第三百三十九話 ヴィルナも以前はあんなに嫌ってた磯の香に耐性が付いてきたしね。魔導鉄道のおかげでマッアサイアのリゾート施設は今や大人気の観光名所だ
連続更新。この話でいつの間にか異世界にいたけど超絶性能なアイテムボックスがあるからなんとかいける気がするは完結します。
楽しんでいただければ幸いです。
俺がこの世界を救ってから既に十年が経過した。俺とヴィルナの間には二人の娘が生まれ、シャルと三人で毎日屋敷の中を賑わわせてくれている。
長女のシャルロットは既に二年前の春から魔法学校に通い始めているし、次女のセレーネも来年には魔法学校に入学させる予定だ。年齢は少し低いけど、魔力は俺やヴィルナの力を受け継いでいるらしくてこの歳で既にこの世界でも有数の魔力量を誇っているんだよね。
三女のリッカは聖魔族の血が濃く出たらしくて姿も聖魔族そのものだ。セレーネよりも三歳年下なのに、既に魔力量は大きく超えているんだから凄いよな。おかげでヴィルナや俺が魔力の制御なんかを教えるのに苦労してるって訳だ。
リッカの魔力量にセレーネが悔しがっている事も多かったし、それが原因で姉妹喧嘩に発展する事もあったけどシャルがうまく仲を取り持ってくれたから今はとても姉妹仲がいい。
「ソウマが色々と忙しいのは分かるのじゃが、たまにはまとめて休みをとれぬのか? たまであればわらわとてマッアサイア辺りのリゾートでゆっくりしても良いのじゃ」
「ヴィルナも以前はあんなに嫌ってた磯の香に耐性が付いてきたしね。魔導鉄道のおかげでマッアサイアのリゾート施設は今や大人気の観光名所だ」
「街道の整備も進んでおるし、ソウマは魔導車を使うんじゃろうがな。魔導鉄道も便利な筈じゃが」
魔導鉄道網はかなり発展して、北は元王都跡にできたルッツァルト侯爵の領地まで走っているし、西は旧貿易都市ニワクイナ……、現在の雷牙侯爵の領地までつながっている。旧貿易都市ニワクイナの西も併合したから雷牙の領地はかなり西に広がってるんだよな。
今でも年に何度か女神ユーニスの依頼で他の世界を救ってるし、あいつもその度に色々謝礼を貰ってるみたいなんだけどね。
俺も年に一度程度は世界救済の依頼が来ることもある。どうやら滅びが確定した世界の救済は雷牙達だと無理らしくて、奥の手として俺が投入される事があるんだよな。なお、俺に依頼した場合の世界救済の成功率は百パーセントだ。雷牙もそうだけどさ。
「お父様。難しい顔をされているようですが、また何か問題でも?」
「シャル。いや、そこまで大きな問題はないよ。また女神ユーニスから世界の救済とかを頼まれたわけじゃないしね」
【ちょっと!! 私もそっちの時間で年に一度程度にしてるでしょ? 流石に滅びが確定しちゃうとあなた位しか運命を覆せないのよ】
いつもは余計な事をしない雷牙に依頼してるのにな。あいつも忙しいんだから程々にしてやれよ。
【ライガとはギブアンドテイクないい関係なのよ。ライガもまともな方法だともう子供なんて授からないからさ】
神の奇跡を使って子どもを授かるってのもどうよ? そこまでしてでも子供が欲しかったのは知ってるけど。
【あそこまで氣が上がると仕方ないよ。どう判定しても半人神レベル?】
異世界の救済に行く度に神様扱いされてるらしいからな。道行く人に拝まれる俺の苦労が分かったって言ってたよ。
そしてその異世界救済譚をラウロに教えて、ラウロはその話を小説にして稼いでるときた。
ラウロもダリアと結婚して既に二人の子供を授かってるしね。子育て奮闘記みたいな本も出してそっちも大人気だ。
【その世界は神界でも語り継がれそうな未来を迎えると思うわ。大きな戦争も無く、種族の対立も無く、自然を必要以上に破壊せずに発展した理想の世界としてね】
資源が枯渇する前からいろんな手を打ってきたからな。
植林も養殖も自然保護も全部先手を打たせて貰った。大きな河がある貴族領の治水工事とか、百年に一度レベルの災害も事前に対応してるんだよね。
土方の技術力があればこその大技も多かったけど、今は能力の高い技術者を育てているので毎年結構な数の親方が生まれている。建築技術の専門学校とかも出来たしな。
【この先も長い付き合いになるだろうからよろしくね。あ、いつもの料理も多めにお願い】
あれからもずっと神界に料理を送り続けてるんだけど、どんどん要求する量が増えてるんだよな。
お礼としてこちらの世界で何かありそうなときは事前に教えてくれるから助かってるけどさ。しかも対応できるタイミングで。
料理の件は了解。いつも通りリクエストはメールでね。
【りょーか~い♪ まったね♪】
ホント、女神ユーニスも女神フローラも完全に地が出てる時があるんだよね。神界に呼ばれてる時なんて本当に女神なのが疑うくらいだよ。
俺の身体からも神力が漏れてるから、神様と同じような感覚なのかもしれないけどさ。
「神力を感じたのに、こうしてここにおるという事は世界救済ではない様じゃな」
「お父様は急に消えてしまう事があるので驚きます。神様の世界に呼ばれているという事ですが」
「年に一度くらいだけどね。いろんな世界にいろんな敵がいるのが分かったよ」
「それを全部倒して世界を救っておるので驚きなのじゃがな。そうやって気を抜くと神力や氣が漏れるのじゃが。特に氣は金色の光の粒子が舞うので目立つのじゃ」
「映像作品で見る蛍の様ですね。私は綺麗だと思いますが、その姿を見るとまた祈る人が増えそうです」
「これだけ神力が漏れておれば、たまに神の奇跡も起きるじゃろう。真摯に祈ればの話じゃがな」
そう、死者蘇生は流石に難しいけど、難病程度だったら奇跡の回復が起こったりするんだよね。
雷牙の場合はまだ神力の放出量が少ないから奇跡の起こる度合いが少ないみたいだ。二人揃ってる時に祈ると効果倍増らしいが。
「俺の場合は変身の副作用というか、魂の神格化がもう割と進んでるからね。雷牙以上にいろいろと面倒な状態だよ」
「普段は苦労して抑えておられますから、セリーヌ達も怯えずに済みます。あの子たちの魔力も相当なレベルですけど」
「生まれた時から桁違いじゃったからな。シャルとて同じ位の魔力であろう?」
「私は流石にもう少し控えめです。学校では一番ですけど」
「真面目で優しい生徒だって評判だしな。常識問題が満点だった時に教師から呼び出された時は流石に俺が抗議したけど」
「アレはソウマのせいなのじゃ」
一年生最初のテストの時、シャルは一般常識のテストで満点を取った。うん、それには何の問題も無い筈なのに、俺の子供なのに満点なのはおかしいとか言われてカンニングを疑われたんだよな。
別の問題でも満点を出したから教師が全面的に謝罪したけどさ。
「一般常識のテストで俺が満点をとれないのと、シャルが満点を取るのは別問題だろう?」
「むしろいまだに間違えるソウマがおかしいのじゃ。新しく組み込まれた魔導鉄道の利用額や、各都市までの所要時間位は覚えておくべきじゃろう? 何かあればあの空を飛ぶ魔導機で済ませておるからなのじゃ」
「それで最初の話になる訳か。まとめて休みね……。夏休みとかに家族旅行とかもいいかもね。マッアサイアでバカンスもいいし、オウダウだと温泉施設やブランの店もある」
「ブランさんのお店のカレーは美味しくて大好きです。行列も凄いですが」
「来店の際には事前に教えてくれって釘を刺されてるからな。俺が何度も利用してるからもうこの国で一番のカレー屋だよ。チェーン店というかのれん分けした店も多いし」
のれん分けしてもらってレシピ通りの料理を提供する店がこの国にすでに百店舗以上ある。ブランカレーといえば、この国でも有数の外食チェーン店だ。
このアツキサトにもあるけど、食べ比べると流石に本店よりやや劣るんだよな。スパイスは同じでも入れるタイミングとか火加減とかで色々差が出るんだよね。こればっかりは仕方ない。
「この国でソウマがやる事は多いが、一度に全部は出来んのじゃ。スティーブンも必要にならん限り相談には来ぬじゃろう?」
「商人ギルドとかもね。流石に俺に相談に来ることは無くなったしな」
それでも塩やら砂糖やらの利権で毎月かなりの額が入ってくる。
この十年で砂糖は安くなって、デザートも割と気軽に買える額になった。それでもいまだに米飴は使われれてたりする不思議。
ペット用の魔石も俺が供給し続けてるけど、向こう数十年分の魔石は既に渡してあるんだよな。
あの極小魔石って、元々神界で出た産業廃棄物的な物だしさ。
「ソウマはこの国の為にもう十分貢献したのじゃ。家族との時間を多くするのが正しいのじゃ」
「それに関しては私も賛成かな。お父様は働き過ぎです。リッカもたまにさみしそうにしていますよ」
「セレーネもたまにそうなってるしな。ソレイユたちばかりに任せるのは悪いと思ってたけど、シャルも面倒を見ててくれるだろ? だからつい……ね」
「わかっておるのであれば、来週から始まる夏休みにどこかに行くのじゃ。この屋敷におっても良いのじゃが、それだといろんなところから問題が持ち込まれるであろう?」
「カロンドロ王や他の領主からね。後はうちの卒業生? 困った事があると泣きついてくる事もあるし」
卒業後に魔法学校や俺を訪ねてくる生徒は割といる。
魔法学校を卒業した生徒が持つ最大のコネクションだから利用するのは構わないんだけど、それが厄介事である事も多いんだよな。
「それではバカンスの候補地はマッアサイアで決まりですかね? ブランさんのお店もいいのですけど、マッアサイアリゾートも人気のスポットですし」
「魔導式通信機で予約を入れておくよ。二泊でいい?」
「一週間ほどは連泊でよいじゃろう?」
「あ、ホテルの特別室ですとお父様用に調理場も完備してますよ。白くじら亭の最上階ですが」
「わかった。料理をしてる時はセレーネたちの相手を頼むぞ」
以前料理の研究中に厨房に幼かったリッカが忍び込もうとしたあげく大泣きして大変だったからな。
ん? にぎやかな足音が聞こえてくる。
「おと~さん。お姉ちゃんがいじめる~っ!!」
「リッカ待ちなさい!! パパにいうことじゃないでしょ?」
「あのね、リッカの変身セットをお姉ちゃんが……」
「パパっ!! これを取り上げたのはリッカが私のぬいぐるみを攻撃するからなんだよ!!」
「おおむねセレーネ様の言う通りです。魔法少女ごっこでしたか?」
俺が寿買で購入したおもちゃの魔法少女変身セット。そのひとつの魔法の杖でリッカが色々殴ったりすることは今までもあったんだけどね。
「リッカ、お姉ちゃんのぬいぐるみさんが痛がるだろ? ちゃんとごめんなさいして杖を返してもらいなさい」
「……ぬいぐるみさんごめんなさい。お姉ちゃんも……」
「パパはリッカに甘いんだから……。はい、もうぬいぐるみを叩いちゃダメよ?」
「は~い!!」
本当に何気ない平和なひと時。
これが世界中の家庭で見られるのであれば俺がこの世界でやった事は正しいし、他の世界を救済する事に迷いはない。
俺は……、俺たちはブレイブなんだから。
「またソウマがおかしな顔をしておる。ソレイユ、来週は一週間ほどバカンスじゃ。お主らも付いてくるがよい」
「私たちもよろしいのですか?」
「ふたりも家族の一員だよ。白くじら亭の最上階だと二十人くらい泊まれるしね」
「バカンス?」
「とっても楽しい事だよ~」
「わ~い!!」
もうこの世界を脅かす脅威はいない。
だから俺が少しくらい羽を伸ばしてもいいだろう。
もしどこかで何か起きれば、その時はまたアルティメットブレイブの出番さ。
今まで一年近い期間、三百三十九話のこの作品を読んでいただきましてありがとうございます。
誤字なども多く、読みにくい個所もあったかと思いますが、多くの方に読んでいただけた事でモチベーションを維持して完結させる事が出来ました。
今までのご愛読ありがとうございました。




