EP39 トリックスター
今度はルキアが立ち上がり、口頭で説明していく。
「一回で頭へ叩き込んで。良い? この作戦は突貫工事も良いところ。正直、私たちの中で死人が出ないと断言できないし、むしろ誰かが死ぬほうが自然。それを踏まえた上で訊いてちょうだい」彼女は淡々としていた。「正面突破班は、そのまま正面から突撃して。もうひとつの班がスーパーウェポンとデータを抜き取るまで、暴れまくるのよ。用意した装備は、フロンティアから強奪した装甲車とアサルトライフルのM5が4丁。弾は数え切れないほど。けど、全部使い切るつもりでいて」僕らのほうに向き直す。「後方侵入班、貴方たちはこの作戦の主幹よ。軍人のフリをして、空軍基地サンダードームへ入る。入ったら、私とニーナの指示に従って目的地へ向かって。当然、強盗するものの所在地はある程度掴めてるわ。それに加え、ただの一般兵が入れる場所にあるわけじゃない。おそらく、最後は〝かつて〟世界最強を誇った軍とドンパチすることになるわね。みんな、良いかしら?」
ルキアの説明を受け、僕らはいよいよ全員立ち上がる。この作戦次第で、僕らの生存権が決まってしまう。しかも、手慣れを用意しているとはいえ、正直失敗する可能性のほうが圧倒的に高い。
それでもなお、挑むほかない。
「さぁ、行こう!」
カルエが再び手を叩き、僕らは集団洗脳されているかのごとくマンションから出る。
エレベーターに乗って降りる最中、
リミは顔をやや蒼くして言う。「胃がキリキリするよ。ブラッドハウンズにいたときだって、こんな強盗はしたことなかった」
アーキーも同様に、何度も唾を呑み込む。「あぁ……、今にも吐きそうだぜ。捕まるか殺されるか、生き残って帰れるか。レビューのひでぇギャンブル場より、勝ち筋が見えねぇ」
マルガレーテがそんな彼女たちに告げる。「そんなにビビることか? オマエら、身体改造とギアを持ってるんだろ? それに、確かオマエらブラッドハウンズに3年間くらい属してたはずだし、これくれぇでブルってんじゃねぇよ。ボスのあたしの沽券に関わる」
それに反応するのはカルエだった。「もう、コイツらはオマエの子分じゃないさ。ラーキの仲間で、〝トリックスター〟だ。なにかを起こしてくれる」
ジーターは同感といった感じであった。「そうだな。トリックスター、良い響きじゃないか。カルエ、オマエと初めて会ったときと同じものをコイツらから感じるよ。なにかを起こす、事起こし要員だな?」
エレベーターは1階へとたどり着いた。僕とカルエは別行動なので、別のセダンに乗り込む。アーキーやリミ、マルガレーテとジーターも、あらかじめ隠しているであろう装甲車の元へ向かうため、盗難車に乗った。
「ラーキ、行くぞ」
「……、」
「どうした?」
「いや、ニーナに愛しているって言うのを忘れていたなぁって」
「そんなモン、生き残ってから言いやがれ。今言っても、この1時間には霞むぞ」
「それもそうか」
カルエは運転席へ座り、電子タバコの電源をつける。
「紙巻き、吸わないの?」
「生きて帰れたら吸うさ。なぁ、ラーキ。オマエや他の〝トリックスター〟からすれば、おれたちは手慣れの犯罪者に見えるかもしれない。けど、無法者という生き物は根本的に弱ェ。弱いから、暴れるっていう楽な道へ逃げているんだよ。人間には、口と言語があるはずなのにさ」
電子タバコを持つ手は、少しだけ震えていた。脳内麻薬の出過ぎなのか、緊張しているのか。当人にも要領の得た答えは出せないだろう。
「カルエ・キャベンディッシュともあろう者が、無法者を否定するの? そりゃ、退屈だね」
そんなカルエに、僕はいたずらっぽい笑みを交えて返す。




