第三百三十五話 一国の国王の処刑の筈なのに、ずいぶん簡素な処刑台だな。後の事まで考えてるからなんだろうけど
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処刑。この国では罪人の多くが投獄された後に処刑されている。問題として懲役とか禁固刑に相当する刑罰がほとんど無いんだよね。危険度の高い仕事の多くは冒険者が担当しているし、同じく危険度の高く労働条件の悪い鉱山関係の仕事をドワーフが専属で従事しているからだ。
確実に採掘して加工できる技術を持っているドワーフがいるのに、効率も力も能力全てが劣る人間をわざわざ鉱山で働かせる馬鹿はいない。ドワーフがいない鉱山もあるけど、多くの場合はある程度手が入るとどこかからかドワーフがやってくるそうだ。
それが理由で、軽い罪の場合暫く牢屋に入れられた後で二度と罪を働かない事を誓約した書類を提出して放免。次に罪を犯せば容赦なく処刑される。もしくは冒険者としての登録をしていた場合は危険な討伐任務に向かわせられることはある。今は殆ど無いけどね。
「一国の国王の処刑の筈なのに、ずいぶん簡素な処刑台だな。後の事まで考えてるからなんだろうけど」
アツキサトの北側の街道沿いに作られた処刑台。簡素といっても家数件分の広さがあり、木造ではなく石で作り上げられていた。
街中に作らなかった理由はいくつもあるが、もはやこの元国王の処刑にはこの程度の処刑台で十分だという事を知らしめるためでもある。つまり、この処刑そのものにも大した意味はないという事だ。
見学には多くの貴族も集まったが、一定距離以上には近付く事が出来ず。また多くの貴族は馬車の中からその処刑を見守る事とされていた。貴族たちを呼んだのも処刑の見届け人以上の意味は無いんだよな。俺達も近くに馬車を止めてその中から処刑を見守っている。
「そうだろうな。しかし正確にいえば奴は元国王だぞ。先日カロンドロ男爵にこの国の全てを譲る書類にサインしたし、カロンドロ男爵……国王陛下もそれを受け取っている。まだ正式に即位した訳じゃないから国王陛下と呼ぶのも問題があるだろうが」
「今後は呼び方が国王陛下になるのか。俺なんかうっかり男爵とか呼びそうだよ」
「お前の場合は誰を何と呼ぼうが問題ないだろう? 今この国でお前を敵に回す奴はいないぞ。もしかしたらこの世界の可能性まである」
「ライガの言う通りだな。クライドと敵対すれば最低でも全教会が敵に回るし、今までに命を救われた多くの者が命を投げ出してでもそいつの首を取るだろう」
本当に俺の事を生き神扱いというか、俺の姿を見て祈らないのはうちの学校関係者とか一部のギルド関係者だけだよ。
たまに本気で難病の子供とかを抱えた人が訪ねてきたりするけどさ。いや、治すよ。普通の薬とか教会だとかなり難しい場合はね。
そこまで急を要さない場合は状況を聞いて対処するけど。
「お前、抑えてても神力が身体から漏れてるだろう? 普通の病気位だったら、お前の近くにいたら治っちまうんだ」
「そんな力もあるのか!! 魔族対策の便利な力だとしか思っていなかったよ」
「副作用の無い回復魔法を常時発動してるような状態だからな。お前を祈って身体の調子がよくなるってのもあながち冗談でも何でもないんだ」
神力にそんな力があるとか知らなかったよ。氣とか魔力は自分にしか影響ないから考えもしなかった。
そんな事よりも元国王レオナルド・モルビデリ処刑だ。世間ではすでに処刑されてて替え玉を使うんじゃないかとか言われてたくらいだし、あそこで処刑されるのが本人でなくてもいい気はするんだけどね。すでに貴族とかも元国王がどうなろうとしったこっちゃないみたいだしさ。
「一国の国王といえど最後の瞬間というのはこの程度なんだな。誰一人処刑の中止を叫ぶ者すらいないとは」
「最後の晩餐の時にいろいろと話したが、割と色々考えてたみたいだぞ。力を付けた誰かが黒龍種アスタロトや元王妃を討伐する事に期待してたみたいだが、その先に自分の処刑が待っているとは考えてなかったようだな」
「悲劇の国王といえばそうなんだろうがな。それを考慮に入れても、一族を纏めて処刑しないカロンドロ男爵も相当だぞ」
「国王の首ひとつで許したしな。首を落とすのはこれからだが……」
今までも犯罪者の処刑が割とあったから正式な処刑場はこの先の荒れ地にちゃんとある。小塚原刑場規模での処刑は行われていないけど、処刑された後は深く埋めたりしてるっぽい。
今回もさらし首にする事は無いから、処刑後にそこに運ばれて埋められるという事だ。表向きはね。
「元国王が処刑台に運ばれてきたな。流石に取り乱したりはしないか」
「ある意味運命を受け入れてるんだろうしな。俺が提供したアレを使うかどうかはカロンドロ男爵次第だ」
「エリクサーをポンと寄付する人間なんてお前位だ。あれひとつで普通の人間だと一生食っていけるぞ」
「流石に今回は教会の奇跡を使う訳にはいかないだろ? 証拠の残りにくいエリクサーだったら生き返らせても問題ない」
この辺りでエリクサーを個人でいくつも持ってるのは俺くらいだろうけどね。
魔法学校にも常備してるし、男爵とか雷牙達にも何個かずつ渡してるけどさ。
「例の一件以来、お前が動くと神の意志と取られる事が多いんだ。軽々に動いてくれるな」
「女神ユーニスの名と共にいろいろ広まったからね。よく知った仲ではあるけど、そこまでユーニスの名を出す真似はしないよ?」
「女神と自由に連絡が取れるお前が異常なんだ。神託なんて普通数十年に一度あればいい方なんだからな」
最近はツッコミの為に通話が来ないけど、向こうも女神になりたてで忙しいんだろう。むしろ暇な方がおかしいくらいだし。
女神になれたんだし、受け持った世界の平和を守らないといけないんだろうしね。
お、カロンドロ男爵と剣を携えた兵が出てきた。いよいよか。
「儂がこの地へ来て五十数年。その間にも様々な脅威がこの領を襲ってきた。岩塩鉱山にはナイトメアゴート、マッアサイアの塩田には塩食い、南の森には人を食い殺す竜。それ以外にも何度もこの地で不可解な魔物の発生が起こっていた」
一時期は四方を敵に囲まれてたからな。あのまま何もしてなければ今とは全く違う未来が訪れていただろう。
「その多くは元王妃クリスタッロとその配下黒龍種アスタロトの手によるものだったが、数年前、我が領に神から一人の勇者が遣わされ、この国を脅かしていた存在はすべて討伐された。西の森に出現した貿易都市ニワクイナを壊滅させた新種の魔物も、暴君鮮血熊も、勇者クライドの手により討伐されている。そして元凶であった元王妃クリスタッロと黒龍種アスタロトも勇者クライドの手で裁かれた」
魔怪種とかはあまり説明しないか。あいつらも色々と問題を起こしてるんだけどな。
こうして思い出すと割と多くの魔物を討伐してきたよね。
「この男、元国王レオナルド・モルビデリは儂にこの国を全て託すという書類にサインし、儂は正式にそれを受け取った。ゆえにこれは弑逆ではなく、この男が今まで犯してきた罪に対する正当な裁きであると言える。多くの街が壊滅し多くの血と涙が流れる状況を看過してきた国王として有り得ぬ行いに対する裁きであると」
「仕方がないといえばそうなのだが、あの元国王ももう少しやりようがあっただろうにな」
「それをしてりゃ今頃救国の英雄として王都で踏ん反り返っていただろうぜ。悪人ではないし、国を治める王としてもそこまで悪くなかった。しかし、黒龍種アスタロトやクリスタル男爵を抑え込んだり無力化するだけの智謀と人材を持ち合わせていなかったんだ」
雷牙と土方もこの国……、つまり手元にいたのにな。
変身できない土方でもこの世界有数の実力者なんだし。
「選択を幾つか間違えただけで断頭台か。王とはそういうものだろうが」
「カロンドロは俺たちが支える。クライドもいるんだ。あんな状況には絶対にさせんよ」
「スティーブンがいるから安心だよ。お、長かった口上が終わりそうだ」
「神の裁きはここに!! 我が近衛兵の中から優秀な者を処刑人に選んだ。せめて苦しまぬように一太刀でその首を落としてやろう」
誰だあいつ? ルッツァと一緒に雷牙が鍛えていた兵の一人だと思うけど……。
「では。まいります」
「罪の清算後、女神の祝福があらんことを」
「っ!!」
刀が振り下ろされ、この国の歴史が幕を閉じた。
しばらくはレイドラント王国のままだろうけど、カロンドロ男爵の正式な即位後に新しい国名に変わるだろう。
「多くの罪を犯したとはいえ元国王である。死体を辱める事は許されぬ。すぐに運び出せ」
「御意!!」
数人の兵が元国王の遺体を担架に乗せ、即座に控室へと運んでゆく。
おそらくそこで色々と細工をした後、夜にでも幽閉する僻地へ送る手はずなのだろう。
「終わったな。だがここからこの国は始まる。輝かしい未来へ向けて」
「歴史に残る千年王国。平和で豊かな国を作り上げようぜ」
「これだけの人材が集まっているんだ。何の不安もない」
まずはこれからの国造りの前に晩餐会か。
新しい国を支える大貴族たちを歓迎する為の物だし、俺も十分に準備をしなきゃな。
この国の未来を良くするためにね。
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