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『鐘哭(しょうこく) ― 山奥に響く死の音 ―』  作者: こうた
第四章 「残響起動(ざんきょうきどう)」

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第六話「観測拒否点」

ゴォォン……


その音が鳴った瞬間、二つの起点が同時に揺れた。


しかし今回は“揺れ方”が違う。


どちらにも寄らない。


どちらにも崩れない。



---


彼が見ているはずの「起点」が、視線を拒絶している。



---


白い影が小さく息を吐く。


「観測が失敗している」



---


彼は眉をひそめる。


「失敗?」



---


影は空白の中心を指す。


そこには、先ほどまで確かにあった“分岐の二つの起点”が消えかかっていた。



---


代わりに浮かんでいるのは、ひとつの点。


だがそれは点ではない。



---


観測できないものの痕跡。



---


彼は一歩近づく。


すると、空間がわずかに反発する。



---


「……触れない」



---


白い影は頷く。


「観測拒否点」



---


ゴォォン……



---


音が鳴るたびに、その点は“存在しないこと”を強めていく。



---


彼は理解する。


これは消失ではない。



---


認識そのものを拒否している。



---


影が続ける。


「起点が確定する前に、さらに前があった」



---


彼は息を呑む。


「さらに前……?」



---


その瞬間、空白が裂ける。



---


そこに現れるのは、これまでのどれとも違う像。



---


鐘でもなく。


神社でもなく。


都市でもない。



---


ただ“問いの前”。



---


『なぜ観測するのか』



---


声ではない。


意味そのものが響いている。



---


彼は頭を押さえる。


「これは……意味の発生源か」



---


白い影が静かに言う。


「それが観測拒否点の正体」



---


ゴォォン……



---


音が一段深くなる。



---


観測拒否点がゆっくりと“広がる”。


広がるというより、すべてを“無効化”していく。



---


起点が薄れる。


再起層が揺れる。


未定義領域が歪む。



---


彼は理解する。


これは破壊ではない。



---


前提の削除だ。



---


白い影が彼を見る。


「ここに触れると、鐘は存在できなくなる」



---


彼は問う。


「じゃあ、俺は何を見てる」



---


影は答えない。


代わりに、平の残響がまた響く。



---


『見るな』



---


木村の断片。


『近づくな』



---


鈴音の揺れ。


『まだ終わってない』



---


ゴォォン……



---


観測拒否点が脈動する。



---


彼は一歩踏み出す。



---


白い影が初めて制止する。


「それ以上は──」



---


しかし彼は止まらない。



---


「見えないなら、見ないままでいい」



---


その言葉と同時に、空白が静止する。



---


観測拒否点が“拒否”をやめる。



---


一瞬だけ、そこに“何か”が現れる。



---


だがそれはすぐに消える。



---


ただ残ったのは、ひとつの余白。



---


白い影が呟く。


「……接触した」



---


ゴォォン……



---


第四章・第七話


「非観測の連鎖」へ続く。

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