をされるのかわからない恐怖でこちらを見つめている。私は男性は嫌いだが女は嫌いではない。男というものは汚らしい、それに比べて女は美しい。私にとって美の象徴なのである。しかし人はいつかは老いる。老いてしまうものは美しいとは私は思えない。なのでこの油に乗り切ったこの形を残すことが私の使命なのである。私は用意した注射器で彼女の血管に毒薬を打つ。ネットで調べて裏ルート使えば簡単に手に入る毒薬だ。彼女は首を横に振りながら、口に巻いたタオルを噛み締めるがもう遅かった。私は打ち込んだ。私が犯行を犯す時は決して残忍な殺しはしない。綺麗なまま殺すのだ。そして彼女は時間をかけてゆっくりと死んでいった。そして私は彼女の片方の手首を切り落とす。任務完了だ。ようやく鮮度の高い手を手に入れたのだ。私は血のついたベッドの上で手を執拗以上に舐めまわした。まるで乳房に貪りつく赤子のように必死に舐めまわした。なんて素晴らしいのだろう。しかしこんな気分の良いのも束の間、私は犯行を隠蔽するために車に遺体を載せ家に火を放った。普通なら通報が入るだろうが、こんな時間にこんな人並外れた郊外の家が燃えたところで誰も通報しないだろう。私は決して自分の家から近くの場所で犯行はしない。そういうところも用意周到なのだ。たまたま郊外に住んでいる若い大学生を見つけるのはラッキーだった。私は海へ向かった。

 海の近くには樹海があった。ここは人知れずとした自殺の名所として有名である。ここで人が死んでいても何もおかしくないのだ。私は穴を掘り、二人の遺体を埋める。今日で三十一人目である。ここまで来ると手慣れたものであるが、今日は予想外だった。少しヒヤリとしたが、今までにない快感を得ることができた。こうして私は安息の地で穏やかに過ごすことができるのだろう。私は急いで家へ戻り風呂へ入り寝床に入ろうとした。「しまった爪を切らなければ、もう一人の自分に、、」帰ってくるといつも爪を切らなければいけなかったが、毎回切ることができないのだ。もう一人のいつもの私が目覚める前に眠りにつかなければいけないのだ。

 私は爪を切る。私はいつもの朝を迎えいつものように同じルーティンを淡々とこなしていく。しかし月に一度だけ爪の手入れをしたはずが、朝目覚めると爪が汚れていたり、欠けてしまっていたりするのだ。「おかしいなぁ。」私の爪を切るついでに私はいつも爪を切ってやる。「おぉ爪が伸びてるじゃないか、お前はたまに急激に伸びるんだな、いいぞそれでこそ俺のものだ。どれ切ってやろう。」私はもう一人の自分が手に入れた新しい指の爪を切ってやる。私はいつももう一人の自分が犯行を犯し常に手が腐り切る前に新しい手に入れ替わっていることを知らない。

 私は数年前、精神疾患を患った。多忙と疲労、そして孤独である。そしてその精神疾患は私の人格を二分化させてしまった。表向きの人格はただの独り身のサラリーマンだが裏の顔は大量殺人鬼なのである。この二面性によりなんとか精神を保っているのだ。私はこの手のことを同棲している婚約相手だと勘違いしている。大量殺人鬼である私はこの手のことをただの「手」あると認識しているが、普段の私は幻覚を見ているのだ。孤独という私が作り上げた幻覚は手以外の全体像を自分の都合の良いように付け加えてしまった。普段の私はもう一人の自分の存在を知らない。棚には数々の爪が入った瓶がこちらを眺めているように感じた。

私は爪を切る。

第五話(爪) 〜完〜

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