ヒリュウ家の秘伝書
「それにな、既にカブトはこちらの秘薬で制御しておるのよ」
秘薬とは魔薬の事であろう。複数の斥候を既にバラキ族野中に送り込んでいる。すぐエツゴに報告されている。ウラも情報役をあちこちに放っているが、その点で言えば遥かに上原国軍の方が広大な領地を今保持する立場だ。日進月歩で高度化している上に、ユウゴが微かな音源も拾える集音器のような器具も開発し、何が優れているかと言えば、石灰魔人洞はこの地域にも無数に張り巡らされているのだ。その上で、前に石灰洞魔人がまだ生きていると言う話をウラに伝えている事によって、彼らが地下を探索する事は皆無であり、砦の中は常に灯かりがあった。彼等も石灰洞魔人達の捕食者であったからだ。八族全てが恐れるばかりか、虎、熊、狼、猪、大鷲すらにおいてもその対象であったのだから、真にエツゴ達が破ったこの強敵こそが、この周辺の絶対者に近い存在だったのかも知れない。既にその親すらも倒しているのだ。そしてその最強の「宝玉」を手中にしているのだとしたら、圧倒的に今この地域を支配しかけている上原国こそが、最強になりつつあるのかも知れない。ただし・・ウラはそう簡単な敵では無い事をエツゴは知っている。この魔薬にしても逃げる時にウレイ伝来の物は手放さなかっただろうし、グエンすら知らなかった事は無数にまだまだあるのだった。
秘薬とは、又ベラ族を支配下に置いた事、そしてウラも何らかの形態変化を「宝玉」或いはウレイの秘薬で行った事が想定される。常に不可思議な事が渦巻いているこの世界においては、ユウゴによって次第に明らかになりつつはあるものの、やはり黒い霧に包まれたままなのだ。
「そうか、やはり魔薬で支配しているんだな。グエンを呼んでくれ」
エツゴはグエンの砦近くに来ていた。グエンはすぐやって来る。
「重要な事がありましたか?」
エツゴはにこやかな顔で、そう問うグエンに、
「ウラの置いて行った魔薬の事だがな、お前のお陰で役立った。砦に敢えて残して出て行ったのは、一網打尽で俺達を殲滅出来る程のものだった。感謝する」
「いえ、とんでも御座いません。戦略で言えば下策も下策のもの。相手を確かに駆逐するのに使用する為とは言え、それは最も選択するに価しないと思います」
「うん、その言葉が気に行った。戦いとは相手を木っ端みじんに駆逐するものでは無いと俺は常に言って来たし、その行為の怨恨はずっと残る。そう思っているからな」
「怨恨ですか?」
グエンは聞き慣れない言葉に少し聞き返した。




