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アンケート-選ばないという選択-  作者: 菊池まりな


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第72話 今日の続き

 朝、目が覚めたとき、美佳はしばらく天井を見ていた。


特に何も考えていなかった。ただ、天井があった。白くて、少しひびが入っていて、今日も同じ場所にあった。


スマートフォンを手に取ると、翔からのメッセージがあった。


「今日もゼロです。おはようございます」


それだけだった。美佳は「おはようございます」と返した。


カフェに出勤すると、開店前の準備をしながら、マスターが珈琲を一杯淹れてくれた。


「顔色がいい」とマスターは言った。


「そうですか」と美佳は答えた。


「最近ずっとそう。何かあったわけじゃないけど、というときの顔をしている」

美佳は少し考えてから、「終わったんだと思います、何かが」と言った。


マスターは特に問い返さず、「そうか」とだけ言って、自分の珈琲を飲んだ。


昼過ぎ、ユリが来た。


いつものカウンター席に座り、ホットコーヒーを頼んだ。ノートは持っていなかった。ただ、窓の外をぼんやり見ていた。


美佳がカップを置くと、ユリが「頭が静かだと、何を考えればいいか分からなくなる時がある」と言った。


「うん」と美佳は答えた。「それ、悪いことじゃないと思います」


「分かってはいるんですけど」


「分かっていても、落ち着かないことはありますよ」


ユリは少し笑った。声は出なかったけれど、目の端が少し緩んだ。


夕方、彩音からメッセージが来た。


「@LAPIS_echo、少し形を変えて、続けることにしました。週一回だけ、問いを一つ投稿します。押しつけない。ただ、そこに置いておく形で」


美佳は「それでいいと思います」と返した。


少し間があって、彩音からまた一行来た。


「最初に美佳さんに声をかけた日のこと、時々思い出しています」


美佳は「わたしも」と返した。


それは本当のことだった。


閉店後、朝倉が迎えに来た。


どこかへ行く約束をしていたわけではなかった。ただ、「帰る方向が同じなので」と朝倉は言い、美佳もそれを当然のように受け取った。


川沿いを歩いた。昨日と同じ道だった。


「翔が」と朝倉が言った。「廃施設をそのまま使いたいと言い出した。サーバーの監視は続けるとして、あそこで何か別のことをしたいらしい」


「何かって」


「まだ分からないみたいです。本人も」


美佳は少し考えた。「翔さんが分からないなら、しばらく分からないままでいいと思います」


朝倉が小さく笑った。


風が川の方から来て、美佳の髪を少し動かした。


家に帰ると、有栖川からメッセージがあった。


「ミオさんが、今日初めて自分で料理をしたそうです。味噌汁だったと言っていました」


美佳はしばらくその文を見ていた。


味噌汁。


それだけのことが、今日のことだった。


美佳は「ありがとうございます、教えてくれて」と返した。


夜、布団に入る前に、美佳はスマートフォンのメモを開いた。


何かを書こうとしたわけではなかった。ただ、開いた。


カーソルが点滅していた。


美佳は何も書かずに閉じた。


今日のことは、今日のものだった。それで、十分だった。


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