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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第四章 世界樹のもとへ……

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世界樹を害する存在(もの)

 世界樹に近付くにつれ悪寒が酷くなり、吐き気をもよおす。

 その原因について、賢者曰く、魔力が汚染されているとのこと。

 生まれたての赤子のように純粋無垢なはずの魔力が、悪しき力によって穢(けが)れているのだだとか。


「それでは、ここに聖司祭を呼んで浄化をしなければならない、というわけですか?」

「いえ、いくら聖司祭でも、これだけ汚染された魔力は浄化できないはずよ。それができるのは聖女しか――」


 聖女と聞いてピンときたものの、モンスターが飛び出してきたのでヒュッと息を呑んだ。

 ぶーちゃんは高く跳びあがり、モンスターを踏み潰す。

 血や肉が飛び散り、お喋りどころではなくなった。

 それから一歩進むにつれてモンスターが現れる。埒が明かないとぶーちゃんは思ったのか、超音波のような叫びをあげた。


『ぴいいいいいいいいいん!!』


 すると、モンスターは苦しみ、血を吐いたあとその場から動かなくなる。

 進行を妨害していたモンスターがいなくなったので、ぶーちゃんは風のように大森林を駆けていった。


 世界樹の周囲には厚い結界が張られていた。

 もちろん世界樹を守るメルヴが施したものではなく、世界樹を悪用している何者かが施していたであろう、邪悪な結界だ。

 それを、ぶーちゃんは体当たりだけで壊してしまった。

 結界がガラスのようにパラパラと崩れる中、ついに世界樹のもとへ辿り着く。


 勇者様と賢者はぶーちゃんから降り、世界樹を見上げて驚く。


「な、なんだ、これは」

「嘘でしょう!?」


 世界樹に巻きつく蔓は血管のように赤黒く染まり、ドクドクと鼓動していた。

 明らかに、先ほどよりも太くなり、強く世界樹に巻きついている。

 そんな状態になってしまった世界樹で、信じがたい光景を目にしてしまう。


 黒い蔓が回復師の首や手足に巻きつき、魔力を吸収していたのだ。

 蔓が急成長したように見えるのは、回復師の力を奪ったからなのだろう。

 さらに衝撃的なことに、回復師の隣には勇者様の生首がぶら下がっていたのだ。


 ぶーちゃんが動こうとしたものの、体をぎゅっと抱きしめる。

 動かないで、とお願いしたら、大人しく従ってくれた。


 勇者様(本物)と賢者は、勇者様の生首にも気付いたようだ。


「ひっ!」

「なんて残酷なことを!」


 勇者様(本物)は「回復師よ、今すぐ助ける!」と勇ましく宣言し、銀色の剣を引き抜く。

 賢者も魔法を展開した。


「――大爆発(エクスプロード)!!」


 賢者の火系上位魔法が、蔓に襲いかかる。

 世界樹に燃え移らないかヒヤヒヤしたものの、賢者は世界樹に守護魔法をかけていたようだ。

 二種の魔法を同時に展開するなんて、さすが賢者である。


 炎が爆ぜたのと同時に、煙が巻き上がった。

 強い風が吹き、煙がかき消される。

 蔓はどれだけのダメージを負っているのか確認したものの、傷ひとつ付いているようには思えない。


 続けて、勇者様が斬りかかる。

 その瞬間、これまで微動だにしなかった蔓が思いがけない行動にでた。

 剣を振り下ろす勇者様(本物)の前に、捕らえた回復師を突きだしてきたのだ。


「なっ――!?」


 勇者様(本物)はとっさに体を捻り、攻撃を中断させる。

 受け身を取ろうと体勢を変えていたところに、蔓が襲いかかった。


 体の均衡を崩している状態だったが、勇者様(本物)は剣で蔓を斬ろうとした。

 しかしながら、蔓の表面には粘膜が付着していたようで、つるりと滑るばかりだ。


「な、なんだ、これは!?」


 剣で斬りかかっても、粘膜に防がれてしまう。

 一撃たりとも、ダメージを与えることはできなかった。


「賢者、気をつけろ! 粘膜のせいで、攻撃がまともに通じない!」

「そんなわけないじゃない!」


 賢者は新たな魔法を展開させる。

 火系の魔法が防がれてしまったので、今度は氷属性の魔法を展開させた。


「――氷の嵐(アイス・ストーム)」


 氷を含んだ強い風が巻き上がる。

 世界樹の周囲に生える草花は凍っているものの、蔓はそよそよと揺れるばかりであった。


「なんなのよ、あれ、きゃあ!!」


 賢者の足に蔓が巻きついた。

 彼女の体は綿毛が空を舞うようにふんわりと持ち上がる。

 一瞬のうちにたくさんの蔓が巻きついていった。


「ちょっと、どういう――ああああああああ!!!!」


 耳をつんざくような絶叫が響き渡る。

 賢者は体を激しく痙攣(けいれん)させ血を吐く。

 白目を剥き、動かなくなってしまった。

 おそらく蔓が枯渇吸引(ドレイン)、魔力を奪う才能(ギフト)を使ったのだろう。

 回復師と同じように、動かなくなってしまった。


「賢者!!」


 それを目撃した勇者様(本物)が、すぐさま賢者を助けに行こうとする。

 しかしながら、それは叶わなかった。


「――かはっ!」


 勇者様(本物)の背後から襲いかかった槍のような形状になった蔓に、心臓をひと突きされてしまったのだ。


「あ……!」


 背後を振り返る暇もなく、たくさんの蔓に体を貫かれてしまう。

 勇者様(本物)の体は蔓が持ち上げ、世界樹に貼り付けられた。

 まるで、収集品(コレクション)のように美しく飾られてしまったのだ。


 みんな、みんな死んでしまった。

 もう、私とぶーちゃんしか残っていない。


 そんな私達を嘲笑うかのように、目の前を蔓が蠢いていた。


『ぴ、ぴいいい!!』


 ぶーちゃんは悲しげな声で鳴きながら、体をぶるぶる震わせる。

 私を振るい落としたのだ。


『ぴい、ぴいいいいい!!』


 目の前に魔法陣が浮かび上がる。それは、強固な守護魔法であった。


『ぴいいい、ぴい!』


 まるで、ここから逃げろ。生き延びるんだ、と言ってくれているような気がした。


「そんな、そんな、ぶーちゃん! 私だけ逃げるわけには――」

『ぴいいいいい!!』


 いいから行け。そう訴えているように思えた。

 膝が震えて上手く力が入らないが、なんとか立ち上がる。

 そうこうしているうちに、蔓がぶーちゃんに襲いかかった。

 大粒の雨が降るように、鋭い杭のような蔓がぶーちゃんの全身に襲いかかる。


『ぴぎいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!』

「ぶーちゃん!!」


 蜂の巣みたいになってしまったぶーちゃんの体も、蔓が持ち上げていき、世界樹に打ち付ける。


 なんて酷いことをしてくれるのか。

 絶望の文字が、脳裏を占拠する。


「……勇者様達を、死なせるわけにはいかないんです」


 計画を実行するために、ずっと一緒に旅を続けてきたのだ。

 それを台無しにさせるわけにはいかない。


 蔓が次なるターゲットを私に定める。

 視界が真っ黒になるほどの蔓が、目の前に迫った。

 そんな光景を目にしながら、これが死の色か、と思う。

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