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虫なんて食べません!〜異世界メシマズ昆虫食村顛末記〜  作者: 地野千塩


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第26話 村祭りが始まりました

 ついに村の祭りの当日になった。相変わらず暑いが、空は快晴だ。


 涼子は朝早く起き、ルースのカフェに向かった。昆虫食コンテストに応募する料理を作る為だ。アランの家のキッチンは、ジョンが占領していて使えなかった。ジョンも昆虫食コンテストに応募するようだ。


「涼子、俺は絶対負けないぞ」


 ジョンに宣戦布告され、涼子のヤル気に火がついた。


「こっちこそ負けないから。っていうか昆虫食作ったら鍋や包丁はちゃんと消毒してよね!」


 涼子はそう言い残し、ルースのカフェの厨房に向かった。アランやモコはまだ寝ていたので、そっとしておこう。アランは午前中は仕事だが、午後から村の祭りの参加予定だった。年に一度のお祭りで、仕事のあるものも無理矢理時間を作って来るものも多いという事だった。


 ルースのカフェはリニューアルオープン予定で、看板などは撤去されていたが、厨房は以前来た時と同じだった。


「さあ、涼子。さっそくお弁当を作りましょい!」

「オッケー!」


 髪の毛をまとめ、エプロンをつける。手や腕もきちんと消毒し、さっそく昆虫料理コンテストに出品するお弁当を作りはじめた。ルースは一度店で食中毒も出した事があり、衛生観念については神経質だった。食品を扱う時は、使い捨ての手袋も使う事になった。


 ルースは事前に材料をそろえ、調味料も測っていてくれたので、作業は順調に進み。まずイナゴの佃煮入りの卵焼きを作る。卵焼きは巻いていく過程が意外と難しいが、ルースに手伝って貰いながら完成させた。あとは、炊き上がったご飯を弁当箱に入れ、唐揚げを作った。


 唐揚げは、弁当に入れるものだけでなく、祭りで村人にも配ろうとルースと考えていた。祭りには昆虫食の屋台しかないし、日本食に目覚めた村人にはこれで小腹を満たしてもらおうと思う。涼子は出来上がった唐揚げを、使い捨てもカップの中に詰めていく。ルースには弁当箱の方に唐揚げを詰めてもらった。弁当の白いご飯にふりかけをかけたり、お花形のピックやバランで最後の彩りを担当してもらった。昆虫料理コンテストにだすもので、唐揚げはどうかと思ったが、黄色い卵焼きと茶色の唐揚げは彩りもいい。弁当箱でちょっと余った隙間には、イナゴの佃煮を入れた。


「わー、完成! 本当のお母さんのお弁当みたいで、可愛いお弁当できた!」


 出来上がった弁当を見て、涼子は思わず声をあげる。涼子は美的センスには自信がなかったので、やっぱりルースの手伝って良かった思う。お母さんのお弁当的な素朴さもあり、お花見弁当のような彩りもある。完璧ではないか。


「いいじゃない。これで完成だね!」


 ルースはそう言い、弁当箱の蓋をしめ、ランチクロスで包んだ。


「ところでジョンは何作ってるか知ってる?」

「確か森で採取した芋虫のタコスとアリのサラダって言ってたよ」

「げー、そんなもの誰が喜んで食べるのかしら」

「いやいや、ルース? あなたがカフェで売っていたゴキブリピザやコオロギのフリッターも大概だからね?」

「それはそうだけど、虫なんて食べたくないわー」


 そんな事を話そつつ、厨房を片付けた。今回はイナゴの佃煮も扱ったので厨房の鍋や包丁、おたまや菜箸も入念に消毒した。最後に換気もした。


「一説によると、虫ってやっぱり雑菌が多いみたいよ。お腹の中で寄生虫が孵化して亡くなった村人もいるから」

「ちょ、そんな事件もあったのに、まだこの村は昆虫食べてるの? 頭おかしいよー」

「まあ、村長や聖女が結託してやってる事だからね。村長の心が変わらない以上、昆虫食をやめさせるのは無理かもね」


 そんな事を話しつつ、厨房の掃除を終えると、大きめな保冷バッグに弁当や唐揚げを入れ、村の公園に向かった。保冷バッグは重いので体力がある涼子が持つ事になった。


 もう公園はお祭りが始まっていた。特設ステージでは聖女が妙ちきりんな踊りや歌を披露し、煩いほど盛り上がっている。特設ステージの客席の最前列にはコローナの姿もあり、大興奮で応援していた。村では日本食が密かなブームとはいえ、昆虫食やグリーンパウダーの屋台も行列ができていた。聖女がステージ上で、「虫を食え♪ 虫を食え♪」と歌っているので、単純に洗脳されているだけかもしれないが。


 涼子とルースは、特設ステージ裏手にある昆虫料理コンテスト実行委員のブースに向かい、弁当を提出した。


「ふうん。ルースと萩野涼子は、コンビで出品って事だね」


 実行委員の受付には、ブラッドリーというスタッフがいた。この村のボード家の昆虫ファームの従業員だといい、この受付の仕事もやっているようだった。25歳ぐらいの若い男だったが、どことなく覇気がなく、雰囲気が暗い男だった。西洋風のお顔立ちだが、肌の色はあさ黒く、アジア人の血も入っていそうな雰囲気だった。


「ブラッドリー、感じ悪いよねー」

「そう?」


 昆虫料理コンテスト実行員のブースを出ると、ルースは口を尖らせていた。聖女の変な音楽のせいでルースの声が聞こえにくい。自ずと大声で話していた。


「うん。お母さんを事故で亡くしてから、ずっと暗いのよね」

「ルース、事故って何?」

「さっきも言ったけど、コオロギとゴキブリを食べて、お腹の中に寄生虫が生まれて亡くなったのよ」

「本当?」

「ええ。前は昆虫料理コンテストではなく、コオロギとゴキブリの踊り食いコンテストだったのよ。そんな事故があったから、さすがにね。だから昆虫料理コンテストになったわけ」


 ルースはそう言い残すと、屋台の方へ行ってしまった。屋台にいる友達と話があるそうで、昆虫料理コンテストが始まったら合流する事になった。


 一人残された涼子は、聖女のステージを横目に見つつ、休憩ブースの方に行って一休みした。休憩ブースの椅子は、村人でいっぱいで中にはお酒を飲んでいるものもいた。まさにドンチャン騒ぎといった祭りのようだ。


 しかし、昆虫の踊り食いコンテストなんてやっていたとは。酔っ払っている村人の達を見ると、やっぱりこの村は田舎らしいガサツさや荒っぽさはあるようだ。異世界もののライトノベルは、スローライフものも人気を集めていたが、やっぱりこの土地は別に優しいスローライフ感は全く無いようだった。むしろ妙なサブカル臭とカルトの闇が見える。


「涼子!」


 そこにアランがやってきた。予想より仕事が早く終わって駆けつけたらしい。まともな料理を食べはじめてからアランはすっかり顔色がいい。元々顔も良いので、イケメン度がゴリゴリ上昇中だった。


「コンテストはまだ始まってない?」

「コンテストは、ご当地キャラのコオちゃんのパフォーマンスが終わった後だよ。たぶん、お昼過ぎぐらい」


 涼子はそう言いながら、保冷バッグから唐揚げを取り出してアランにあげた。


「わーい、唐揚げ美味しいよ!」


 アランは唐揚げの味に感動し、涼子に抱きついていた。その姿はまるで大きな犬のようだった。


「ちょ、アランが恥ずかしいって」

「唐揚げ大好き!」


 アランが絶賛しているのは唐揚げだという事はよくわかっていたが、こうして抱きつかれるとドキドキはしてしまう。さすがに鈍い涼子だが、自分の料理をこんなに美味しそうに食べてくれる異性を意識しない訳にはいかなかった。

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