エピローグ
その魔王討伐パーティーの面接会場で、青年・クロノが差し出したギルドカードを見た面接官は、思わず吹き出した。
「おいおい、君の固有スキル……『森羅万象・完全看破』じゃないか。世界中のあらゆる知識、敵の弱点、魔法の構造をすべて脳内に引き出せる最上位の神スキルだ。なのに、希望職種が……『前衛物理アタッカー(剣士)』?」
「はい。剣で戦いたくて」
「馬鹿言っちゃいけない! 君のそのスキルなら、後衛から魔法の最適解を指示する『軍師』か『大魔導士』が適任だ。ひ弱な頭脳派が前線に出たら一瞬で消し飛ぶぞ」
面接官の言葉はもっともだった。この世界では、授かったスキルの特性に合わせた職業に就くのが絶対の常識。強力な知識系スキルを持つ者は、例外なく安全な後衛から指示を出すのが定石だった。
だが、クロノは譲らなかった。
「試してみてください。もし使えないと思ったら、不合格で構いませんから」
第一の試練:剣士としての「看破」
実技試験として用意されたのは、鉄をも切り裂く爪を持つAランク魔獣「アイアン・タイガー」だった。
「おい、危なくなったらすぐに助けてやるからな!」
面接官が武器を構えた瞬間、クロノはすでに一歩を踏み出していた。彼が手にするのは、どこにでもある平凡な鉄のロングソード。
ガルルルッ! と咆哮をあげて飛びかかるアイアン・タイガー。
その瞬間、クロノの瞳が淡く輝く。彼の脳内には、スキルの効果によって「アイアン・タイガーの重心の偏り」「筋肉の収縮タイミング」「次の攻撃の軌道」が完全に秒単位でプロットされていた。
「そこ」
クロノは最小限の動きで爪をかわすと、鋭い踏み込みから剣を突き出した。
一見、何の変哲もないただの突き。しかしそれは、魔獣の毛並みの流れ、皮膚の最も薄い隙間、そして心臓へと繋がる魔力経路の交差点を寸分の狂いもなく貫く「絶対の最適解」の一撃だった。
ドサリ、と巨体が崩れ落ちる。
「な……!? スキルによる身体強化もなしに、ただの剣術でAランクを一撃だと……!?」
「『完全看破』は敵の弱点だけじゃなく、自分の身体の最も効率的な動かし方も教えてくれるんです。だから、筋力任せに振るより深く斬れるんですよ」
第二の試練:あらゆる職業での「無双」
クロノの実力を測りかねた試験官たちは、彼に様々なテストを課した。しかし、それがクロノの異常さをさらに際立たせる結果となる。
「斥候」のテストにて
国家最高レベルのセキュリティを誇る迷宮の罠地帯。
クロノは「看破」によって、床の踏み板の磨耗具合、空気の格子の歪み、仕掛けられた魔法陣の術式をすべて見抜いた。ステップを踏むように踊りながら、すべての罠を無力化して最短秒数で踏破。
「鍛冶師」のテストにて
ただの鉄くずを炉に入れ、ハンマーを叩きつける。
「看破」が告げるのは、金属分子の結合が最も強固になる温度と、叩くべき正確な座標。カン、カン、と数回叩いただけで、国宝級の魔剣が誕生した。
「回復術士」のテストにて
不治の呪いに侵された患者の前に立つ。
「看破」は呪いの構成術式を完全に解読。クロノが初級の解毒魔法をほんの少しひねって発動しただけで、複雑な呪いはパズルのピースが外れるように霧散した。
常識の破壊
「君は……一体何者なんだ……。どんな武器を持たせても、どんな職業をやらせても、それぞれの専門職のトップを遥かに凌駕している……」
呆然とする面接官たちに、クロノは剣を鞘に収めながら、少し照れくさそうに笑った。
「言ったじゃないですか。このスキルは『何でも分かる』んです。なら、どの職業をやったって、その『正解』通りに動けばいいだけですから」
最強の頭脳スキルを持って、あえて前線で剣を振り、時には道具を作り、時には仲間を癒やす。
常識に縛られた異世界の人々を置き去りにしながら、万能を体現する少年の冒険がここから始まるのだった。




