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003 レインの苦悩

 重い扉が開かれ、魔王軍四天王の執務室の空気が入れ替わる。


 魔王軍四天王の会議を終えたレインが、少し疲れた様子で立っていた。


「レインくん、おかえり」


 私はこの部屋の主をプニカメたちと共に迎え入れる。


「……誰か来てました?」


 レインは机に置かれた大量の資料に目を向ける。


 表情は変わっていないが、彼の気分が沈んだことははっきりと伝わってきた。


「さっき、カオスさんが書類を届けに来たよ」


 レインは椅子に座ると、その書類を確認する。面倒な仕事だったのか、彼はため息を一つこぼす。


「プニカメちゃんたちの水槽の掃除とごはんは終わらせておいたよ」


「ありがとうございます」


 いつもは合うはずの視線が合わない。レインは私の目を見ようとしなかった。


 やっぱり疲れているのかな。


 会議が終わったと思ったら、執務室には大量の書類。気分が下がるのも納得だ。


 私がプニカメをぷにぷにしていると、背後から視線を感じた。けれど、私が振り返るとすぐに視線を逸らされる。私が体の向きを戻すと、体がこわばってしまうほどにじっと見つめてくる。


 レインの様子がおかしい。


 私はプニカメをぷにぷにしながら、横目でレインのことを観察した。


 仕事をする手は動かしているように見えるが、ペンを弄んでいるだけ。その証拠に、積まれた書類は減っている様子がない。


 レインの異変に気づいた小さなピンク色のプニカメーーほっぺたが、レインの肩によじ登り、彼の頬を触ろうとしている。だが、その短い手は届きそうにない。


 それにも気づいていないのか、レインはほっぺたを気に留めることなく私の背中をじっと見つめたままだ。


「……会議で何かあった?」


 振り向いて声をかけると、レインは驚いてペンを手放した。インクすらつけられていなかったようで、書類は無事だった。


 ほっぺたはレインの肩から転げ落ちないようにがっしりと掴まっていた。それでも、レインは小さなプニカメの存在に気づかない。


「別に何もないです」


 いつもと変わりない抑揚のない声。


 だが、やはり視線が合わない。右にずらされた視線は、私が合わせようとすればするほど遠ざかっていく。


「レインくん、会議から帰ってきてからなんか変だよ」


「……そうですか?」


 変だという自覚はあるのか、レインは私の言葉を否定はしなかった。


 レインが私の視線から逃れるために顔を右に動かしたせいで、小さなプニカメとレインの頬の距離が遠くなった。


 ほっぺたは届くはずのない手をぷるぷるさせながら、体が少し細くなるくらいまでうんと伸ばしていた。


「あっ」


 その努力は虚しく、ほっぺたはレインの腕を転げ落ちた。


「え、あなたいつからそこに?」


 ようやくほっぺたの存在に気づいたレインは、その小さな体をすくい上げた。


「レインくんが帰ってきてからずっといたよ、ほっぺたちゃん」


 レインが顔を上げ、一瞬だけ目が合った。が、その視線はすぐにほっぺたへと移されてしまった。


「すみません、気づきませんでした」


 小さなプニカメは、レインにぷにぷにしてもらってご満悦だ。レインのこわばった表情が少しだけ柔らかくなった気がした。


 私もそばにいた派手な模様の子ーー組長をぷにぷにした。


 組長は「別にぷにぷにとか興味ないし」とでも言いたげな表情だったが、手を離すと、「なんでやめた?」と怒ってきた。


 もう、ツンデレさんなんだから。


 プニカメはものすごく可愛い。世界一可愛い魔物として認定されてもおかしくない。


 しかし今は、視線が気になって癒されるどころではない。


「やっぱり、会議で何かあったでしょ」


「……」


 レインはまた視線を右へ逸らした。言いたいことがあるなら言えばいいのに。


 私はそうだ、と思い立ち、部屋の隅に置かれたポットを手に取った。


 お湯を沸かす。水を入れてスイッチを押すだけ。魔道具って便利。


 マグカップに粉末のコーヒーを入れ、お湯を注ぐ。これだけで美味しいコーヒーができあがる。


 粉末のコーヒーはまだ発明されたばかりで、市場には出回っていない。魔王城に試供品が配られたらしく、コーヒー好きのレインは多めにもらったらしい。


 コーヒー以外にも、粉末の紅茶やチョコレートもあるらしいが、レインはどちらも好まないため、執務室には置いていない。


 マグカップをレインの机に置く。


「レインくん、ちょっと休憩したら?」


 レインは置かれたマグカップを見て、それから私を見た。


 レインはたぶん、私に話したいことがあるけど、どう切り出そうか悩んでいる。


 中々切り出せないようだから、少し手助けしようと思う。レインがずっとこんな調子でいられると、私も落ち着かない。


「……ありがとうございます」


 レインはそう言うと、マグカップに口をつけた。


 数秒間の沈黙。レインは揺れるコーヒーを見つめながら、どう話そうか考えているようだった。


「あの、シエルさん……」


「ん?」


 レインは顔を上げ、しっかりと私の目を見つめた。自分の中で話はまとめられたようだ。


「相談したいことがあります」


 レインの肩の上にちょこんと乗っているほっぺたが、彼の真似をして私を見つめた。


 にやけそうになるのをぐっと堪え、私は彼の話に耳を傾けた。

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