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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第一章「お願い! 死なないで勇者!」

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14/90

目覚めたあとに

 ぶくぶくと水底に沈んでいく。

 水面は太陽の光を受けてキラキラ輝いているのに、水底は真っ暗だ。

 まるで、闇に呑み込まれるよう。

 もう何も考えたくない。存在を無にして、私をなかったものにしてほしい。

 なんて考えていたのに、周囲がキラキラと輝き始める。


「――神よ、迷える者を救い給え!!」


 ハッと目覚めたものの、私の体は水の中に沈んでいた。


「がぼぼぼぼ!!」


 溺れそうになったものの、修道女達がやってきて、私を引き上げてくれた。


「げほ! げほ! げほ!」


 どうやら私は大きな浴槽のような水場に沈められていたらしい。

 すぐ近くにいた聖司祭に事情を伺う。


「あの、どうして私は水中にいたのですか?」

「腐死者化された状態で亡くなっていたので、全身を浄化するために、聖水に浸けておりました」

「あ――!」


 今になって思い出す。私がどうやって死んだかというのを。

 まず、先に腐死者と化したのは本物の村長様。その次に、勇者様が腐死者となった。

 勇者様はあろうことか私に襲いかかり、魔法で倒したのはいいものの、そのあと村長様に襲われ、不死者からも腐死者化の攻撃を食らってしまう。

 そのあと私は――考えた途端に、ズキンと頭が痛んだ。


「私達の遺体はイッヌ……白い犬が運んできてくれたのですか?」

「ええ。腐死者を咥えてきたものですから、街は大混乱となっていたようです」

「ご迷惑をかけてしまったのですね」

「まあ……」


 ちなみにここは女性専用の聖水の間らしい。勇者様は男性専用の聖水の間で身を清めているようだ。

 腐死者を咥えてきたイッヌも、三日間聖水浸けにされていたという。

 今は勇者様の傍を離れず、目が覚めるのを見守っているようだ。


「運ばれてから、三日も経っていたのですね」


 通常の死者蘇生を施した場合、早くて数時間から一日の間に目覚める。

 三日も復活にかかったなんて、と思っていたら、聖司祭の口から想定外の情報が告げられた。


「あなた様が運び込まれてから、一週間は経っております。さらに、死者蘇生をかけたのも、今回で三回目です」

「そ、そうだったのですか!?」


 今回、完全に腐死者化していたので、蘇生に時間がかかったらしい。


「あと数時間遅れていたら、死者蘇生は不可能だったでしょう」


 腐死者化は通常の死亡状態とは大きく異なるらしい。死んでからすぐに死者蘇生を施さないと、元の姿に戻れないところだったようだ。

 普通の遺体とは状態が大きく異なっていただろうに、運んできてくれたイッヌには感謝しかない。


「勇者様が目覚めたら、すぐにリーフ村に行って不死者を倒さないと――」

「いえ、それに関しては必要ないかと」

「必要ない? それってどういう意味ですか? もっと詳しい話を聞かせていただきたいのですが」


 そんな要望を口にすると、聖司祭は少し気まずげな表情を浮かべつつ、話してくれた。


「いえ、その、すでに勇者様が、不死者を退治されたんです」

「え?」


 勇者様は現在、聖水浸けになっていると聞いた。その状態でどうやって不死者退治に行っていたというのか。


「もう少し詳しく――」


 言いかけた瞬間、ワッと大きな声援が聞こえた。


「こ、これは?」

「リーフ村から戻った勇者様の、凱旋パレードが行われているのでしょう」


 混乱状態で、いくら説明を聞いても理解できる気がしなかった。

 直接目で見て確認したほうが早いだろう。

 全身びしょぬれ状態だったが、なりふりなんて構わずに外に向かって駆けて行く。

 教会を抜け、大通りに出ると人でごった返していた。 

 そこに馬車がやってきて、中から手を振る銀色の鎧に身を包んだ美丈夫の姿が見えた。


「……え!?」


 その人物は長い髪をハーフアップにまとめていて、爽やかな微笑みを浮かべている。

 それだけならまだいい。その人物の顔に見覚えがあった。

 勇者様と、驚くほどそっくりなのだ。

 近くにいた青年達が馬車に向かって叫ぶ。


「勇者様バンザイ!!」

「バンザイ!!」

「リーフ村を救ってくれて、ありがとう!!」


 馬車はギルドの前に止まり、御者の手によって扉が開かれる。

 皆の声援でその場が沸いた。

 勇者と呼ばれた人物が下り立つと、女性陣からの「きゃー!」という黄色い声が上がる。勇者はすらりと背が高く、美貌の青年といった雰囲気であった。

 いったい何者なのか、調べるために千里眼を使った。

 すると、驚きの情報が浮かび上がって見える。


 唯一の才能ユニーク・ギフト勇敢なる者バリアント(※本物)

 年齢:十九

 性別:女

 身長:百八十八


 あの人物は本物の勇者で、さらに女性みたいだ。

 そっくりなのは顔立ちだけでなく、背丈や髪色、佇まいまで似ていた。なぜ、あそこまで勇者様と見紛うほどの姿をしているのか。


 続けて馬車から下りてきたのは、ハイエルフの魔法使いだ。

 千里眼を発動させたままだったので、彼女の情報についても見えてしまった。


 才能ギフト賢者セージ

 年齢:二百歳

 性別:女

 身長:百六十


 勇者様(本物)は強力な仲間を従えているらしい。十八歳なのに十代前半にしか見えないくらいちんちくりんで、ただの魔法使いマジシャンである私とは大違いだ。


 もうひとり、仲間がいるようだ。

 馬車から下りてきたのは、黒髪に天頂の青アザーブルーの瞳を持つ美しい女性ひと、かつての仲間であった回復師であった。

 まさか彼女が、勇者様(本物)のパーティーの一員になっていたなんて。

 彼女に合わせる顔なんてない。すぐに回れ右をして、教会に戻る。

 修道女が私を見るなり、駆け寄ってきた。


「あの、勇者様がお目覚めになりました」

「ああ、勇者様(補欠)が、ついに……」


 本物の勇者様を前にしたあとだったので、ついつい含みを持たせるような呼び方をしてしまった。


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