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アンケート-選ばないという選択-  作者: 菊池まりな


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第73話 名前のない送信者

 朝、美佳のスマートフォンに見知らぬ番号からメッセージが来た。


番号非通知ではなかった。ただの、知らない番号だった。


「一度、会えますか」


差出人の名前はなかった。美佳はしばらくその文を見ていた。


朝倉に転送すると、十分後に返事が来た。


「調べます」。さらに二十分後、「久坂さんの番号ではありません。ミオさんでもない。翔に聞いています」。


翔からは「端末の登録情報なし。ただ、この街の中から送られています」と来た。


美佳は少し考えてから、返信した。


「どなたですか」


三分後、返事が来た。


「公民館にいました。一度だけ」


美佳は朝倉と相談して、昼間の人通りのある喫茶店を指定した。


現れたのは四十代の男性だった。グレーの


ジャケットではなく、紺色のカーディガンを着ていた。でも美佳には分かった。


「三枝さんですね」と男性は言った。「顔は覚えています」


「わたしも」と美佳は答えた。


男性は名前を名乗った。田中、という、ごく普通の名前だった。


「来たのは、謝りたかったからです」と田中は言った。「ずっと周りにいました。あなたの。悪いことをするつもりはなかった。でも、気持ち悪かったと思います」


美佳は「はい」と答えた。否定しなかった。


田中は少し目を伏せた。「LAPISが終わった後、自分でも止められなかった。あなたが一番長く迷っていたから、あなたを見ていれば何か分かる気がして」


「分かりましたか」


「分かりませんでした」と田中は言った。


「でも、あなたが普通に歩いているのを見て、自分も歩いていいんだと思えた。それだけです」


美佳はしばらく黙っていた。


「田中さんに聞いていいですか」


「はい」


「『あなたは、正しい』というメッセージを、送りましたか」


田中は少し驚いた顔をして、それから静かに首を振った。「送っていません」


美佳は「そうですか」と言った。


それ以上は聞かなかった。


喫茶店を出て、朝倉と二人で歩きながら、美佳は「正体は分からないままですね」と言った。


「気になりますか」と朝倉が聞いた。


美佳は少し考えた。


「気にならないとは言えません。でも、知らないままでいられる気がします。今は」


朝倉は「それでいいと思います」と言った。


風が少し冷たかった。秋が、もうそこまで来ていた。


その夜、美佳はスマートフォンのメモを開いた。


今度は、一行だけ書いた。


「送った人がいる。それだけは、本当のこと」


閉じた。


それで十分だった。


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