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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第八章 生きるということ

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最終話『醜いけれど美しくもある世界』

 その後、私とぶーちゃんは人が立ち入ることができない空間へ向かう。

 一面が純白の世界。

 木も川も動物も建物も、すべてが白い。

 そこは神が住まう楽園であった。


 ぶーちゃんが私を神様のもとへいざなってくれたのである。

 神様は光の集合体で、眩しくて直視できない。

 本当に神様なのかと疑ってしまったのだが、ぶーちゃんは間違いないと頷く。

 神話などで伝わっている神様の姿は、都合がいいように人が造ったものだったのだろう。


 あまり長くはいられない。一刻も早く、願いを伝えなければ。


「あの、今日は、お願いがあってここにまいりました」


 私達の願い。それは、王族から才能ギフトを授ける能力を奪ってほしい、というものである。


 どうして? と神様が私に問いかけてくるような気がした。


「王族の人達は、才能ギフトを都合よく人々に授け、自分達が神のような振る舞いを繰り返してきました。それは、あってはいけないことだと思っています」


 そもそも、人に才能ギフトは必要なのか、と神様は問いかけてくる。


「ひとつ言えるのは、才能ギフトがあってもなくても、人生というものは苦しいこともあれば、楽しいこともある……」


 人々から才能ギフトがなくなったとしても、犯罪は起こるし差別もされる。

 皆が平等という世界にはならないのだろう。


「ある人が、私には、天賦の才能ギフテッドがあると言いました」


 同じように人々には得意分野があって、それを生かしながら生きられるのではないか、と思う。


「もちろん、そういった能力があっても、幸せになれるとは限りません」


 皆、人生という名の大海を、もがき苦しみながらも生きているのだろう。

 だから、あえて才能ギフトを与えなくてもいいのではないのか。


「人は生きることに貪欲です。別に才能ギフトなんてなくても、生きていけると思うのです」


 そう訴えると、神様は意外なことを伝えてくる。

 なんでも、もともと神様は人々に才能ギフトを与えていなかったらしい。

 皆、もともと持つ能力のみで生きていたようだ。

 神様が才能ギフトを与えていたというのは、人間達の思い込みだった。

 だからこの先も、神様は人間界に介入せず、見守っているだけだと言う。


 眩い光に包まれる。

 それは、王族から才能ギフトを授ける能力を神様のもとへ戻す魔法だった。


 処刑されそうになっていたイーゼンブルク猊下のもとには、回復師が現れる。

 彼女は荒ぶる人々に訴えた。


「――彼はもう、才能ギフトを授ける能力を失ってしまった! これまでの罪は、生きて償うべきだ!」


 これまで多くの負傷者を回復し、守ってきた彼女の言葉は、怒りに支配されていた人達の心に届いたようだ。


 騎士達の象徴である竜騎兵のほとんどを失い、混乱状態にある騎士隊は、勇者様(本物)が落ち着かせていた。

 邪悪竜を倒した勇者様(本物)に騎士達は従う。


 王族達に反感を抱く貴族達には、公爵と勇者様が間に入って取り持っていたようだ。

 各々の役目を果たすよう説き伏せたらしい。


 国王は退位させたのちに幽閉する。

 すぐに王家のご落胤を即位させ、混乱は最小限にとどめたようだ。


 あっさりと事態は終息していった。


 ◇◇◇


 すっかり平和になった世の中で、私は勇者様(本物)のご実家でメイドとして働くことになった。

 草むしりから始まって、今は皿洗いまで昇格している。

 毎日おいしい食事とふかふかの寝床、温かい部屋が用意されているだけでも贅沢な話だ。

 ぶーちゃんやイッヌ、メルヴと一緒に休日を過ごすのが、私の楽しみである。


 勇者様は国王を補佐する仕事に就いているらしい。

 公爵曰く、国王よりも偉そうにしているのだとか。

 新しい国王は威厳が足りないようなので、勇者様から学べるのではないか、と話している。

 親バカなのは相変わらずのようだ。


 勇者様(本物)は騎士隊をまとめる隊長に任命されていた。

 誰よりも強く優しい彼女に、ぴったりな仕事だろう。

 賢者は勇者様(本物)を支えるために、傍にいるようだ。

 国としても、魔法に詳しいエルフがいるのは大助かりに違いない。


 回復師はイーゼンブルク猊下がいなくなったあとの教会を任されたようだ。

 忙しい日々を過ごしているようだが、マメに手紙を送ってくれる。


 このように、皆、各々の人生を忙しく過ごしているようだ。

 人々から才能ギフトという概念がいねんはなくなったようだが、これまでできたことがなくなるわけではなかった。そのため、特に混乱することなく世の中は動いている。


 楽しいことも、苦しいこともある世界だが、以前よりは過ごしやすくなったのではないか。

 そう思えてならなかった。


 クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです 完

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