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『鐘哭(しょうこく) ― 山奥に響く死の音 ―』  作者: こうた
第四章 「残響起動(ざんきょうきどう)」

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第九話「逆観測」

重なったのは一瞬だった。


しかし、その一瞬は“時間”としては扱われていなかった。


もっと別の層。



---


ゴォォン……


その音が鳴った直後、世界の奥行きが反転する。



---


彼は見てしまう。


“鐘になる前の自分”。



---


それは記憶ではない。


未来でもない。



---


まだ成立していない自己の輪郭。



---


その“自分”は、こちらを見ていた。



---


白い影が声を出す。


「逆観測が成立した」



---


彼は息を呑む。


「逆観測……?」



---


影はゆっくり頷く。


「観測される側が、観測を開始した」



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ゴォォン……



---


その音が鳴るたびに、現実の方向性が微妙にずれていく。


こちらが過去になる


向こうが現在になる


観測の主従が入れ替わる




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彼は気づく。


「俺たちが見てたんじゃない……見られてたのか」



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白い影は否定しない。


むしろ、その事実を受け入れている。



---


空間の奥で、“もう一人の彼”が口を動かす。


だが音は届かない。



---


代わりに意味だけが流れ込む。



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『ここから出るな』



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彼は一歩下がる。


しかしその動作すら“逆側”に伝わる。



---


ゴォォン……



---


鐘の音が反転する。



---


今までの「始まり」は、向こう側では「終わり」になっている。



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白い影が静かに言う。


「観測の主導権が入れ替わった」



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彼は問う。


「じゃあ、今俺はどっちだ」



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影は答える。


「両方」



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空間が揺れる。



---


“逆側の彼”がさらに近づく。


その存在は、もはや個ではない。



---


観測そのものの形。



---


彼は理解する。


これは対話ではない。



---


同期だ。



---


ゴォォン……



---


音が一段深くなる。



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両側の現実が完全に重なり始める。



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その瞬間、白い影が呟く。


「次で決まる」



---


彼は息を止める。


「何がだ」



---


影は答えない。


代わりに、逆側の彼が口を開く。



---


『どちらが“本体”か』



---


ゴォォン……



---


第四章・第十話


「本体判定」へ続く。

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