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第25話 アシュリーとの和解

 涼子はアシュリーと一緒にボード家に向かった。


 アシュリーに案内されたのは、豪華なボード家の客室ではなかった。異世界転移後、涼子が休んでいた客室は豪華なシャンデリアがあったものだが、案内された部屋は、切れかけた電球がある、薄暗い部屋だ。


「ごめんね。薄暗いでしょ。ここはメイドの休憩室よ」


 アシュリーは、部屋にあるテーブルに布巾をかけながら言った。テーブルはボロボロで、お茶やコーヒーと思われるシミもついていて汚れていた。部屋の隅には小さなキッチンもあり、確かに休憩室といった場所ではあった。


「座って」

「う、うん」


 休憩室の中央にあるテーブルの周りには、パイプ椅子もあり、涼子はそこに座った。パイプ椅子は座り心地は最悪で、腰の悪い人なら悪化しそうだった。


 アシュリーは、キッチンのそばにある冷蔵庫から、ジュースを出しテーブルの上に置くと、パイプ椅子に座った。涼子と向き合う形になった。


「聖女レベッカに、嫌がらせされてたの?」

「嫌がらせっていうか、虫を食べないと日本に帰れないって脅されて、変な歌を聞かされて」


 それを思い出すと、背中や肩がこわばってきた。いくらメンタルが太い涼子でも、あんな風に集団で畳み掛けられると、虫を食べるしか無いとも思ってしまう。恐怖からマインドコントロールするのがカルトの十八番らしいが、聖女レベッカの行動もそれらしいようだ。レベッカがいるドラゴンライト教は、カルトと判断して間違い無いようだった。


「そっか。あの聖女はね、そうやって脅して自分の子分を作ってるのよ。ドラゴンライト教の中では地位が低いから、そうやって媚び売ってりのよ」

「えー? 本当?」


 レベッカが地位が低いというのは意外だった。それよりもアシュリーが、レベッカの事が嫌いである事がありありと伝わってくる。素朴でい田舎娘らしいルックスのアシュリーだが、それだけは無いようだ。


「私もずーっと脅されてたのよ。あの聖女は人に合った脅し方をするの。私の場合は、虫を食べるとダイエットになる、虫を食べないと太るって脅された」


 アシュリーは、今にも泣きそうだった。


「アシュリーは別に太ってないよ?」


 涼子の目からは、アシュリーは標準体型だった。確かに筋肉質ではなく、涼子の体型とは全く違う。もう少し筋肉をつけた方がいいとも思うが、それは涼子が主観的に思う事だ。おそらく医学上での問題も無いだろうし、決してデブではない。ダイエットをしているのは意外だったが。


「たまにコローナにバカにされたりしてたの。あの腰巾着、クラスのいじめっ子のついて、人の事をいじめるのが好きだったからね」

「コローナってそんな人だったの? 酷くない?」


 コローナは単なる存在感が薄い人物とも思っていたが、性格はかなり悪そうだった。しかも強いものに寄生していじめるなんて、超性格が悪いと言っていいだろう。


「うん、だからダイエットしなくちゃって思うようになって」

「ダイエットなんて必要ないよ。むしろレベッカの方が二の腕ダルダルじゃん。O脚だし、あっちこそ筋トレすればいいのに」


 そう言うと、アシュリーは苦笑していた。涼子も頭にきたので、ジュースをぐびぐびと飲み干す。冷たい柑橘系のジュースだったので、少し気分も冷静になってきた。


「レベッカはよく村から追い出されないね。教団内では地位は低いんでしょ? 追い出せないの?」


 自分がされた事を思うと、レベッカは村から出ていって貰うのが一番だと思った。そうすれば昆虫食もなくなっていい事づくしではないか。


「それは無理よ。教団内では地位が低いのでけど、あの聖女、村長と不倫してるから」

「えー!?」


 それは知らなかった。


「村長の奥さんも実家に帰ってしまったし、もう村長はレベッカに首ったけみたい。村長をバックにつけられちゃうと、こっちも何もできないってわけ」

「ひー、最悪じゃん」

「あの聖女はなかなかよ。確かに教団内では地位が低いけど、表向きだけかも。昆虫食もあの女が発端だし」


 アシュリーは心底レベッカが嫌いみたいだった。アシュリーのよると、ボード家のご主人も村長に頭が上がらないらしい。つまり、この村では聖女レベッカに対抗出来るものが誰一人いないと言う事だった。昆虫食が根付くはずである。どうやら以前アランから借りた陰謀論風の本は、本当みたいだった。


 そんな事を話していると、涼子もアシュリーも小腹が減ってきた。二人ともお腹の方から情け無い音が響いていた。


「これ、食べる?」


 アシュリーは、冷蔵庫から蒸しパンを持ってきた。蒸しパンという名前から少しめ警戒してしまうが、プレーン蒸しパンだった。二人で分け合って食べたが、フワフワ生地と卵の香りに惹かれてあっという間に完食してしまった。


「蒸しパンだけど、虫パンではなかったね」

「涼子、親父ギャグはやめて」

「親父ギャグじゃないよー。なんで、普通の食品が有るの? 本当は虫食べないの?」


 とても言いにくそうえだったが、アシュリー小さく「うん」と頷く。


「ボード家のご主人や奥さんは、虫なんか食べてない。もちろん、グリーンパウダーも」

「えー? 酷くない?!」


 大人の嫌らしさに、涼子はイライラしてくる。虫の居所が悪いという言葉通りの状態になっていた。


「この蒸しパンも奥さんの手作りをわけてもらったんだけどね。自分では昆虫ファームを経営している癖にね」


 アシュリーは涼子のように怒ってはいなかった。むしろ、呆れているようだった。


「つまり、虫を食べなくても不幸にならないし、ダイエットにもならない。虫を食べたからといって日本に帰れるわけでも無いのね……」


 さっきまでレベッカに受けていた洗脳が、すーっと消えているようだった。呪いが解けたような気分でもあった。


「涼子、ごめん。最初にあなたをルースのカフェに連れて行ったのもレベッカに言われてやった事だったの。色々悪い事言われて脅されて、怖くて」


 そういう事情だったのかと思うと、アシュリーを責める事はできない。想像以上この村は闇深い。村長と聖女が不倫しているなんて、想像もつかなかった。最初はリゾート地のようま異世界だと思ったが、現実はかなりドロドロだ。優しそうに見えたボード家のご主人も、一枚岩ではないようだし。


「私こそごめん。あんな風に昆虫食を怖がって逃げた事は良くなかったと思う」

「わーん、涼子大好き! ありがとう!」


 アシュリーに抱きつかれてしまった。こうしてアシュリーとも和解できたわけだが、日本に帰る方法は全くわからない。ふりだしに戻ったよいな気分だ。


「涼子、昆虫料理コンテストでは絶対勝ってね。そしたら何か変わるかもしれない」

「そうかなー?」

「そうよ、頑張って!」


 日本に帰る方法は全くわからないが、目の前にある事を一つ一つこなしていかなければならないようだった。


 とりあえず、昆虫料理コンテストは全力で頑張ろう。


 賞金は欲しいもの!

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