3.閉ざされた未来
「ただ…これで堂々とクラリスのそばに行ける。その点だけは感謝してやる」
「え…?」
「幸い俺に婚約者はいない。弟も俺の補佐になるためにと一緒に後継者教育を受けてきた。公爵家で俺ができることは全力でやってきた。思い残すことは何もない」
「待てレイン…まるで…」
「オーランド、クラリスの最期の望みは絶対だ。王家の都合で命を絶たれる婚約者に対する最後の償いだからな。だから!お前たちが別れることは絶対にかなわない。でも、その女が王子妃教育を終えることができるのかは見ものだな?」
「何を…?」
一瞬自分たちが認められるのだと喜びを浮かべたアザリーが、いぶかし気にレインを見る。
「第二王子であるコリンが成人するまであと2年。コリンの婚約者はクラリス同様教育をほぼ終えている。これがどういう意味かはさすがに分かるだろう?」
オーランドはその言葉に顔をひきつらせた。
「…オーランド様?どういう意味ですの?」
アザリーがオーランドに詰め寄る。
「簡単なことだよ、あばずれ。お前が2年以内に王子妃教育を終えることができなければ、オーランドは王族から籍を抜かれて臣籍降下する。与えられる爵位は、相手に準ずる爵位の一つ下だから子爵か?その場合、2人とも子が出来ぬように処置されるから、婚姻は不可能ってことだ」
「は?」
「当たり前だろう?王侯貴族では、後継者を作れない者の婚姻は認められない。せいぜい2年以内に、クラリスたちが10年以上かけて学んだ教育を完了させるんだな。それ以外に、お前たちが婚姻して、表舞台に立つすべはない」
その言葉にアザリーが崩れ落ちる。
学園の成績も芳しくなかったアザリーに、クラリスたちが10年以上かけて身に付けていたすべてを、2年で身に付けるなど不可能だ。
「何で…こんなことに…」
「それはクラリスの言葉だろう?16年の努力を下らない恋愛ごときで踏みにじられたんだ。復讐したくもなるだろうよ。でも、最終的にこの道を選んだのはお前自身だぞオーランド」
「え…?」
「クラリスは最後に聞いただろう?『その言葉の意味を正しく理解して言っているのか?』と。あれは、お前が後戻りできる最後の分岐点だったんだよ。同時にクラリスにとっては、死を覚悟しながら、生きる希望につながる最後の質問だった」
互いの未来に続く道をつかみ取れるかの分岐点。
オーランドの選択によって共にその未来が閉ざされたのだ。
「俺はなオーランド、お前がおろかであることも、3年前からどんな状況にあるかもわかっていながら、クラリスの王妃教育を完了させた王家が憎いよ」
「レイ…ン…?」
「クラリスを実家から切り離して閉じ込めていたこの王宮も、傲慢な王家の考え方も、すべて嫌悪しか感じない」
寂しそうに歪んだ笑みを浮かべたレインは、そう言い残してクラリスの亡骸を抱き上げ、会場を後にした。
会場にいた若者たちは困惑の表情を浮かべ、そのうえでオーランド達に冷たい視線を向ける。
自分たちも『恋愛感情を切り離して考えるのが当然だ』と考えているのだから当然だ。
何より、クラリスの努力は誰もが知るところだった。
同時に、アザリーの貴族らしからぬ振る舞いや傲慢さも誰もが知っていたのだから…。
許可がない以上口にはしない。
でも、『こんな二人を敬う気など持ち合わせていない』と彼らの目が語っていた。
少しずつ会場から人が去っていく中、王宮の居住区から爆発音が聞こえた。
何事かと皆がその音の方に意識を向ける。
少しずつ聞こえてくる騎士や使用人たちの声。
『レインが、クラリスの使っていた部屋で、自身を核にした爆発の魔術を使用した』
その事実が明らかになるのはすぐだった。
しかもレインは、このパーティーに来る前に公爵家から籍を抜いていた。
身内の誰にも咎が向かぬよう、『自身の精神に異常をきたしている』という、王宮医師の診断書がついていたため、その場で認められたという。
子たちから事情を聴いた貴族たちは、議会で現国王夫妻とオーランドの廃位を決定した。
当面、王弟である公爵が国王代理を務め、コリンは成人を迎えると共に即位することが決まった。
番である2人の悲恋は、愚かな元第一王子の愚行と共に瞬く間に広まり、本や舞台となって語り継がれていったが、クラリスとレインにはあずかり知らぬことである。
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