最終話『醜いけれど美しくもある世界』
その後、私とぶーちゃんは人が立ち入ることができない空間へ向かう。
一面が純白の世界。
木も川も動物も建物も、すべてが白い。
そこは神が住まう楽園であった。
ぶーちゃんが私を神様のもとへ誘ってくれたのである。
神様は光の集合体で、眩しくて直視できない。
本当に神様なのかと疑ってしまったのだが、ぶーちゃんは間違いないと頷く。
神話などで伝わっている神様の姿は、都合がいいように人が造ったものだったのだろう。
あまり長くはいられない。一刻も早く、願いを伝えなければ。
「あの、今日は、お願いがあってここにまいりました」
私達の願い。それは、王族から才能を授ける能力を奪ってほしい、というものである。
どうして? と神様が私に問いかけてくるような気がした。
「王族の人達は、才能を都合よく人々に授け、自分達が神のような振る舞いを繰り返してきました。それは、あってはいけないことだと思っています」
そもそも、人に才能は必要なのか、と神様は問いかけてくる。
「ひとつ言えるのは、才能があってもなくても、人生というものは苦しいこともあれば、楽しいこともある……」
人々から才能がなくなったとしても、犯罪は起こるし差別もされる。
皆が平等という世界にはならないのだろう。
「ある人が、私には、天賦の才能があると言いました」
同じように人々には得意分野があって、それを生かしながら生きられるのではないか、と思う。
「もちろん、そういった能力があっても、幸せになれるとは限りません」
皆、人生という名の大海を、もがき苦しみながらも生きているのだろう。
だから、あえて才能を与えなくてもいいのではないのか。
「人は生きることに貪欲です。別に才能なんてなくても、生きていけると思うのです」
そう訴えると、神様は意外なことを伝えてくる。
なんでも、もともと神様は人々に才能を与えていなかったらしい。
皆、もともと持つ能力のみで生きていたようだ。
神様が才能を与えていたというのは、人間達の思い込みだった。
だからこの先も、神様は人間界に介入せず、見守っているだけだと言う。
眩い光に包まれる。
それは、王族から才能を授ける能力を神様のもとへ戻す魔法だった。
処刑されそうになっていたイーゼンブルク猊下のもとには、回復師が現れる。
彼女は荒ぶる人々に訴えた。
「――彼はもう、才能を授ける能力を失ってしまった! これまでの罪は、生きて償うべきだ!」
これまで多くの負傷者を回復し、守ってきた彼女の言葉は、怒りに支配されていた人達の心に届いたようだ。
騎士達の象徴である竜騎兵のほとんどを失い、混乱状態にある騎士隊は、勇者様(本物)が落ち着かせていた。
邪悪竜を倒した勇者様(本物)に騎士達は従う。
王族達に反感を抱く貴族達には、公爵と勇者様が間に入って取り持っていたようだ。
各々の役目を果たすよう説き伏せたらしい。
国王は退位させたのちに幽閉する。
すぐに王家のご落胤を即位させ、混乱は最小限に止めたようだ。
あっさりと事態は終息していった。
◇◇◇
すっかり平和になった世の中で、私は勇者様(本物)のご実家でメイドとして働くことになった。
草むしりから始まって、今は皿洗いまで昇格している。
毎日おいしい食事とふかふかの寝床、温かい部屋が用意されているだけでも贅沢な話だ。
ぶーちゃんやイッヌ、メルヴと一緒に休日を過ごすのが、私の楽しみである。
勇者様は国王を補佐する仕事に就いているらしい。
公爵曰く、国王よりも偉そうにしているのだとか。
新しい国王は威厳が足りないようなので、勇者様から学べるのではないか、と話している。
親バカなのは相変わらずのようだ。
勇者様(本物)は騎士隊をまとめる隊長に任命されていた。
誰よりも強く優しい彼女に、ぴったりな仕事だろう。
賢者は勇者様(本物)を支えるために、傍にいるようだ。
国としても、魔法に詳しいエルフがいるのは大助かりに違いない。
回復師はイーゼンブルク猊下がいなくなったあとの教会を任されたようだ。
忙しい日々を過ごしているようだが、マメに手紙を送ってくれる。
このように、皆、各々の人生を忙しく過ごしているようだ。
人々から才能という概念はなくなったようだが、これまでできたことがなくなるわけではなかった。そのため、特に混乱することなく世の中は動いている。
楽しいことも、苦しいこともある世界だが、以前よりは過ごしやすくなったのではないか。
そう思えてならなかった。
クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです 完




