1.宣言された婚約破棄
王家主催で開かれる次代のための交流パーティー。
きらびやかな会場で色とりどりのドレスを着た令嬢が、普段よりも窮屈そうな衣装に身を包んだ子息にエスコートされて入場する。
爵位のある親を持つこの若者の中には爵位を継ぐ予定の者、それがかなわず騎士や文官、その他の職を目指すものなどさまざまである。
その中で一番目を引くのは第一王子殿下とその婚約者である公爵令嬢クラリスである。
幼いころに決められた政略による婚約故に2人の間に恋愛感情はない。
でも、長年共にしたことで芽生えた絆と情はある。
互いを思いやり、それなりにいい関係が築けているのだと皆が思っていた。
この時までは。
「クラリス話がある」
ダンスがもうすぐ始まろうとしているタイミングで王子殿下、オーランドはこわばった表情をクラリスに向けた。
「何でしょう?オーランド様」
「申し訳ない」
そう言いながら申し訳なさそうな顔をするオーランドを、クラリスはいぶかし気に見つめる。
「何の謝罪でございましょう?」
「私は…俺は…!」
言葉を詰まらせるオーランドに、周りも異変を感じ注目する。
そんな中、オーランドは視線をわきにやり、一人の令嬢に目配せした。
彼女は頷いて、ギャラリーの中から出てくると、オーランドの横に立つ。
茶色い髪に淡いピンクのドレス。
その頭上にはピンクのティアラまでセットされていた。
それを見てクラリスはため息をつきたくなるのを必死でこらえていた。
「俺は真実の愛を見つけた。相手はこのアザリー・スミス伯爵令嬢だ」
その言葉に周りはざわつき、アザリーは一瞬、クラリスに勝ち誇った顔を見せた。
「クラリスには申し訳ないが、婚約破棄してもらいたい。もちろん俺の有責で構わない」
何を言っているのだろうか、という呆れた顔をするのが半数。
真実の愛の言葉に浮かれるのが半数といったところだろうか。
「オーランド様」
クラリスの冷え切った声が響く。
「な…んだ?」
「その言葉の意味を正しく理解した上でおっしゃっているのですか?」
「も、もちろんだ。クラリスには本当に申し訳ないと思っている。でもアザリーを側妃や妾になどできないんだ!それにクラリスは俺よりも賢い。俺よりもふさわしい人が…」
しりすぼみになるその言葉にクラリスは、今度こそ令嬢らしからぬ態度と分かっていながら大きく息を吐き出した。
「クラリス…?」
「愚かな方だとは存じていました。だから私は、我が家は、この婚約に反対していたのです。それを王命で無理やりしばりつけた挙句このタイミングで婚約破棄ですか!」
それは怒りのこもった声だった。
「クラ…リス?」
普段のクラリスからは想像もつかない様子にオーランドはうろたえる。
「私はあなたに伝えたはずです。王子妃教育は完了したと!」
その悲鳴のような言葉に事態を悟った者がいた。
でも王族の許可なく話すことなどできない。
許可なく話せるのは婚約者を含む準王族までである。
「あなたは何もわかっていない。私に、次の相手など得られるはずがないと知っているはずなのに、よくそんないい加減なことが言えますわね?」
「は…?」
オーランドはクラリスの言葉を理解することができなかった。
そんなオーランドを一瞥したクラリスは、一瞬天を見上げてから声を張り上げた。




