表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第四章 世界樹のもとへ……

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/90

死後の変化

 規則的な振動と頬に触れる風の心地で目を覚ます。


「う……」


 瞼を開くと、うつ伏せの体勢のまま、何かに運ばれているのに気付いてしまった。

 私が乗っている、この黒くてふかふかした温かい巨大生物はなんなのか。

 上体を起こしたいのに、背中を強く押さえ付けられていて動けない。


「勇者様(本物)……賢者様……ぶーちゃん」


 皆、いったいどこに?

 そう口にしようとした瞬間、巨大生物が動きを止める。


『ぴい!』


 ぶーちゃんの鳴き声が聞こえた。どうやら運ばれているのは私だけではなかったようだ。


「ああ、魔法使い殿、目覚めたか?」

「ねえ、大丈夫なの?」


 勇者様(本物)や賢者の声も聞こえる。

 どうやら思っていたよりも悪い状況ではないらしい。


「魔法使い殿、動かないでくれ。私が下ろすから」

「……は、はい」


 勇者様(本物)が私を横抱きにして、謎の巨大生物から下ろしてくれた。

 すぐに賢者が私の顔を覗き込んでくる。


「よかった。レイズ点薬が今回もきちんと効いたようね」

「あ――」


 ここで、私の身に起こった不幸について思いだす。

 背後からスノー・ガルムに襲われ、氷の爪アイス・クローを食らって凍死したのだ。

 すぐに賢者が私の氷を魔法で作った湯で溶かし、レイズ点薬を打ってくれたらしい。


「大変なご迷惑をかけてしまったようで」

「いいのよ。おかげで、あの子も本気をだしてくれたし」


 賢者が指し示したあの子というのは、黒い巨大生物である。


『ぴい!』


 愛らしく鳴くこの声の主は――ぶーちゃんらしい。

 小型犬くらいの大きさだったのに、いつの間にか馬四頭分ほどの大きさになっている。

 見た目も勇ましくなっているものの、鳴き声は小さかったときと変わらない。

 ただ鳴き声が同じだけで、ぶーちゃんでない可能性もある。念のため質問を投げかけてみた。


「あの、ぶーちゃん、ですよね?」

『ぴい!』


 ぶーちゃんは短く鳴いて、私の安全を確認するかのように頬ずりしてくる。


「うわっ!!」


 あまりの勢いに倒れてしまいそうになったが、勇者様(本物)が背中を優しく支えてくれた。


「ぶーちゃん、その大きさで触れ合おうとしたら、魔法使い殿が吹き飛んでしまうぞ」

『ぴいいい!』


 勇者様(本物)が指摘すると、ぶーちゃんは悲しげな鳴き声をあげ、その体が光に包まれる。

 一瞬にして小さなぶーちゃんの姿に戻った。


「ぶーちゃん!」


 私が手を広げると、胸に飛び込んでくる。

 よしよしと頭をなでてあげた。


「しかしどうして、ぶーちゃんはあの姿に?」

「魔法使い殿が倒れたのと同時に、ぶーちゃんがスノー・ガルムに対して怒ってしまったんだ」


 自ら呪いを引きちぎって解呪すると、元の姿に戻ったようだ。


「出会った当初から、ぶーちゃんが特別な存在であると気付いていたのだが、まさか聖猪グリンブルスティだとは思ってもいなかった」

「神話時代の神聖なる獣が、精肉店で売られていたなんて、いったい何事だったのよ」


 それはぶーちゃんのみが知りうることなのだろう。

 私にレイズ点薬を刺したあと、皆、ぶーちゃんに跨がって移動してきたらしい。


「この子ったらすごいのよ。ものすごく速く走れるし、モンスターを踏みつけて倒しちゃうの」

「頼もしい子だ」

『ぴいい!』


 ぶーちゃんは誇らしげな様子でいた。


「できればこの先もぶーちゃんに乗って移動したいんだけれど」

「頼めるだろうか?」

『ぴい!』


 ぶーちゃんは元気のよい鳴き声をあげると、私の胸から飛びだしていく。

 空中で回転し、真なる姿へと変化させた。


『ぴいいい』


 改めて見ると、とてつもなく大きい。

 ぶーちゃんだと知らなかったら、絶対に近付けないだろう。


「失礼」

「はい?」


 勇者様(本物)は私を抱き上げ、ぶーちゃんに跨がらせてくれた。

 続いて、軽やかな足取りで勇者様(本物)も騎乗する。

 そのあと、賢者にも手を伸ばし、ぶーちゃんの上に乗せていた。


 私、勇者様(本物)、賢者の順で腰かける。落ちないようにか、勇者様(本物)は私の腰に腕を回し、しっかり固定してくれた。


「準備はできた。出発してくれ」

『ぴい!』


 ぶーちゃんはゆっくり起き上がると、てぽてぽと歩き始める。

 だんだんとスピードを上げていき、ついには全力疾走となった。


「ひ、ひいいい――むご!」


 勇者様(本物)が開いている手で、私の口を塞ぐ。

 抱き寄せるようにぐっと接近し、耳元で囁いた。


「魔法使い殿、声をあげたら舌を噛むぞ」


 こくこくと何度も頷く。

 世界樹のもとまで歩いていたら数時間かかったのだろうが、ぶーちゃんのおかげで素早く行き着くことができそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ