第四十話 無事旅立てそうですっ!!
「おい、死神。…その船、俺に売る気無いか?」
若の言葉を聞き流し、私達は出発の準備をしていた。
ナンエゴ大陸の大きな問題は解決したし、試練の書に書かれた試練もナンエゴ大陸の分はクリア。おまけとして【ムラサキノツキ】についても説明済。
やれる事は全部やったので次の大陸へ行こうとアレク様と話した訳で、今はその準備中。
荷物を詰んでしまえばいつでも出発出来るのだけれど。
アレク様がリゼ様と何やら話している。
…これは焼き餅をやいてもいい案件では…?
と思ったのだけれど、同じく私に若が話かけてくるものだからリゼ様から嫉妬の視線が飛んで来ている。
お互い様だわ。
「死神。ほんっとお前位だよ。俺を無視するような奴は」
「あぁ、大丈夫大丈夫。きっとこれからもっとそう言う人が増えるよ」
「俺の立場が危うくなるって言うのか?」
「そうでなくて。リゼ様との間に子供が出来たらって意味よ」
「…あぁ、確かに。自分の子供だったら反抗期が絶対あるだろうしな」
うんうんと頷いている若に上手い事話を逸らせたと思っていたけれど。
「それはそれとして、その船なんだが」
「逸らせてなかったか…ちっ」
「お前俺を馬鹿にし過ぎだろ」
「尊敬は出来ないなー。尊敬出来る要素がほっとんどないもの。それから船ねー。現魔法で作って売っても良いんだけど。壊れた時どうするの?」
「あー、そうか。死神がいないと直す事が出来ねぇのか」
「いや、私がいても治せないわよ?私が出来るのは作りだす事だけだもの。そこから先は技術者の仕事だからね。商売の為だけなら売る気にはなれないわね」
「約束反故にするのか?お前交渉しても良いって言ってただろうが」
「それは服の話でしょう?服に関してはこの国の人達が頑張って分析出来そうだからいいよと言ったし、ちゃんとあの時あった衣装は全てあげたでしょう」
「それはそうだが…」
「何?不服なの?」
「そりゃ不服だろ。こんなに金になりそうなものがごろごろありゃ」
「人を金蔓扱いしないでくれる?服もそうだけどちゃんっと生地がどうなっているのか、精製方法が確立してから売りなさいね。専門科にみせるなり何なりして。間違っても、あれをそのまま売ろうなんて思わない事ね」
「うっ…勿論解ってる」
ならなんで今唸ったのかしら?
とは聞かないで置いてあげよう。私の微かな優しさである。
まぁ、若は口ではそう言いながらも商売に関してはちゃんとやる人だろうから心配はいらないだろう。
所でそんな事よりも私はさっきから気になる事が一つあるんだ。
「ねぇ、ウーゾ?」
「これは何処に運べばいい?って、何だ?呼んだか?嬢ちゃん」
リアンとマリンの荷運びをせっせと手伝っているウーゾ。
私は気付いていた。その荷物の中にウーゾの服やら何やらが入った袋が一緒にある事を。
「呼んだと言うか。何でウーゾも一緒に船に乗ろうとしてるの?」
「ん?そりゃ一緒に行くからだろー」
「だろー、じゃねぇのよ。何の目的で」
言った瞬間ウーゾは視線をちらりとリアンに向けた。
あったわ、目的。成程、そゆことね。
「…ちゃんとした男じゃないと私の大事な親友はあげられないからね。覚悟して」
「ん?って事は嬢ちゃんの御眼鏡に叶えば応援して貰えるって事か?」
「まぁ、そうね。それにリアンが良いと言えば反対する理由はなくなるし」
「俄然やる気が出て来たぞ~っ!」
「……絶対付いてくるのねー…」
アレク様と二人旅は出来ないと知ってはいたけれど、人数が増えるのは予想外だわ。
トゥーティスから白藤ちゃん、ナンエゴからはウーゾ、か。
……船、少し大きくしないといけないかもしれない…。
「フローラ様」
「リゼ様?」
リゼ様がいつの間にかアレク様との話を終え、こちらに歩いてきた。
「殿下をお返しいたしますね」
「ありがとうございますっ!」
では遠慮なくっ!ぎゅーっ!
アレク様も抱きしめ返してくれる。あぁ幸せだねっ!
「次は、どちらの大陸へ行かれるんです?」
「一応西のセイガン大陸へ行く予定です」
「セイガン…。セイガンと言えばフローラ様。カロット伯爵令嬢と最近連絡とれていまして?」
「カロット伯爵令嬢とですか?」
記憶を辿ってみると確かに最近音信不通になっている気がする。
「最後に連絡とれたの何時ですか?」
「……去年ですね」
「私もです」
「え?」
ちょっと待って?
私だけ連絡とれてないのかと思ってたらそうじゃないの?
リゼ様もってことになると話が変わってくる。
「白藤ちゃんっ」
既に船の中に乗りこんでサルの入ってる水槽の横に座っている白藤ちゃんを呼ぶと彼女は直ぐに気付いてこちらに来てくれた。
アレク様の腕から出て彼女を抱き上げる。
女同士の話があると空気を読んでくれた麗しいアレク様は若達の方へと歩いて行く。
それを横目で泣く泣く見送って先程の話に戻った。
「白藤ちゃん。白藤ちゃんはカロット伯爵令嬢と今でも連絡とれてる?」
「カロット伯爵令嬢様ですの?いえ。えーっと…去年の終わり頃からぴったりと」
「白藤様もですか?」
「…その言い方ですと、もしかしてお姉様達もですの?」
私達は頷く。白藤ちゃんが私達の中で一番年上なのに何故にお姉様呼ばわりするのかと言う疑問は一先ず置いておく。
「何か、あったのでしょうか…」
「この感じだと恐らくタフィ様にも連絡がとれていなさそうですし。…フローラ様」
「はい。セイガンに着き次第直ぐに確認に伺います」
「何か解ったら直ぐに連絡ください」
「はい」
「でも、ちょっと待ってですの」
「白藤様?」
「カロット伯爵令嬢様は去年から学院に入学している筈ですの」
学院…。そう言えばそうだった。
セイガン大陸は炭鉱で栄えた地だが、もう一つ、学術の都市とも言われており庶民の子であろうとも学院へ通わされる。
その学力は抜き出ており他大陸の貴族や王族はわざわざ船を出し留学へ行くくらいだ。
とは言え現代日本には敵わないだろうけども。
そんな学院に入学しているとなると確かに手紙を書く暇はないかもしれない。
「規則で手紙を出すのは禁止されている、とか?」
「いえ。そんな規則はありませんでしたよ。むしろ手紙は字を書く練習や文章の構成を考える勉強にもなるので推奨されているくらいです」
「リゼ様は留学されていたんでしたっけ。じゃあ確かな情報ですよね。そう言えばセイガン大陸に【聖女】が現れた、とかウーゾが言っていました。それと何か関係しているかもしれません」
「…カロット伯爵令嬢…マイア様は大丈夫なんですの…?」
「それは行ってしっかり確かめましょう。私達に語れなかった何かがあるかもしれないし」
「フローラ様。宜しくお願いします」
「はい。何か解りましたら直ぐにお知らせします。あ、そうだ、これを」
作っておいた携帯電話。スマホを現魔法で作っても良かったんだけど、今回は二つ折のガラパゴスにしました。
「白藤ちゃんとアレク様にも渡していますが」
操作方法をしっかりと教えてリゼ様も直ぐに覚えてくれたのでよしよし。
因みに本来白藤ちゃんは大陸に残ると思ったので王林様に白藤ちゃんに渡すように伝言を残してガラパゴス携帯を渡したのに、白藤ちゃんが付いて来てしまったので王林様に使って貰うようにしました。
電波塔がないのにどうやって電話するのかって?勿論精霊力で。
王林様にどうやって説明したのかって?私達がもちゃもちゃこの大陸でしている間にマリンがひとっ走りして。
「こちらを使って直ぐに連絡しますから。…あとこちらはあちらに。分解などさせないようにしてくださいね」
私が視線だけで若を示すとリゼ様はふふっと笑いながらしっかりと頷いて受け取った。
「そろそろ話しまとまったか?」
アレク様が私の側まで戻って来た。
私はしっかりと頷いて、白藤ちゃんを腕から降ろす。
白藤ちゃんはダッシュで船へと戻り、ウーゾも何だかんだでちゃっかり船の中へ入っている。
船の中を見るとリアンとマリンもしっかりと頷いていた。
出発の準備が整ったらしい。
「死神。…世話になったな」
破顔して言う若に私は令嬢としての笑みを浮かべて静かに頭を振った。
「私はただ夢を見せただけです。むしろ良く耐えましたよね。普通は夢でも発狂してもおかしくないですよ。夢とは言え何度も自分の死を体験するのですから」
「確かに、お前がやったことはかなり精神を削られた。だが、あれはありえた未来でもあった。それを知れて踏み止まれたのは、今こうしてリゼの横にいられるのはお前が教えてくれたからだ」
そう素直に言われるとどう言う顔をして良いか解らないな、と若の言葉を聞いていると横に立っていたアレク様がそっと私の腰を抱き寄せて若に向かって静かに口を開いた。
「……王族や長はいくつもの可能性を考えて動かなければならない。フローラが見せたのは可能性の中でもまだ軽い方だった」
「アレク様?」
そっとアレク様を見上げるとそれはそれは尊い笑みを浮かべ私の頭を撫でてくれた。し、死ぬ…っ。
そんな風に私には優しい笑みを浮かべてくれたが、若には厳しい眼差しを向けた。
「ヴィア殿。これからはもう少しあの夢を更に深く考える事をお勧めする。勿論リゼ殿もだ」
「深く…」
「そうだ。どんな夢の内容だったか、後からフローラに聞いたが。ヴィア殿は考えていたか?もしリゼ殿が殺された時、その腹の中にヴィア殿の子が生まれていたら?そうなればヴィア殿はリゼ殿だけではなく子も失っていた事になる」
「子も…」
「自分の愛おしい人。そして自分。全てを守れてこそ主であり長だ。これからヴィア殿は二つの国を守る責務が生じる。譲り渡す事だけが民を生かす方法ではない。リゼ殿と共にもっと方法を探ってみてくれ。どうやらリゼ殿はフローラと一緒で頼りがいがありそうだからな」
なにそれっ、アレク様っ。ふっと息を抜いて笑った顔カッコ良過ぎるんですけどっ!
若も何やら微笑んでいるけれどそんなのどーでも良いっ!
アレク様、素敵ぃぃぃぃぃっ!!
「…戦が起これば、また神が救いの手と称して【ムラサキノツキ】のような何かを仕掛けてくるかもしれない。俺達は神の力に頼る事なく俺達の力で国を世界を守って行く必要がある。それには勿論ナンエゴ大陸の協力だって必要だ」
「解っている。アレク殿の言葉、しっかりと胸に刻んでオーマ大陸にとって最高の同盟相手になるよう国を導いて見せる」
そう言って若が差し出した手をアレク様はしっかりと握り返した。
「これからが大変そうですが、大丈夫そうですね、リゼ様」
「えぇ。私の最愛の人が国を導いてくれるんですから」
私とリゼ様も互いに微笑み合った。
「さて、そろそろ行こうか。フローラ」
「はいっ。行きましょう、アレク様っ」
私達は二人に向かって優雅に礼をして船へと乗り込んだ。
運転はもうすっかり覚えてくれたマリンに任せている。
座席に座った事を確認すると船は動き出した。
窓から顔を出して白藤ちゃんが大きく手を振っている。
兎姿のまま振っているので海に落ちそうで怖い。
そう思っていたんだけども、そんな白藤ちゃんの腰にしっかりと紐が結ばれていてその先はウーゾが握っている。まさかの命綱。
なら大丈夫かとその姿を見守っていた。
見送ってくれた二人の姿が見えなくなると白藤ちゃんが指定席であるサルの水槽の隣へ座る。
「無事、戦争にもならず大陸は発展して良い事尽くしだったな。嬢ちゃん、ほんとありがとな」
「私はなーんにもしてないよ。頑張ったのはウーゾの所の若でしょ。それよりさ。ウーゾは付いて来て良かったの?お兄さんに何かしら言われたんだじゃない?」
「あー、言われたからこそ付いてきたんだよ。嬢ちゃん達の動きは今一番大事な事だから目を離すなってな」
「わお、堂々とスパイ発言」
「スパイって黙ってた所で直ぐバレるだろうが。だから良いんだよ。裏切るつもりはねぇし、ま、仲間だと思っててくれよ」
「トゥーティスの事を考えるとねー。仲間ってのは無理があるんじゃなーい?」
「うっ…」
「なんちゃって。ふふっ。大丈夫大丈夫。ウーゾに裏切られた所で痛くも痒くもないから」
笑顔で答えてやると不貞腐れるウーゾ。
そんな私をアレク様は抱き上げると、何故か自分の御膝の上に乗せた。
「フローラ。ウーゾの事は良いから俺の相手してくれないか?」
え?なにそのかんわぃぃ嫉妬とおねだりっ!?
「了解ですっ!」
すりすりと胸に擦り付いてアレク様の腕の中を堪能する。
「…最近、その骸骨の顔でもアレクに甘えている表情が可愛く見えるんだから驚くよなぁ」
「……ウーゾ。その目、潰すからちょっと近くに来い」
「何でだよっ!怖ぇなっ!!」
「フローラが可愛く見えるのは俺だけで良いからな」
「お前、そんな奴だったかっ!?」
アレク様とウーゾが何か言い合っているけど、私は今アレク様の心音を堪能しているから気にしない。
アレク様、私をこうして抱き寄せてくれている時、ちゃんとドキドキしてくれてるのが解って、すんごい幸せを感じるんだよね…。
幸せだったから、気付かなかった。
「……本当にこのまま何もなく終わるのか…?」
「マサル様?どうかなさったんですの?」
「……日に日に胸騒ぎが増していく…。何なんだ、これは…」
サルがぼそりと呟いていた言葉。
それに気付いていれば、後の私は後悔せずにすんだのに―――……。
少し遅刻してしまった…(´・ω・`)




