第三百三十六話 前国王に僻地に飛ばされて領地経営に苦労していた貴族も呼ばれているけど、王都周辺で優遇されていた一部の貴族は呼ばれていないな。王都から流れてきた難民を受け入れた貴族は全員招かれてるのにな
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楽しんでいただければ幸いです。
前国王の処刑に伴い、当然ながらその流れでカロンドロ王の戴冠式が行われる事となった。王の長期不在は対外的にも問題だしね。場所はカロンドロ王の屋敷の謁見の間。ついうっかり今までの癖で男爵って呼びそうになっちゃうんだよね。反省反省。
今は近くにある控室で準備が整うのを待っている。軽食とワインなどを用意されているけど、それに手を付ける者は意外に少ない。教会関係者は気軽に卵サンドとかを摘まんでるけどさ。
参列者は俺や雷牙土方という勇者はもちろん、ルッツァやエヴェリーナ姫……、こっちももう姫でも何でもないんだけどさ。それにシュテファン侯爵やスハイツ伯爵、パスクアル伯爵などを始めとした有力な貴族が全員顔を出していた。後は各教会の司教、そして各種ギルドのマスタークラス、大商会の頭もかなりの数で呼ばれている。
貴族は男爵クラスでも呼ばれてたりするけど、逆に伯爵や侯爵クラスなのに呼ばれなかった者もいる。この世界の貴族って割とまともな人種が多いんだけどいわゆる暴君タイプの奴もいる訳で、そういった貴族は誰一人として呼ばれていないし呼んでもないのに来た奴に関しては実力で排除させて貰ったんだよな。ここで追い返されたことが知れ渡ったら、領地に帰ったら領民の大移動が始まるんじゃないかな?
「前国王に僻地に飛ばされて領地経営に苦労していた貴族も呼ばれているけど、王都周辺で優遇されていた一部の貴族は呼ばれていないな。王都から流れてきた難民を受け入れた貴族は全員招かれてるのにな」
「呼ばれなかったという事はそういう事だろう。あそこで難民を拒絶すればこうなる事くらいわかっていただろうに」
「前王に尻尾を振って最後までカロンドロ王をないがしろにしていた連中だ。直接手を下さずとも近い将来に崩壊するだろう」
尻尾を振っていたというよりも、最後の最後までこの国を食い物にしてきた奴らだ。
多くは王都崩壊時に略奪を企てて王都に攻め込み、そして魔怪種の餌食となった憐れな連中だよな。手持ちの兵は殆ど失ったが、領主は生きているので半死人状態で領地に引きこもっている者も多い。
今後は教会関係者だけでなく、この国の全ての勢力から敵として処理される運命しかないんだよな。
「しかし、俺たちに近付いてくる者もいないか。名を売るつもりだったら接触してくると思ったんだけど」
「今のお前に声をかけるという事は、女神に声をかけるのとほぼ同義だぞ。ある程度以上の距離まで近づくのが精いっぱいだ」
「そこまで威圧感がある?」
「威圧感というか、漏れている氣と神力の影響で神々しくある位か? 宗教関係者からは本当に神の代理にしか見えんだろう」
ああ、それで拝む人間は多かったけど近付いてくる人間が難病で死にかけた子供を抱いた親くらいだったのか。
今着ている服は流石に侯爵クラスの大貴族でも気軽に触れるレベルじゃないし、話しかけてくるのはいつものメンツだけだしさ。
「準備が整いましたのでこちらにお願いします」
グリゼルダさんが相変わらずここのメイド長だけど、今後の立場は凄い事になりそうだな。
昔から仕えている忠義のひとだし、カロンドロ王が正式に国王になってもそのまま仕えるんだろうしね。
◇◇◇
カロンドロ王の戴冠式。
あの王冠を身につけた瞬間、この国の王として新しい人生を歩む事となる。半年くらい前から割とこの国の王に近い事してたけどね。各貴族領の立て直しとかいろいろ援助してきてるしさ。
「……では、新しき王カロンドロに国王の証である錫杖と王冠を授けます」
王冠をかぶせるのは女神フローラ教会の司教であるジュディットが行う事となっている。同時に錫杖も手渡す流れだ。
この後の手筈は俺が色々手を回したんだけど、向こうの方も割りと快く引き受けてくれたんだよね。
「新国王カロンドロ陛下万歳!!」
「新国王万歳!!」
周りにいる貴族たちから万歳三唱が響き、それが収まった後でカロンドロ王の少し上の空間が揺らいだ。
【この世界を管理する女神ユーニスです。勇者クライドから新しき王の誕生と聞いて祝福を授ける事としました。勇者たちと共にこの国の未来を任せましたよ。正しきものに祝福があらんことを】
【仮ですがこの世界を担当していた女神フローラです。この先の管理は女神ユーニスが引き継ぎますが、しばらくは私もこの世界を見守っております。新しき王よ、勇者クライドと共に正しき道を進んでください。清き者に女神の祝福を】
いや。女神フローラにまで頼んでないよ?
この世界の管理から外れたって事だったし、引き続き見守るとかも聞いてないしな。
「女神フローラ様!! なんと神々しいお姿なの」
「あの方が新しき女神のユーニス様か。カロンドロ王は女神二人の祝福を授かるというのか」
「ふたりの女神に名を呼ばれるとは、勇者クライドはどれ程神と親しいのだ?」
「こうして直接祝福をする場に居合わせられるなんて……」
各教会関係者は今後本当に長い間この瞬間を語り草にするだろうな。
女神が祝福を与える場に居合わせるなんて、司教クラスでもないだろうしね。
「祝福を頂きまして感謝します。勇者クライドと共にこの国を安全で豊かな楽園へと導きましょう」
ん? また空間が揺らいだ。
【私は女神シルキー。勇者クライドには後輩の女神たちがお世話になりました。お礼は今度神界にでも招いてその時に……。私からも祝福を】
ちょ!! 女神シルキー? 担当エリア違うんじゃないの?
ああ!! 今の話で周りが騒めいてる!!
「神界に招いて?」
「勇者クライドは本当に神の使いだったのか!!」
「カロンドロ王は勇者クライドと共にこの国を導くといいました。陛下に逆らうものは神敵とみなしてよいでしょう」
「我が教会も全力でカロンドロ王を支えましょう」
貴族たちや教会関係者が俺を見る目が完全に女神を見る目と同じになってるんだけど。
しかし、また神界に招かれるって話か。クリスタル男爵討伐の話は済んでる筈なんだけどな。
【それでは、正しき道を行けばまた会う事もありましょう】
三柱の女神達の姿が消え、あまりの出来事に室内は完全に沈黙した。
いや、俺が祝福をお願いしたのは女神ユーニスだけだよ? しかも、向こうが忙しくなけりゃって話だったのに……。そうか、引継ぎとか女神になりたてのユーニスにあう為に女神シルキーがたまたまあのエリアに来てたのか。
元々ユーニスも後輩の女神候補だって話だったしな。
「女神の祝福に感謝を。約束しよう、儂はこの先も勇者クライドたちと共に進む」
「カロンドロ王万歳!! 勇者クライド万歳!!」
「三柱の女神達に祝福された王など過去に例がない。神に認められし偉大なる王の誕生万歳!!」
ここにいる貴族は今後も絶対に裏切る事はないだろう。
流石に三柱も女神達を見たら、カロンドロ王が大いなる祝福を授かった事くらい理解しただろうしね。
「この後は即位記念の晩餐会を予定しております。準備が整い次第会場にご案内しますので控えの間でお待ちいただければと思います」
「晩餐会。今までも素晴らしかったが、また勇者クライドの料理が食べられるという事だろう」
「三女神に名を呼ばれる勇者の料理。再び味わえる日が来るとは思いませんでした」
いや、なんで俺が作ったって思うのかな? その通りなんだけどね。
今回のメニューも本当に苦労したよ。
さて、俺も最後の仕上げだけ指示したら控室に戻るかな。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。




