EP41 〝死にたくない〟
「……ラー。どのみち、コイツを戦闘不能にしないと前へは進めねェようだ」
マルガレーテやジーターのような化け物が他の兵士と闘っている以上、僕らは僕らだけでロブスタの対処をしなければならない。
だけど、どうやって?
今の攻撃だって、カルエからすればクリティカルヒットも良いところだったはずだ。僕の反射だって、本来破られるわけがなかった。
なのに、この男はそれを簡単に乗り越えてしまった。まだ僕には手札があるけれど、それを切ったところで、相手がもっと強いカードを出してきたらなんの意味もない。そんなのは、骨折り損である。
そうやってとやかく考えているときには、すでにロブスタが手のひらを僕らのほうに向けてきた。
そして、
僕の脳内に気味の悪い音が響き渡る。
「う、ぉ──!!」
「ラー!?」
ケチャップのように吐血し、僕はその場にへたり込む。もはやなんの力で動いているかも分からない。ただそこには、インチキじみた不条理があるだけだ。
「てめェ、なんでおれを狙わないんだ!?」
「そうだな……、メインディッシュは最後に食べるものなのでね」
「弟の仇ってことか!!」
「そうだ。オマエとマルガレーテがおれの弟を殺ったんだよな?」
「……あぁ、弟と同じ場所へ送ってやるよ」
「向かうのはオマエだ。そこでアラビカに詫びろ。……この腐れ外道が!」
ロブスタの感情の高ぶりとともに、
くの字になって、カルエは吹き飛ばされた。
「──へッ。こりゃあ、死んだかァ?」
身体に力が入らない。ここから逃げ出ささないとならないと、意志を持つ生き物なら必ず思うだろう現場……!!
されど、ネズミもネコもイヌも溺れるのを承知で海に飛び込むはずだが、人間である僕は、そんな生き物よりはるかに頭脳を持っている僕は、理性が邪魔立てして、この場から逃走するという至極当然の選択すら取れない。どこかでかかったリミットが、僕に逃げ出すことを許さないのだ。
「どうした? 固まりやがって」
対照的に、ロブスタの表情はサディスティックに染まっていく。彼の狙いはカルエやマルガレーテだろうが、異常なサディストに見境なんてない。
「ご自慢のお友だちがワンパンでノビたから、ブルっているのか。なるほど、おれには到底理解できんなァ……。オマエら悪党が存在する理由も、生きていられる理由も……!!」
ついに迫撃が始まった。僕はなにもできず、ただその攻撃が振り下ろされるのを待つ死刑囚に成り果てる。
嫌だ。死にたくない……。心の声がそう叫ぶ。
あんな死に方して、女ザコに生まれ変わって、そこが昔やったゲーム世界に似ているから裏技を使って生き残れたけれど、この物語はここで終わってしまうのか? そんな無情な話があって良いのか? クソッ──。
「おらぁあああ!!」
女声を張り上げながら、獣のような叫びをあげながら、目を瞑った僕とロブスタの間に誰かが割り込んでくる。
「……え?」
僕が情けない声を出してしまった頃、その女はロブスタに頭突きをくらわせた。
「へェ、マルガレーテ・アクスか」
半ば涙目になっていた僕は、目を擦ってその女の正体を知る。オレンジ色に変化した、金髪とも茶髪ともつかないロングヘア、ツリ目の美形、悪党らしく目は血走っていて、ほとんどヒトのそれにしか見えない身体は改造で彩られている。
「てめぇ、あたしのダチを殺って生きて帰れるとか思ってんじゃねぇぞ!?」
マルガレーテ・アクスは、鼻息荒く宣言した。




