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『鐘哭(しょうこく) ― 山奥に響く死の音 ―』  作者: こうた
第五章 「残響確定」

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第四話「漏れた鐘」

ゴォォン……


その音は、これまでと違っていた。


“鳴っている”のではない。


どこかから漏れ出したものが、世界に染み込んでいる。



---


青年は駅のホームに立っていた。


さっきまで確かにあった「修正の起点」は、視界のどこにもない。


だが“消えた”という感覚もない。



---


代わりに残っているのは、ひとつの違和感。



---


世界のどこかに、小さな“穴”が開いたままだ。



---


人々は変わらず歩いている。


電車も来る。


アナウンスも正常だ。



---


しかし青年だけが知っている。



---


今この世界は、完全ではない。



---


「漏れてる……」



---


声に出すと、駅の空気がわずかに震えた。



---


ゴォォン……



---


音が近づく。


今度は外ではない。


駅の構造そのものの“内側”から響いている。



---


白い影が、いつの間にか隣にいた。



---


「起点が揺れた」



---


青年は問い返す。


「俺が触ったからか」



---


影はすぐに否定しない。


代わりに、ゆっくりとホームの奥を見る。



---


そこには“何もない空間”がある。


だが正確には違う。



---


観測されていない場所。



---


「そこが漏れだ」



---


青年は目を細める。


「鐘か?」



---


影は答える。


「鐘になる前のものだ」



---


ゴォォン……



---


音が一段だけ深くなる。



---


その瞬間、ホームの一部が“別の景色”に変わる。



---


山の神社。


崩れた石段。


割れた社殿。



---


そして、鳴る直前の鐘。



---


だがそれも一瞬で消える。



---


青年は息を呑む。


「今のは……過去か?」



---


影は静かに言う。


「違う」



---


「修正される前の可能性だ」



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青年の背筋が冷える。



---


可能性が、漏れている。



---


世界は確定しているはずなのに。



---


ゴォォン……



---


その音に合わせて、ホームの床に“ひび”が入る。



---


しかし物理的なものではない。



---


観測のひび。



---


影が言う。


「ここを放置すれば、揺れが戻る」



---


青年は問いかける。


「戻るって……元にか?」



---


影は少しだけ沈黙する。



---


「崩壊ではない」


「分岐だ」



---


ゴォォン……



---


音が強くなる。



---


ひびの奥から、無数の“別の世界”が見える。


鐘が鳴り続ける世界


鐘が最初から存在しない世界


鐘を止めたまま崩壊した世界




---


それらが同時に揺れている。



---


青年は理解する。



---


今、自分が立っている世界は――



---


無数の結果の上に、かろうじて成立している。



---


影が低く言う。


「漏れは、広がる」



---


青年は一歩近づく。



---


その瞬間、床のひびが反応する。



---


ゴォォン……



---


音が鳴る。



---


そしてひびの奥から、“鐘そのもの”が見えた。



---


まだ形になっていない鐘。



---


鳴る前の鐘。



---


青年は息を呑む。



---


「これが……本体か」



---


影は答えない。



---


ただ静かに言う。


「触れるな」



---


しかし青年の手は、すでに伸びていた。



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— 第5話へ続く —

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