後編
王位を退いたアルサの父、ウルバルは、まだ、余裕だ。
・・・フン、アルサめ。まだ、まだ、甘いわ。ワシの手強さを理解していない。
アルサに、愛妾たちを取り上げられた。
「陛下は、北の離宮に行きます。ついて、行きたい方はいらっしゃいますか?」
シーーーーン
誰も挙手をしない。リリーシャは、泣き崩れた。
それぞれ、金を渡して、開放しやがった。
☆北の離宮
「フン、寂れておるな。失脚した王族が行く離宮」
ワシは、ここに、裏金を集めておいた。
この資金を元に、近衛騎士団を動かし。帝国軍が去ったら、挙兵してやるわ。
大金貨数万枚あるはずだ。
「な、ない」
「陛下、お久しぶりでございます」
「お前は誰だ!」
「セバン、無能のセバンでございます。もっとも、覚えてすらございませんでしょうが」
「それはいい。裏金をどこにやった!」
「全て、接収させて頂きました。私は無能、皆、私を置物のように扱います。だから、裏金の情報を、私の前でペラペラ話しておりましたから」
「そ、そんな。馬鹿な」
「陛下がお決めになった法律でございます。失脚した王族は、一年大金貨2枚(200万円)でお過ごし頂きます。
付いてくる使用人たちは、誰もおりませんでしたが、ご安心を、私がチェストーイモの植え方を教えて差し上げます。今日からみっちりと仕込みます」
「何故だ!あの女のどこがいいのだ!ワシが復権したら、宰相にしてやるぞ」
「ウヌバル、まずは庭を耕すのです。でないと、飢え死にですぞ。貴方がほったらかしだったので物価は高騰しております」
「ウヌバルだと!・・・敬称をつけろ。お前が口にして良い名ではないぞ!」
「ああ、ウザい。夕飯は抜きでございます」
私の兄上は、この男の兄、第1王子に仕えていた側近だった。
当時、第2王子だったウヌバルの策略により。謀反の疑いを掛けられ、処刑された。
兄上も連座で一族は平民に降格、それ以来、ずっと機を狙っていたのだ。
この男、飢饉にもかかわらず裏金をため込むことしか考えていない。
この男は、自らの地位を脅かす者には容赦ない。
それだけの男よ。
「さっさと、クワを持ちなさい。慈悲深いアルサ様から、種芋を下賜して頂いたぞ。お前が嘲笑したイモをよ」
「そ、そんな」
☆
セバンさんが父上とともに、北の離宮に行った。
寂しくなるわね。
でも、安心だわ。お父様は、辺境の農民の年収の三倍ほどの大金貨2枚あるから余裕でしょう。
あら、イメルダ、いないと思ったら、広間にいるわね。
あれは、婚約者のデルタ王国の第三王子、グランドル王子、確か婿にくるはずだったわね。
「イメルダ!婚約破棄をする!私は君が女王になるとの話で、この国に来た!」
「そんな。ちょっと、失敗しただけよ。あんな姉、すぐに追い落としてみせますわ」
「それに、罪がある。各国で、婚約破棄を謀略し、姫君達を、前国王の後宮に入れていたと発覚した!
ここに、イメルダと婚約破棄を宣言し、新たに、アルサ新女王と婚約を結ぶものとする!」
「さあ、アルサ陛下、私の手を取って下さい。私を王配にすると、パワーバランス的に良くなります」
バチン!
差し出した手を振り払った。
よく言うわね。イメルダの謀略を知っていたくせに、それに、このような婚約破棄をする者は、信用におけない。
あら、ハインツさん。潤んだ目で見ているわ。
あら、私の手を取ったわ。
「あの」
「神算鬼謀のアルサ様ならご存じだと思いますが、私は帝国第2皇子のハインツ。貴女に婚約を申し込む!」
「私、24よ。もう、おばさんだよ」
・・・この世界では、10代のうちに婚約し、20歳前に結婚するのが慣例よ。
日本なら、まだ、まだ、若いのにね。
「何の。私は21歳だ!3年前、辺境に視察に赴いた時、皆に応援されながら、綱を編んでいる貴女の姿に、心を射貫かれた!」
一生、独身だなと思ったが、
☆回想
グルグル~~
『ふんしょ、ふんしょ!』
『頑張るのです!』
『お嬢様、しっかり』
と制縄機のハンドルを回していた姿を見て、一目惚れした?
どこに、惚れる要素があるのかしら。
「返事はどうであろうか?」
「うん・・・」
「「「「ワワワーーーーー」」」
「「「おめでとうございます」」」
「グスン、グスン、有難う」
・・・思わず生返事をしてしまったが、まあ、いい。この方は、嫌な顔をせずに、農民の生活をしたから、我慢強いだろう。
「お姉様、太陽は二つは必要ありません。私は国外で修行をしたいです。どうか。私を国外に遊学の旅に出させて下さい。王族の地位は返上いたしますわ」
・・・フフフ、国外で謀をしてやる。まだ、私の才覚を買う国はあるはずよ。とりあえず西に向かう。
私を担げばこの国を手に入れる口実が出来る。
「分かったわ。臣下に下して、国外遊学よ。でも、下賜金はなしね。私の下賜金をネコババしたから、相殺よ。
身一つ身につけられる財産を持って、国外追放よ」
「え、何故、それを」
「さすがに、王室典範ぐらい読むわよ」
・・・いづれ、臣下に下るつもりだったから、王室典範の下賜金だけはしっかり読んでいたのよ。
イメルダは、身いっぱいに、宝石をつけて、国外に出た。
宝石ジャリジャリの状態で、治安の悪いところを歩いていた。
盗賊に捕まり。遠い異国に売られた。
そして、結局、辺境の地の割譲はなくなった。
ハインツと結婚するから、そのお祝いということだろうが、
前の政権が頂いた辺境の売却代金は、援助金に変えて、時間を掛けて返すことにした。
資金はないと、思っていたら、セバンさんが、大金貨3万枚あまりをどこからともなく、持って来た。
じゃあ、この金を中小の商会に貸し付け。規制を緩和して、あれ、どっかの政治家みたいだな。
とやったら、緩やかな成長曲線を築いた。
☆
今日は、セバンさんの葬儀の日だ。
お父様より顔を見た日々、なつかしい。
「お嬢様、いえ、申し訳ございません。女王陛下!」
「ベッキーちゃん。生活防衛ギルドマスター、出来たら、前の呼び方がいいわ」
「はい!」
ベッキーちゃんは18歳になった。素敵な旦那様を迎え。生活防衛ギルドを運営している。
大枠の定款を定め。二人で、各支部の監査をするのが仕事だ。
監査をしても不正は生まれる。
しかし、監査がなければ、もっと、不正が生まれる。
各支部のギルド長は、2年で異動、これも、日本の大企業で採用されている方式を真似ている。
権力は必ず腐敗する。
「アルサ、いや、女王陛下、是非、恩赦を」
「お父様、まあ、すっかり、健康的になって」
お父様は、自ら畑を耕し。すっかり、でっぷり太った体から、健康的に痩せた。
セバンさんの世話が良かったからであろう。
「はい、お土産ですわ。異世界イモからつくったサツマポテチですわ。ここで安らかに暮らして下さいませ」
「ヒィ、もう、イモは嫌だ」
私は、女王即位式に、農民解放軍を集めた。数千人はいるだろう。
「農民達よ!野に下れ!」
「「「「オオオオオオオーーーーー」」」」
某国の独裁者がやった手法を真似た。紅衛兵を解散したときのイメージだ。
洗脳を解いた。
この後、アルサは25年間、王位の座についた。
ハインツは愛人を作らず。アルサも第2王配も作らず仲は良好であったと伝えられる。
最後までお読み頂き有難うございました。