~絶叫マシーン~
ワールドパークはその名の通り、世界をテーマにしている。
各国の城や山、川。
一つ一つに趣向を凝らして、楽しませてくれる。
「ここがこんなに空いてるなんて、考えられないね」
俺は、いつもなら混んでいるアトラクションに、並ぶことなく乗れることが驚きだった。
どんなに走っても、誰にもぶつかることがない。
それでいて、パレードもしっかりと時間時間にやっている。
どことなく、寂しさはあるが、千里と二人ならどんなところでも楽しかった。
「次はマウントコースターに乗ろうよ!」
今まで、ジェットコースターは心臓に悪いからと、決して乗らなかった。それが、今日は自分から乗りたいというのだ。
「いいのかよ」
「なにが?」
「だって、お前。心臓」
千里は可笑しそうに笑った。
「大丈夫だよ。だって」
『だって』のあとが続かない。
俺は千里を見た。
千里は何かを打ち消すように、顔を左右に振ると、明るい笑顔を俺に向けた。
「今日はいいんだよ! それとも、久の方こそ、怖がってるとか?」
「バカ言え! 俺は、絶叫系は好きなんだよ。今までは、お前に合わせて乗らなかっただけさ」
「へぇ~ そうなんだぁ」
憎たらしい千里の言い方に、本心を見透かされたようで、ドキッとする。
実際、絶叫系は乗りたくないのだ。
しかし、今日はなんにだって挑戦したい気分だ。
せっかくのチャンスだ。
千里と乗る、最後のチャンスなのだ。
並ぶことなく、乗ることが出来る。
俺は千里の隣で、シートベルトを締めた。
多分、顔が引きつっていただろう。
千里は面白そうに笑っていた。
ゆっくりと動き出す。
登ったり降りたりの連続で、体が宙を舞うような感覚の中、俺は確実に絶叫して
いたと思う。
俺の横で、平然と千里が笑っていた。
「楽しかったね~」
絶叫マシンから降りると、俺はめまいを起こしているのではないかと思うほど、歩くのが困難だった。
しかし、千里のほうは、なんともないのか元気に歩いている。
「こんなに面白いとは思わなかった」
こんなに辛いとは思わなかった。
「久、ギャーギャー騒いでたね。まさに、絶叫だった」
「うるせーよ。せっかく絶叫系に乗ったのに、絶叫しなくちゃもったいないだろ」
「負け惜しみ~」
相変わらず憎たらしい。
「次はあれがいい!」
こうして、絶叫系に乗りまくり、やっと落ち着いてくれたのが夕暮れ近くなってからだった。