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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第八章 生きるということ

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書籍化記念ショートストーリー『吸血鬼を退治せよ!』

 なんでも森の中にある屋敷に、吸血鬼ヴァンパイアが住んでおり、夜な夜な年若い女性を連れ込んでは、吸血行為を繰り返しているらしい。


「勇者様、村の者達は夜な夜な吸血鬼に怯え、暮らしているのです! どうかお助けください!」


  村人は猟師で、よく森の中を歩き回るため、気づいてしまったのだという。

 そこの屋敷には昔から、吸血鬼が住んでいて、年若い女性を連れ込み、吸血行為を繰り返している、という伝承があったらしい。

 正直な話、私達は魔王退治が先決で、このような寄り道をしている場合ではない。

 けれども勇者様は妙に物わかりがよく、村人の訴えを聞き入れてしまった。


「わかった。その邪悪な吸血鬼とやらを退治してやろうではないか!」


 私の言うことなんぞ聞き入れないので、もう止めもしない。

 ただただ、うんざりしながら勇者様のあとをついて回るばかりである。


「して、具体的な被害は? 村人は何人殺された?」

「いえ、村人の被害は今のところ報告されておりません。けれども屋敷の傍を通りかかるたびに、怒号と悲鳴のようなものが聞こえるんです」

「なるほど」


 猟師は何度か、派手な装いの女性が森に入っていくのを見かけていたようだ。


「ならばそれが村の者ではないのか?」

「いいえ、違うと思います」


 なんでも村の外れに、娼館があるらしく、そこで働いている女性なのではないか、という話らしい。


「娼館で働く者が殺されていたとしたら、何か具体的な話が噂話として流れてきていないのか?」


 娼館の客は村の男達だろう。働いている女性達を通じて、何か話を聞いているはずだ。


「いいえ、何も。娼館に通っているのは、主にこの村へやってきている貴族達ですから」


 なんでもここの村は貴族達の保養地として有名らしく、温泉と共に、娼館でのひとときを楽しむ目的でやってくるらしい。


「それに、娼館で働く者達は全員わけありで、いなくなっても問題にならないような人ばかりだそうで」


 犯罪に手を染めて逃げてきた者や、不貞を働いて追放された者などなど、天涯孤独の身で行く当てもない女性ばかりで、何かあっても大事にならないようだ。


「なるほど。そういう事情だったのか」


 その辺の話は、猟師が肉を納品している食堂で働く噂好きの従業員から聞いたという。

 ここで私は初めて口を挟んでみた。


「あの~、被害者が娼館の人達のみならば、村の方々に被害がいく心配はないのでは?」

「なっ!?」


 私の主張に、勇者様は納得しかける。


「言われてみればそうだな……。ならば、退治は必要ないか」

「いやいや、待ってください! 被害者がいるのに、見て見ぬ振りをするなんて、あなた、それでも勇者ですか!?」


 その言葉は勇者様の胸に響いたのだろう。

 依頼を正式に引き受けてしまった。

 なんというか、チョロ過ぎるの一言だった。


 村人から地図を受け取り、私達は屋敷を目指す。

 森は鬱蒼と木々が生えており、昼間だというのに薄暗い。

 行き着くまでに魔物に襲われて死ぬのではないか、と思っていたものの、運良く屋敷に到着できた。


「ここは……」

「うわあ」 


 屋敷は古びたレンガ建てで、庭は墓地になっていた。

 窓には蜘蛛の巣が張ってあり、カーテンはボロボロであった。

 墓の土は昨日か今日掘り返したかのうような土の具合で、どこからともなく肉が腐ったような異臭もする。

 なんて不気味なのか。


「勇者様、吸血鬼は上位ハイクラスの魔物ですよ。倒す自信はあるのですか?」

「吸血鬼は人間型ヒューマノイドの魔物だろう? 話せばわかるのではないか?」


 そんなバカな……。

 以前、腐死者ゾンビ不死者リッチに殺されていたのを忘れているのだろうか? 

 いくら人間型でも、魔物は魔物である。

 何度、痛い目に遭っても学習しないのだろう。

 止めるのもバカバカしいので、指摘せずに放置しておいた。


 怖いもの知らずな勇者様は扉をノックするも、反応はない。


「昼間なので、眠っているのでは?」

「ならば、眠っている間に退治してしまおう」


 先ほどの話せばわかる、という作戦はどうしたのか。

 勇者らしくない、卑怯極まりない戦術であった。

 けれどもただただ正義感を第一に戦っていたら、いつか身を滅ぼしてしまうかもしれない。

 勇者様が予備の勇者として抜擢された理由は、こういう邪道な一面があるからなのだろう。


 勇者様はどこから入ろうか迷っているところに、近づく人影に気づいた。


「あの、こちらに人が近づいてきています」

「なんだと!?」


 振り向いた勇者様はギョッとする。

 それも無理はない。金色の長い髪をなびかせ、真っ赤なドレスをまとった女装の大男がやってきていたから。


「あ、あれが吸血鬼なのか!?」

「いえ、違うかと。吸血鬼は昼間に活動できないはずなので」


 一応、吸血鬼の中にはデイ・ウォーカーという太陽に耐性のあるタイプもいるようだが、彼……いいや、彼女はそうではないだろう。

 女装の大男は私達に気づくと、にっこり微笑みかけながら話しかけてきた。


「あら、先生のお客様かしら?」

「先生、ですか?」

「違うの?」


 吸血鬼退治にやってきた、と言いかける勇者様の口を塞ぎ、森で迷ってここまで行き着いた、という話をした。


「でしたら、中でお茶でもどうぞ!」

「ありがとうございます」


 ここで女装の大男は、編集者だと語った。


「編集者?」


 小首を傾げる勇者様の隣で、私は真実に気づきつつあった。

 編集者を名乗った女装の大男は、紅茶を出してくれた。

 勝手知ったる他人の家、というわけなのか。


「先生ったら、相変わらず、昼夜逆転の生活をしていて、困っちゃうわ。たまには太陽の光を浴びないと、人間は元気がなくなっていくというのに」


 その話を聞いて、私が考えていたことは間違っていなかったと確信する。

 ついでに、気になっていたことを質問してみた。


「あの、庭の腐臭はなんなのですか?」

「ああ、あれは、先生が生ゴミを庭に埋めているようなの。きちんと処理をしてって訴えても、聞く耳を持たないのよ」


 どうやらあの臭いは、心配するようなものではないらしい。


「ごめんなさいね。少し先生とお話してくるから、ゆっくり寛いでいてくれるかしら?」


 編集者がいなくなったあと、すぐに勇者様に耳打ちする。


「勇者様、どうやら吸血鬼というのは誤解みたいです」

「どこをどう見たら誤解だとわかったのだ?」

「それは――」


 ここは昼夜逆転している暮らしを営む、小説家の隠れ家だろう。


「夜間にのみ活動する小説家を吸血鬼だと勘違いし、派手な格好をした編集者を、娼館の女性だと見間違えたのでしょう」

「小説家はいいとして、どうしてあれを娼館の女だと見間違えるというのだ?」

「遠目だったと言っていたので、そう見えてしまったのも仕方がない話ですよ」


 数分後、起きてきた小説家は、頬がこけるほど痩せ細り、不健康な様子から、物語に登場する吸血鬼のようだった。

 これでは誤解されるのも無理はないだろう。


 私達は正直に、吸血鬼として通報があって、様子を見に来たということを告げた。

 編集者は大笑いし、小説家は落ち込んでいた。


「先生、このネタ、面白いから次回作にしましょうよ!」

「まあ、そうだな」


 編集者と小説家は村まで行って、説明してくれるという。

 そんなわけで、一緒に村まで戻った。


 真実を知った村人は、ホッとしているようだった。

 ここで、村人の家から一人の女性が出てくる。

 村育ちとは思えない派手な格好をした女性だった。

 なんと、村人の妻が娼館で働いていた女性だったようで、吸血鬼の標的になるのではないか、とヒヤヒヤしていたらしい。

 村人に被害はないのに、妙に食い下がるな、と不思議に思っていたのだ。


 そんなわけで、吸血鬼は存在すらしていなかった。

 無事、問題は解決したわけである。


「今日も迷える子羊を救ってしまったな」


 ――勇者様、子羊ではなく、世界を魔王から救ってください。

 そう、心から思ったのだった。


挿絵(By みてみん)

『クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティーはもう終わりです』が書籍化し、本日発売となりました。

書籍版は勇者様と魔法使いの不毛なやりとりを加筆し、巻末には書き下ろし短編も収録されております。

お手に取っていただけたら嬉しいです!


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