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第三百三十七話 よう、ブラン久しぶりだな。店の方は相変わらず大盛況なのか?

連続更新中。晩餐会回。

楽しんでいただければ幸いです。



 カロンドロ王の戴冠記念になる晩餐会。参加人数も過去最大で、戴冠式に呼ばれた以外の人物も参加していた。その為に控室には様々な装いの人間が集っている。


 主に俺に関係ある人間が巻き込まれて呼ばれていたが、ここ数年で大商会に成長したデイビット商会のクーパーはまだしも、オウダウでカレー屋をやっているブラン迄呼ぶのはどうよ? 完全に緊張してるじゃん。


「クライド様には恩があるけど、まさかこんな場に呼ばれるなんて。服だって完全に浮いてるじゃないか」


「何いってるんだいあんた。あれだけ恩のあるクライド様の名を出されてこない訳にはいかないだろ」


 マヌエラは相変わらず肝っ玉かあさんというか、度胸が据わってるな。


 ブランはあれで気が弱い所もあるから本当にいい夫婦なんだろう。


「誰だあれは? 場違いではないのか?」


「商会関係者ではなさそうですな。冒険者ギルドの関係者でしょうか?」


「あの服でここに来れるというのはそうなのかもしれぬな」


 ん? ブランたちの事をそんな風に見ている奴がいるのか。今日の招待客に同じ立場でそこまで悪し様に言うのは感心しないね。ちょっとその考えを訂正して貰っておこうかな?


「よう、ブラン久しぶりだな。店の方は相変わらず大盛況なのか?」


「クライド様!! おかげさまで連日大行列が出来ています。俺を信じてくれたクライド様には本当に感謝しております」


「いや、あの店の状況は純粋にお前の料理の腕さ。ブランはあの値段で出せるカレーを作るって条件だったら俺以上かもしれないぞ」


「そんな!! 私なんかではまだまだ……」


「いや、冗談抜きでそうおもってるよ。温かくなってヴィルナが外に出るようになったら娘のシャルを連れて食べに行くから」


「その時は必ず一声おかけください。事前に来る日を教えていただければ予約席を作りますので」


「ありがとう。俺はともかく、流石にヴィルナやシャルをあの行列にならばせるのは悪いと思うしさ。便宜を図って貰えるととても助かる。いや、持つべきものはやはり友だな」


「私如きを友などと……」


 いやいや、どん底から立ち直ってあんな立派な店を構えた男だぞ。


 俺の信頼に十分すぎるほど応えたんだ。友と呼んで何の問題があるって言うんだ。


「いや。間違いなく俺が信用する友さ。何か困った事があったら言ってくれ。余程の事が無ければすぐに駆け付けるからな」


「勿体ないお言葉です」


「今日の料理は俺が作ってるんだが、存分に楽しんでくれ。それじゃあまたな」


「はい。クライド様も」


 ……さっきブランに悪態をついてた奴らが顔を真っ青にしてるな。俺はあんたらの事は知らないけど、ブランの事はよく知ってるし友だと思っている。


 黒龍種アスタロトとかが暴れまわってた時期には、ブランの店の周囲にも警備ロイドを配置した位にはね。


「あの男。クライド様とあそこ迄親しく話しているだと……」


「クライド様がわざわざ食べに出向かれる料理屋? しかも奥方とご息女まで連れていくとか言われてたぞ」


「まずいぞ。さっきまでの会話も聞かれていたと考えて間違い無かろう。ブランとかいったか? あの男には後日正式に謝罪を。詫びの品も用意しなければ……」


 ん? 周りで色々他の招待客の服装に言及する事が無くなった?


 ああ、俺の関係者かもしれないって考えたら下手な事は言えないか。呼ばれてるのは殆どはカロンドロ王の関係者とかだし、元々下手な事は口にできない状況は変わらないんだけどさ。


「準備が整いましたので、会場にご案内いたします」


「今日はどんな料理が出るか楽しみだな……」


 色々楽しめそうな料理を用意してるけど、毎回晩餐会に参加してる人にはあまり驚きはないかもね。流石に酒類はこの世界だと逆立ちしても手に入らない様な最高級品を用意したけどさ。


◇◇◇


 今まではカロンドロ王も同じテーブルで俺はその真横にいたんだけど、今回はカロンドロ王だけ別のテーブルになっている。俺とかスティーブンはそのすぐ横に用意されたテーブルにいるけどね。


 他の席も規模は段違いだけど結婚式の披露宴の様なテーブル分けにされて、身分とか所属する組織ごとに集められている。ひときわ人目を惹くテーブルにいるのは俺の関係者たちだな。さっき俺とブランとの話を聞いていた奴らは即座にその意味を理解したみたいだ。


「こたびは儂の戴冠式に駆け付けてくれて感謝しておる。呼ばれもせぬのに来た輩もおったが、早々に追い返させて貰った。ここに呼んだ者は全員、今後国の発展に大きく貢献してくれることと信じておる。今回の料理も勇者クライドが担当した。神の御使いにこんな真似をさせるのは不敬かもしれぬが、儂とクライドの仲なので容赦して貰いたいものだ」


「今回も料理を担当しました鞍井門(くらいど)颯真(そうま)です。カロンドロ王の頼みとあっては断れませんので全力を尽くしたつもりです。後はいつも通りに料理長のキアーラに任せていますのでここで料理を楽しみたいと思います」


 今回は戴冠式というかカロンドロ王が即位した記念の料理だからね。


 それにふさわしい料理を用意したけどね。


「まず最初は前菜、祝福の三種盛りです。大王渡り蟹のゼリー寄せ、シャケの串揚げ、一角海老のしんじょになります。カロンドロ王の皿にはもう一品、大山雉(グレートファゼント)の卵を使った王冠風パイ包み焼を用意しております」


「カロンドロ王の皿にだけ? これは……」


「この三品。以前勇者クライドに聞いた女神たちの好物ではないか? そして中心に王冠か」


 ちょっと例えが悪いけど放射能マークみたいな形の皿を用意して、周りの三つの皿に女神の好物。そして中央の丸い皿にはカロンドロ王以外には飾りだけ置いている。俺が王冠を出したのはカロンドロ王だけ。その意味を理解できない客はいないだろう。


「なるほど。この王冠、味わいながら食させて貰おう」


 戴冠式って事で色々考えたんだよね。大山雉(グレートファゼント)は結構前にこの街で特産品になった鳥。あの辺りからこの町の食材が豊富になってきたわけだし、節目の食材としてはちょうどいいかなって思ったのさ。


「二品目は剣猪(ソードボア)の冷製しゃぶしゃぶ風サラダです。薄切りの剣猪(ソードボア)を茹でたモリヨモギなどの葉野菜でミルフィーユ風に仕上げました」


剣猪(ソードボア)の肉はアツキサトにある古くからの名産品、モリヨモギも同様。新しい物を取り入れるだけでなく古き物も大切にしたいという事だろう」


「味の方も素晴らしい。僅かに苦みのあるモリヨモギを逆にアクセントに仕上げたのか」


 ちょっとくらい苦いのも使い様だしね。でもモリヨモギは十分にあく抜きはしてるしそこまで苦くないはずだけどさ、散らした柚子の皮の苦みと勘違いしてるのかも。


「三品目は黄金ラビオリ財宝風です。キューブ状の野菜ゼリーなどと一緒にお召し上がりください」


「これは、何と一緒に食べるかで味わいが変わりますな」


「見た目も美しい。なるほど。これは金貨と色とりどりの宝石か」


 毛長鶏(けながどり)の卵を多めにつかったラビオリで少量の合い挽き肉とチーズを包んで茹で、ゼラチンで固めた野菜や果物のピューレキューブ、そして人造イクラと同じ方法で作り上げた宝玉風の粒で彩っている。


 ラビオリは金貨のイメージで丸型にしたし、パスタ系でもこの辺りはあまり出してないから割と新鮮だろう。


「四品目はアンコウのポワレ、ブールブランソースがけです」


「アンコウ?」


「おそらく他の世界から手に入れた食材だろう。マッアサイヤ辺りで入手可能な食材かもしれないが」


「数が必要だったので、別の世界で手配しました。深い海の底に住む魚ですが、色々な調理法にあう素晴らしい魚です」


 個人的にはアンコウは鍋が最高だと思うけどね。


 他の国の料理だとホントにいろいろあるんだよな。俺がアンコウ料理をあまり知らないだけかもしれないけど。


「五品目は佛跳牆(ぶっちょうしょう)。おそらく世界でも類を見ないスープだと思います」


「なんだこれは? 香りといい味といい、何が使われているのかすら想像できない」


「戴冠式を祝う晩餐会にふさわしいスープだ」


 俺の場合反則技を使えば最高品質で数百年物の乾貨……、干しアワビや干しナマコなんかが手に入るからね。どの世界の人間でも流石にこれを再現は無理だろう。


 今回はわざと具を並べていない。贅沢に最高のスープのみを味わって貰うためだけどね。


「最後の料理はシャトーブリアンのステーキ。付け合わせは茹でたホワイトアスパラと人参です」


「最後はシンプルだな。……っ」


「こんな肉があるのか? 肉は信じられぬほど柔らかく、噛めば口の中一杯に旨味が溢れてくる」


「これが牛肉の完成系か。流石にあれだけ牛肉にこだわっていた意味が分かったぜ」


 スティーブンもこれを食べて目の色が変わったな。今まではそこまで牛肉に入れ込んでなかったからね。今後はこれを市場に流せるように色々してくるだろうけどさ。


 異世界産の最高品質の牛肉。しかも希少部位のシャトーブリアン。人気になればいい値段で売れる事だろう。そうなると牛を育てる農場も潤うだろうしね。


「最後は森桃の白ワイン煮。シャーベット添えになります。この森桃も以前ほど人気は無くなっていますが、こうしてコンポートにすれば楽しめるかと思います」


「ワインの香り、森桃の香り、シャーベットにした柑橘類や南国の果物の香りか」


「このシャーベットを食べると口の中が洗い流される様ですわ」


 このアツキサトを支えてきた食材。それと異世界の食材。


 この世界では伝わっていない調理法のスープに、女神の好物。できる事は全部やった感じだけどどうかな?


「素晴らしい料理の数々。流石はカロンドロ王と勇者クライド」


「末代まで語り継げるような晩餐会でしたな」


「晩餐会を大いに楽しんでもらえた様で何よりだ。今回は土産物としてアツキサトの職人が精魂を込めて焼き上げた陶磁器を用意した」


「陶磁器は出口でお渡ししますので、こちらでお願いします。また、先ほどの控室に軽食と酒類を用意しました。ここでは離れた席の方と話せないと思いますので、そちらでくつろがれてはと思います」


 結婚式とかの二次会みたいな物だよな。


 流石にカロンドロ王の前だと羽目は外せないだろうし、ゆっくりと楽しんで貰えるように準備したんだよね。


 これで明日からは正式にカロンドロ王になった。今まで遠慮して踏み込めなかったところにまで話を広げられるだろう。


 スティーブンや土方(ひじかた)は特に忙しくなるぞ……。



読んでいただきましてありがとうございます。

誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。

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