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『鐘哭(しょうこく) ― 山奥に響く死の音 ―』  作者: こうた
第四章 「残響起動(ざんきょうきどう)」

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第五話「起点の再定義」

ゴォォン……


その音は、もはや鐘ではなかった。


何かが“始まろうとする瞬間”そのものが音になっている。



---


空白の中心に生まれた“裂け目の芽”は、ゆっくりと広がっていた。


だがそれは破壊ではない。



---


書き換え。



---


彼はそれを見ている。


しかし見ているという行為すら、ここでは曖昧だった。



---


白い影が言う。


「ここで起点が変わる」



---


彼は問う。


「何の起点だ」



---


影は答えない。


代わりに空白が揺れる。



---


そこに“映像”が生まれる。



---


山の神社。


鐘がまだ存在しない村。


鈴音の祖先。


そして、何かを“決めようとしている人々”。



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ゴォォン……



---


音が鳴ると、その映像が一瞬だけ止まる。



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彼は気づく。


これは過去ではない。



---


起点を決める前の候補だ。



---


白い影が続ける。


「鐘は結果ではない」


「起点の固定装置だ」



---


彼は息を呑む。


「じゃあ今までのは全部……」



---


影は頷く。


「未確定の試行」



---


空白が再び広がる。


その中心で、裂け目の芽が“二つ”に分かれる。



---


鐘が生まれる起点


鐘が生まれない起点




---


どちらも同時に存在している。



---


彼は一歩近づく。


「どっちが正しい」



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白い影は静かに答える。


「正しいものはない」



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ゴォォン……



---


音が強くなる。


二つの起点が揺れ始める。



---


その揺れの中に、断片が浮かぶ。


平の選択


木村の消失


鈴音の継承




---


それらが“どちらの起点にも存在し得る”。



---


彼は理解する。


ここでは選択ではない。



---


再配分だ。



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白い影が言う。


「どちらの起点を採用するかで、すべてが変わる」



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彼は問う。


「俺は何をすればいい」



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影は答える。


「観測するだけでいい」



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ゴォォン……



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裂け目の二つの起点が、彼の視線に反応する。



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どちらかを見た瞬間、世界は確定する。



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彼は動かない。



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空白が静かに脈打つ。



---


その時、小さな声がする。



---


『まだ決めるな』



---


平の残響だった。



---


彼は目を細める。


「……またか」



---


ゴォォン……



---


第四章・第六話


「観測拒否点」へ続く。

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