食事の時間にしたい
勇者様が魔法学校で習ったと言う、キュア薬草を使った魔法薬の作り方を教えてくれる。
「材料はキュア薬草、水、魔力、以上だ」
「キュア薬草の魔法薬は、聖水でなくてもいいんですね」
「ああ。キュア薬草の場合は、あとから魔力を付与しないと、薬効がなくなるんだ」
「へー」
勇者様はいつになく真剣な様子で、魔法薬作りを教えてくれた。
「まず、キュア薬草を手で千切り、水に浸す。続いて、魔力を付与し、よく練るのだ」
すると、水分が蒸発し、粘りがでてくる。これを丸めたら完成のようだ。
念のため、千里眼で調べてみる。
「なるほど。これがキュア丸薬、ですか」
「ああ、そうだ」
無事、成功したようだ。
キュア丸薬はヒール丸薬よりも遥かに高い回復力があるようだ。
大森林の散策できっと薬に立つだろう。
「よし。魔法使い、お前も作ってみろ」
「無理です」
「なぜ、やる前から諦めるのだ!?」
「私、魔力の付与の仕方を知りませんので。混ぜるだけだったヒール丸薬であれば作成可能ですが、キュア丸薬は作れないですね」
「付与魔法は初歩的な技術だろうが!」
「魔法学校に入学して入門編から魔法を習った勇者様とは違って、私は独学で習得したものですから、できることとできないことに差があるのは当たり前です」
勇者様から呆れたようにため息を吐かれてしまう。
そんな私と勇者様の言い合いを、イッヌとぶーちゃんはハラハラした様子で見ていたようだ。
これは通常営業なので、そこまで心配する必要はない。
しかしながら次の瞬間、ぶーちゃんが思いがけない行動に出る。
『ぴいいいいいいっ!!』
辺りに生えるキュア薬草の上に魔法陣が浮かび上がる。もう一度『ぴいいいいい!!』と鳴くと、風の刃みたいなものでキュア薬草が切り裂かれた。
さらに『ぴいいいい!!』と鳴き声をあげると、空気中の水分を集め、刻まれたキュア薬草と混ざる。
最後のひと鳴きで、魔力が付与された。
あっという間に、十個ほどのキュア丸薬が完成させる。
「おお! お前はそんな芸当ができたのか! さすが、私が見込んだ非常食だ!」
『ぴい!』
さすが、聖猪グリンブルスティである。魔法薬の同時作成は極めて容易なことなのだろう。勇者様はぶーちゃんの頭を撫でながら、優秀な非常食だと褒めちぎっていた。
勇者様が喜んでいるので、イッヌも跳びはねて喜んでいる。なんとも平和な光景であった。
「キュア丸薬を作ったら、腹が減ったな」
ぶーちゃんが空腹をアピールするならばまだしも、勇者様はたった一個しか作っていなかったのだが。
勇者様は腕組みし、どっしり構えた様子で宣言する。
「よし、食事にしよう!!」
勇者様は尊大な様子で、私に食材を寄越すように言う。
「おい魔法使い、一刻も早く食材を出すのだ!」
「いや、食材なんてありませんが」
「なんだと!? 市場でたくさん買っただろうが!」
「あの、勇者様、市場で購入した食材のすべては、ぶーちゃんに与えるために買ったものです。今回、私達が食べるための食材は買っていないですよ」
勇者様は目を見開き、ガーン! と言わんばかりの表情を浮かべていた。
「いや、あんなにいろいろ買って、私達の食材がないとは!?」
勇者様は腰に吊していた食材が入った革袋を下ろし、ひとつひとつ確認していく。
「このイモは――!?」
「ぶーちゃんの餌です」
「こっちのナッツは――!?」
「ぶーちゃんのですね」
「蜂蜜も!?」
「ぶーちゃんの嗜好品ですね」
「岩塩は!?」
「ぶーちゃん専用です」
「うわああああああ!!」
つまり私達は、ぶーちゃんの餌しか所持していないわけである。
「こうなったら、早速ぶーちゃんをいただくしかないのか……!!」
「待ってください。まだ、ぶーちゃんを早速食べなければならないような、差し迫った状況ではありませんから」
仕方がないと思い、提案してみる。
「勇者様、ぶーちゃんの餌をわけてもらいますか?」
「この私が、ぶーちゃんの餌を食らうというのか?」
「ぶーちゃんの餌というのは表向きの名称で、普通の食材ですから」
念のため、ぶーちゃんに餌を貰っていいか聞いてみる。
「あの、これ、少しいただいてもいいですか?」
『ぴい!!』
ふたつ返事で了承してくれる。なんて優しい豚畜生なのか。
「勇者様、ぶーちゃんが食べてもいいって言ってくれたので、いただきましょう」
「あ、ああ、そうだな」
勇者様は意を決したようにイモを掴むと、ごくんと生唾を飲む。
イモを熱心に見つめるほど、お腹が空いていたようだ。
そういえば、聖都に運び込んでからというもの、勇者様は食事を口にしていない。
何か食べさせてから大森林へやってくればよかった。
「では、いただこうか」
「はい?」
勇者様は想定外の行動にでる。
なんと、イモを生のままかじりそうになったのだ。
「うわーーーーーー!!」
さすがの私も驚いて、長い杖で腕を殴ってしまう。
金ぴかの籠手を殴打する、カーン! という金属音が辺りに鳴り響いた。
その衝撃で、勇者様の手からイモがコロコロ転がる。
超高速でイモを回収した。
「い、痛いぞ!! 何をするんだ!!」
「イモの芽には毒素が含まれているって、習いませんでしたか!?」
「知らんぞ!!」
堂々と言うので、「そうでしたか」とあっさり返してしまった。




