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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第二章 新しい仲間(?)

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19/90

昼食を食べよう!

 お風呂から上がり、清潔な布で体を拭いて、洗濯が終わったばかりの服に袖を通す。

 濡れた髪は魔力と引き換えに一瞬で乾かす乾燥器があったので、それを利用させてもらった。

 髪を三つ編みにしてふー、と息を吐いていたら、目の前にミルクが入った瓶が差しだされる。

 顔をあげると、勇者様と同じ顔をした美丈夫と目が合った。


「さあ、遠慮なく飲むといい」

「あ、ありがとうございます」


 受け取ると爽やかな微笑みを返してくれる。皮肉めいた笑みしか浮かべない勇者様とは大違いである。顔はそっくりなのに、表情が違うだけで印象は異なるものなのだ。


 お風呂上がりの冷たいミルクは格別で、満たされた気持ちを味わってしまう。

 勇者様(本物)は回復師や賢者にもミルクを買い与えているようだ。

 うちの勇者様との違いに、驚くばかりである。


 ミルクを飲んでお別れしたかったのだが、このあと食事に誘われているのだ。

 断ってもよかったのだが、私は回復師に対して罪悪感があった。

 飲み終わった瓶はどうしようか、と辺りを見回していたら、勇者様(本物)が受け取ってくれる。


「魔法使い殿、さあ、食事に行こうか」

「あ、はい」


 勇者様(本物)の腕にぴったり密着する賢者にジロリと睨まれてしまったものの、少しの間の我慢だろう。


 外にでると、周囲の人々からの注目が集まる。

 それも無理はないだろう。美貌の持ち主達が、パーティーを組んでいるのだから。

 私の存在は皆に見えていないだろう。それでいい。私の人生なんて、光が当たらない場所がお似合いなのだから。


 勇者様(本物)ご一行と共に向かったのは、素朴な大衆食堂だった。

 美人揃いのパーティーなので、オシャレなお店で食べるものだと思っていたのだが。

 皆、納得してやってきたものだと思っていたのに、賢者がわかりやすく嫌悪感を示す。


「ちょっと、このお店小汚いじゃない! もっと洗練されていて、個室があるお店がいいわ」

「賢者、こういう客がたくさんいて、少し汚い店は必ずと言っていいほど、おいしい料理がでてくるんだよ」

「そんな話、聞いたことがな――!」


 勇者様(本物)は賢者の唇に人差し指を押し当てる。すると、賢者は顔を真っ赤に染めた。


「賢者、いい子だから、静かにするんだ」


 賢者は素直にこくりと頷く。

 勇者様(本物)は輝く笑みで賢者を納得させ、食堂の中へと誘った。


 なんだかすごいものを見たような気がする。

 強情な性格だと思われる賢者を、たった一言で従わせるなんて。

 回復師のほうをちらりと見ると、少し気まずげな様子でいた。

 ただそこまで驚いているように見えないのは、彼女達のこういったやりとりは日常茶飯事なのだろう。


 賢者が言っていたとおり、食堂は小汚かった。

 壁に貼り付けられたメニューは油でギトギトしており、なんて書いてあるのかまったくわからない。床もベタベタしていた。 

 幸いにも、テーブルや椅子はきれいだった。


「えーっと、なんにしましょう」

「こういう店は、一番人気の料理が一番おいしくて、でてくるのも早いんだよ」

「じゃあ、それで」


 勇者様(本物)は片手をあげて店員を呼び寄せ、一番人気のメニューを人数分注文してくれた。


 五分と待たずに、料理が運ばれてくる。


「お待たせしました。〝豚肉のカツレツ定食〟です!」

「豚……」


 フォレスト・ボアを食べて死んでしまった勇者様を思い出してしまう。きちんと蘇生されているだろうか。なるべく迅速に、丁寧に、聖都まで運んだのだが。


「魔法使い殿、カツレツは苦手なのか?」


 顔を覗き込まれ、ギョッとする。

 カツレツを前に心あらずな様子を見られていたとは。


「いいえ、大好きです。いただきます」


 なんとこの食堂は焼きたてパンが食べ放題らしい。焼けるたびに、店員が配って歩いていた。

 ちょうど焼けた頃合いだったので、ひとついただく。

 丸いパンにクリームバターをたっぷり塗って頬張る。

 塩っけのあるバターが熱でじわりと溶け、パンに染み込んでいった。

 皮はパリパリで、中はしっとり。とてもおいしいパンである。

 勇者様はおいしい食べ方とやらを伝授してくれた。


「パンをナイフでふたつに割って、バターを塗り、中にソースをかけたカツレツを挟んで食べるんだ」

 

 作ったそれを勇者様(本物)は賢者に差しだしていた。

 賢者は本当においしいのかと疑う様子で受け取り、すぐに頬張る。


「なっ――お、おいしいわ!」

「だろう?」


 私も真似して食べてみたら、とてもおいしかった。

 あっという間に、パンを五つも食べてしまう。

 小ぶりのパンとはいえ、こんなにたくさん食べたのは初めてだった。

 そんな私を、勇者様(本物)は慈愛に満ちた顔で見ていた。


「よかった。魔法使い殿は酷く痩せているから、小食だと思っていたから」

「けっこう食いしん坊なほうなんです」

「そうか。たくさん食べて、大きくなってほしい」


 勇者様(本物)には私がいったいいくつに見えるのか。

 一応、回復師のひとつ年下なのだが。

 隣に腰かけ、大人しく食事をしている回復師を横目で見る。

 大人びた顔立ちに、凹凸がある体――とても同世代には見えなかった。

 子どものときに、たくさん食べられない環境だったので、私の体は貧相なのだろう。

 そういうことにしておく。


 なんて考え事をしながら回復師を見ていたら、うっかり目が合ってしまった。

 逸らす前に、話題を振られてしまう。


「魔術師さん、今日はどうしてひとりなの?」

「それは――勇者様が死んだからです。今、教会で蘇生してもらっています」

「なっ!?」


 勇者様と口にした途端、勇者様(本物)と賢者の表情が鋭くなる。

 和気あいあいとしていた雰囲気が、一気に殺伐としたものに変わっていった。

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