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『鐘哭(しょうこく) ― 山奥に響く死の音 ―』  作者: こうた
第五章 「残響確定」

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第六話「選択されない世界」

ゴォォン……


その音は、もはや鐘ではなかった。


“選択そのものが揺れている音”だった。



---


青年の手は、鐘の前で止まっている。


伸ばせば触れられる距離。


だが、そのわずかな距離の中に無数の世界が折り重なっている。



---


完成する世界


崩壊する世界


最初から何もない世界


鐘だけが鳴り続ける世界



それらが同時に呼吸していた。



---


白い影が静かに言う。


「どれか一つを選べば、それ以外は消える」



---


青年は問う。


「それは救いなのか」



---


影は答えない。


代わりに、鐘が鳴る。



---


ゴォォン……



---


その音に合わせて、“一つの世界”が強く浮かび上がる。



---


整った駅。


正常な人々。


崩壊のない都市。


揺らぎのない日常。



---


完璧な世界。



---


だが青年は気づく。



---


そこには“違和感を感じる者がいない”。



---


つまり、



---


気づくこと自体が消えている。



---


青年は息を吐く。


「それは生きてるのか?」



---


白い影は少しだけ沈黙する。



---


「定義上は、生きている」



---


ゴォォン……



---


音が深くなる。



---


未完成の鐘が、さらに形を強める。



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だがその中心に、別の揺らぎが残っている。



---


青年はそれを見る。



---


“選ばれなかった世界”。



---


そこには、


崩壊も完成もない。



---


ただ、決まらなかったままの空間。



---


影が言う。


「そこは存在し続けられない」



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青年は問い返す。


「なぜ」



---


影は静かに答える。



---


「観測されないものは維持できない」



---


ゴォォン……



---


その音と同時に、未確定の世界が薄くなる。



---


消えていくのではない。



---


“忘れられていく”。



---


青年は気づく。



---


選ばないということは、


存在しないことと同じだ。



---


そのとき、鐘の奥から声がする。



---


『選ぶな』



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青年は目を細める。



---


声は続く。



---


『選べば終わる』



---


白い影がわずかに反応する。



---


青年は息を呑む。


「まだいるのか……」



---


ゴォォン……



---


鐘が一瞬だけ“割れる”。



---


その隙間から見えたのは、



---


どれでもない世界。



---


選択が存在しない領域。



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青年は理解する。



---


これは二択ではない。



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「選ぶこと」そのものが世界を確定させている。



---


白い影が言う。


「あなたは観測者だ」


「だから選べる」



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青年はゆっくりと鐘を見る。



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手を伸ばせば、すべてが決まる。



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だが同時に、それはすべての消失でもある。



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ゴォォン……



---


音が静かになる。



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世界が止まったように感じる。



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青年は小さく息を吐く。



---


そして、手を――



---


止める。



---


影がわずかに揺れる。



---


「……選ばないのか」



---


青年は答えない。



---


代わりに、鐘を見る。



---


そこにはまだ、“全ての可能性”が残っている。



---


ゴォォン……



---


その音は、初めて少しだけ柔らかかった。



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— 第7話へ続く —

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