魔法使いひとりで
絶体絶命の危機が眼前に迫る。
もう、助けてくれる仲間は誰ひとりとして生きていない。
けれども今だけは、ただただ都合がよかった。
私の命を刈り取ろうと襲いかかる蔓に向かって、私は言葉を紡ぐ。
「――竜巻」
それは鳥系モンスター、ロックが私に使った才能である。
鎌のような竜巻が起こり、私の全身をバラバラに切り裂いてくれた。
同じように、私に接近する蔓はぶつ切りにされていく。
次なる蔓が私に迫る。
その蔓をぐっと掴んで叫んだ。
「氷の爪先」
それはスノー・ガウルが私に使った才能である。
全身氷漬けにして凍死させる、恐るべき技だ。
掴んだ蔓はどんどん凍っていき、全体に広がっていった。
このままでは、捕らえられた回復師まで凍ってしまう。それだけは避けたい。
なぜかと言えば、彼女は聖なる者の才能を持つ聖女だから。
跳び上がって蔓を思いっきり踏みつけながら叫んだ。
「死の行進!」
それはゴブリンが使った、攻撃対象を死ぬまで踏みつける才能である。
凍った蔓を踏みつけると、バラバラに砕け散った。
蔓の上をぴょんぴょん跳びはねながら前に進み、世界樹を登っていきながら破壊していく。
ついに回復師のもとまで接近したが、彼女に巻きついた蔓は凍っていなかった。
「風の刃」
マジシャン・ゴブリンが使っていた才能で蔓を切り裂き、回復師を救出させる。
支える蔓がなくなったので、回復師の体は落下する。と思いきや、不思議な光に包まれ、ゆっくり、ゆっくり下りて行った。
その様子を見て、ホッと胸をなで下ろす。
蔓には核があるようで、そこから蔓がどんどん生まれているようだった。
死の行進を使って蔓を破壊しながら、世界樹を登っていった。
途中、生首状態の勇者様や、磔状態の勇者様(本物)、賢者などが視界の端へ移る。
今は助けている場合ではなかった。蔓をどうにかするのが先決である。
世界樹の中心部まで辿り着くと、蔓が束になって襲いかかってきた。
竜巻を全身に纏い、蔓の接近は許さない。
一歩、一歩と近付くにつれて、蔓はバラバラに切り裂かれる。
ついに核のもとへやってきた。
世界樹にぽっかり空いた窪み、樹洞を占拠するような形で詰まっていたようだ。
私は拳を握って叫ぶ。
「猛烈パンチ!!」
それはアイアン・ゴーレムが使った才能である。
核に拳を叩き込むと、ヒビが入って割れた。
世界樹に巻きついていた蔓は消滅し、魔力の汚染が止まったようで、周囲の邪悪な結界も消えてなくなる。
ふーーーー、とため息を吐いていたら、拳に何か握っているのに気付いた。
それは、芽がでた種である。
種の大きさは胡桃くらいあるのだろうか?
一瞬蔓の種かもしれないと思ったものの、邪悪な気配はいっさい感じなかった。
なんだか大切にしなければならない存在のように思えて、布に包んで鞄の中にしまっておく。
さて帰ろうか。と思って踵を返そうとしたら、微かに声が聞こえた。
『きゅうううううん』
今にも消えてしまいそうなか細い鳴き声には、聞き覚えがあった。
慌てて樹洞の中を覗き込む。
「もしかして、イッヌですか!?」
『きゅん!!』
樹洞の中にいたのはイッヌと――勇者様の首から下の体だった。
どうやらここに閉じ込められていたらしい。
『きゅうううん! きゅうううん!』
イッヌは涙目で私のもとへと迫り、尻尾をぶんぶん振って喜びを表している。
「ああ、イッヌだけは生きていたのですね」
『きゅん!』
「それでは、見てしまったのですか?」
『きゅううん?』
みんな死んでいるから大丈夫だと思っていたのに、イッヌは私が才能を使うのを目撃してしまったそうだ。
「イッヌ、これから勇者様を助けてさしあげますが、私の才能、〝因果応報〟を見てしまったことは、内緒にしていてくださいね?」
因果応報――それは、私を殺した者から才能を奪い、二度と使わせなくした上に、使うさいは私が死んだときと同じように〝必ず殺す〟技だ。
ずっとずっと才能について黙っていたのは、悪用されないようにするためだ。
「イッヌ、わかりましたね? もしも口外したら、勇者様の命は助けないので」
『きゅん! きゅん!』
賢いイッヌは何度も頷き、秘密を喋らないと約束してくれた。
この樹洞は世界樹の中間に位置する。
勇者様と共にどうやって下りようか。
まずは、勇者様の遺体を地上へ落として――なんて考えていたら、私の目の前に世界樹の木の枝が差しだされる。
まるでダンスに誘うような仕草だった。
「もしかして、私達を地上へ下ろしてくれるのですか?」
返事をするように、葉っぱがそよそよと揺れた。
勇者様の遺体を樹洞から引っ張りだすと、世界樹の枝が横抱きにするように抱えてくれた。
イッヌを抱いた私も、優しく支えてくれる。
世界樹の枝に抱かれながら、私とイッヌ、勇者様は地上に降り立った。
私達以外にも、勇者様(本物)や賢者、ぶーちゃんも下ろされていた。
勇者様の生首も転がっている。
まずは回復師を蘇生させて、皆を回復してもらわなければならないだろう。




