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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第二章 新しい仲間(?)

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旅の目的

 回復師は勇者様から転移の魔法巻物スクロールを使って追放されたあと、ベヒーモスと戦闘中だった勇者様(本物)と賢者のもとへ下り立ったらしい。


「死にそうになっていた私達を、この子が助けてくれたの」


 そのご縁で、一緒にパーティーを組んで旅することになったようだ。


「それでね、あなた」


 賢者から突然指をさされ、宣言される。


「あなたが勇者だと思っているのは偽物で、彼女こそ真なる勇者なのよ!!」

「あ、知ってます」


 思いがけない言葉だったのだろう、賢者は目を丸くする。

 偽物という言葉は見当違いだが、補欠については彼女らに説明しないほうがいいだろう。

 補欠勇者がいるから、と途中で魔王を倒す旅を諦めてもらったら困るから。


「本物の勇者じゃないってわかっていながら、どうして一緒に旅をしているの?」

「私にも彼と共に旅する理由があるんです」


 突然、回復師がガタッと音を立てて立ち上がる。

 ワナワナと震えながら、質問を投げかけてきた。


「魔法使いさん、あなたもあの人が好きなの?」

「いいえ、ぜんぜん」

「だったら、どう思っているの?」

「我が儘で情けなくて、自分勝手で考えなしの、クズ男だと思っています」


 聞かれたことを答えただけだったのに、シーンと静まり返ってしまう。

 これまで勇者様を批判していた賢者ですら、口元を押さえて「あなた、言い過ぎじゃない?」と言ってきた。


「私は勇者様に対し、好意はまったく抱いておりません。利害の一致で一緒に旅するまでです」


 回復師は安心したのか、ストンと腰を下ろす。

 普通ではない関係に、勇者様(本物)のほうが引っかかりを覚えてしまったようだ。


「その、魔法使い殿の得と損というのは、もうひとりの勇者との間でしか叶えられないものなのか?」

「おそらく」

「私では無理なのだろうか?」

「もしかして、私をパーティーに誘っているのですか?」

「ああ。例の勇者も一緒にどうかと思って」

「それは嫌!!!!」


 賢者が目を血走らせながら、私や勇者様とは一緒に旅をしたくないと訴える。


「偽勇者と旅するくらいならば、死んだほうがマシよ!」

「しかし、魔王を倒すという目的が同じならば、仲間はひとりでも多いほうがいいと思ったのだが」

「嫌ったら嫌!!」

「そうか、わかった」


 あっさりと勇者様(本物)は私達をパーティーに誘うことを諦める。

 仲間を大事にするいい人だな、と思ってしまった。


 賢者は警戒の視線を私に向けつつ、話しかけてくる。


「あなた達も、もしかして世界樹の様子を見にきたの?」


 聖都には月から舞い降りてくるマナを吸収し、魔力へ変換する世界樹があると言われている。

 ただ、世界樹は結界の中に隠され、外からだとどこにあるのかわからない。


 勇者様(本物)は魔王にマナを奪われ、枯れかけている世界樹を心配し、様子を見にきたようだ。


「いえ、私達は前の街にあるギルドで、この辺りに出現するモンスターが凶暴化している、なんて話を聞いたものですから、様子を見にきたんです」


 勇者様が食べて中毒死したフォレスト・ボアも、他の地域で見た個体より大きく、凶暴だった気がする。

 そんなモンスターの凶暴化について、勇者様(本物)ご一行は把握していなかったようだ。

 なんでもモンスターのほとんどは勇者様(本物)が一撃ワンパンで倒してしまうようで、強さを他と比較できるような状況ではなかったらしい。


 勇者様(本物)は顎に手を添え、美しい横顔を見せながら物思いに耽る様子を見せていた。


「モンスターの凶暴化か。もしかしたら世界樹が枯れかけている件と関係あるかもしれない」


 なんでもこの世界には、モンスターの集団暴走スタンピードと呼ばれる事件が多発していたらしい。


「それらのモンスターは魔王により凶暴化の魔法がかけられていたのだが、それはマナの力を悪用した禁術だったのだ」


 ならば今回の凶暴化も、世界樹のマナを使って展開された可能性があるというわけだ。


「勇者様が蘇生されたら、〝大森林〟に向かう予定だったんです」


 大森林というのは、聖都の転移陣から行ける巨大な森である。

 そこには強力なモンスターがうじゃうじゃいるという話だった。凶暴化したモンスターはそこから逃げ出したのではないか、というのが勇者様の推測だったが……。


「大森林か。目的地は同じだったわけだな」


 なんでも大森林は世界樹を隠す巨大な結界のようなものらしい。

 世界樹のもとへ行くには、大森林を通る必要があるのだとか。


「なるほど。聖都に世界樹がある、というのはそういう回りくどい意味だったのですね」

「みたいだな。普通に隠すだけでは、すぐに悪人共に発見されるだけだろうから」


 ただ、大森林へ繋がる転移陣は教会が管理しており、誰でも入れるというわけではないらしい。


「ひとまず、勇者である私は無条件に入れるだろうが――」

「あ!」


 勇者様(本物)のあとに勇者だと名乗っても、偽物扱いされるだけだろう。

 彼女達はこのあとすぐに、大森林へ行く予定だと言う。


「あのー、他にはどういう人が入れるのでしょうか?」

「聞いた話によると、多額の寄付金を払った者は入れるらしい」


 寄付ならば、勇者様は得意である。

 問題なく入れるようで、ホッと胸をなで下ろした。


 そのあと勇者様(本物)ご一行と別れる。

 回復師は心配げな様子で、声をかけてくれた。


「魔法使いさん、絶対に無理はしないで」

「はい」

「彼のことを、頼んだよ」


 それには返事などできず、苦笑いを返してしまう。

 不安を煽ってしまったのだろう。回復師は眉尻を下げ、後ろ髪を引かれる思いで私を見つめる。


「回復師、ゆくぞ!」

「わ、わかった」


 心の中で回復師よ、ごめんなさいと謝罪したのだった。

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