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第三百三十四話 俺がこうして料理を運んでくる意味は理解してると思うけど、これが一応最後の晩餐だ。この先があるかどうかはあんたの今までの行い次第だけどな

連続更新中。

楽しんでいただければ幸いです。



 人生最後の食事に何を食べるか。これは誰もが一度は考えた事があると思う。人生の締めくくり、その食事を選べるのであれば自分はいったい何を口にするのか。考えれば考える程沼にはまりそうになる問題だろう。


 あの男、レイドラント王国の元国王レオナルド・モルビデリは最初王都で食べていたような粗末なパンとワインを求めた。それを聞いた時、この王様は最後の瞬間まで質素倹約を貫き通すつもりなんだなと感心したんだよね。でも、ここにきて数日で魂に贅肉を付けたというか、ここで出てくる料理の味に陥落した。


 基本的に出す料理はパンとワイン。それにここでは一般的な料理を何点かという事だったけど、今回はあえて晩餐会レベルの料理を出す事にした。王妃と第一王子にも振る舞うつもりなんだけどさ。


「俺がこうして料理を運んでくる意味は理解してると思うけど、これが一応最後の晩餐だ。この先があるかどうかはあんたの今までの行い次第だけどな」


「この先? 最後の晩餐の後は処刑があるだけだろう? その先がある様な言い草だが」


「その首ひとつで今までの罪の清算をするんだ。処刑自体は避けられない。でもこの世界は処刑されてそこで終わらない可能性もある」


「わざわざ処刑しておいて死者蘇生を行うとでも? それに……」


「死者蘇生の成功率はこの世界への貢献度や今までの行いで決まる。その身にカルマ、業を貯めていればまず成功せず魂は天に召されるだろう」


 教会で奇跡を使った場合はそうなんだけどエリクサーを使った場合はそこの所が緩和されるっぽくて、割と悪人でも蘇生に成功するそうだ。


 神界側でこいつは絶対に生き返らせちゃいけないってレベルの極悪人でもない限りはね。


「それではご慈悲を?」


「俺がそれをキッチリ口にすると神界側も色々考えてくるだろうから俺が言えるのはここまで。俺がここにきた目的はこれを出す為だしね」


「勇者クライドはこの国最高の料理人でもあったな。神にも料理を奉納しておると聞いておる」


「神にもですか?」


「勇者ですからね。その位はしますよ」


 するのは俺か鏡原(かがみはら)師狼(しろう)位だろうけどね。俺と違ってあの人は直接持って行くみたいだけどさ。


 食べる物だけじゃなくて提供しているのは本当に色々だし。


「儂がこうして最後の晩餐を提供されるのは勇者クライドを召し抱えられなかったからだが、おそらく儂では勇者クライドは使いこなせまいて。カロンドロは異端ではあったが昔から人心を得るのが得意だったのでな」


「領民を家族と思い、暮らしやすいように最善を尽くす。そんな人ですからね。最初の頃はまだ信用してなかったですから、この貴族領から出る事も視野に入れていましたし」


「僻地の開拓に成功したのもカロンドロ位だしな。いずれ儂の首を討つと分かっておったが、こうも早いとは思わなんだぞ」


「塩田、岩塩の鉱山、他国へ通じる港、豊穣な南方、この国最大の穀倉地帯。これだけの資源を持つ男爵なんていませんよ? やはり王都から離れた僻地でこれだけ与えたのは育て上げて黒龍種アスタロトを討つためですか?」


「当然だ。だが、元王妃クリスタッロに露見してかなり早い段階で潰されたと思っておった。元王妃クリスタッロはどこの貴族領でも軌道に乗ると必ず邪魔をしておったからな」


 聖魔族の全滅を画策した真魔獣(ディボティア)による襲撃か。聖魔族が本当にヴィルナ以外全滅するまで他の貴族領でもやってたみたいだしね。


 アツキサトを襲った時は運良くあいつらがここにいたから気配を察して逃げたみたいだけど、あの時にやっぱり潰すつもりだったのか。


 その後に人食い竜の噂を流してアツキサトから領民を逃げさせたのも、弱体化を狙っての事なんだろうな。本当にああいった嫌がらせをさせたら一流だよ。あのクソ女。


「王都での流行り病の件も?」


「元王妃クリスタッロの所業だ、と言っても、あの頃はあの女が王妃であったがな。さすがに見過ごす訳にはいかんので、この儂も先王に口を出した。大きな問題に発展せぬように、侯爵や伯爵クラスの家族しか助けられなかったのは今でも後悔しておる」


「ようやく先王が悪化させた貴族関係がよくなり始めた頃でしたので。このひとも全力は尽くしたのですが、薬の備蓄も邪魔され続けていたのです」


「最初から混乱を狙っての策だったのか。あの頃だと黒龍種アスタロトを召喚したかどうかの時期。この世界を魔界化させる為に色々始めていたんだろうな」


 聖魔族がなかなか見つからなかったから八つ当たりって可能性まである。


 その後くらいに本格的な聖魔族狩りが始まってるみたいだしな。


「話はこの位にしてそろそろ料理を出しますよ。王妃と第一王子にも同じものを用意していますが、こちらは別に最後の晩餐って訳じゃないです」


「儂の最後の食事と同じ物を口にする機会を与えてくれたのだろう。毒を入れておらぬという意味もあろうが」


「食事に毒なんて入れる奴は俺が許しませんよ。この男爵領内でそれをやる人間など居ません」


 食べ物を料理だったなにかに変えるアレンジャーはいるけどね。


 最近は皆舌が肥えてきて、徐々に改善されてるっぽいけどさ。


「スライスしたバゲットとチーズやジャム。後ワインも今までとは違うものを用意しています」


「やはり出てくるのはこれだけなのか?」


「他にも出しますがまずそのパンとワインを口にして欲しいですね」


「こうしてチーズを塗って食べるのか? っ!! なんだこのパンは!! このようなパンがあるのか?」


「今まで出てきたパンも素晴らしかったですが、このパンと比べるとまるで……」


「これが、本物のパン」


 まずこの世界とは使われてる小麦の質が違うし、このクラスのパンなんて流石に晩餐会クラスでしか口にできないよ?


 チーズもファクトリーサービス製の最高の物を何種類も用意してるし、そうして混ぜてパンと一緒に食べると格別だと思う。コース料理だとパンは料理の最後に出るんだけど、今回は最初にこの二つをリクエストしたからわざと最初に出したんだよな。


「ワインもこのような物があるのか? 今まで飲んでいたワインはいったい何なのだ?」


「少し口に含んだだけで素晴らしい香りと味が広がりますわ。今までの酸っぱいだけのワインとは大違いです」


「二十年熟成させたオールドヴィンテージワインで、最高の飲み頃の物を選んでいます。おそらくこの世界にもこれと肩を並べるワインは存在しないでしょう」


「二十年……それほどのワインを」


「最後の晩餐です。お望みの通りに最高の物を用意していますよ」


 王都に招かれた時の意趣返しじゃないけど、今回は晩餐会形式にする事にしたんだよな。あの料理がどれ程酷かったのか再確認して貰おう。


「最初の料理は毛長鶏(けながどり)胸肉の冷製です。茹でた後で薄切りにした胸肉をソースに絡めて召し上がり下さい」


「王都でも名産の毛長鶏(けながどり)料理は何度も食べたが、これほどの物は無かった」


「味わい深いソースと味を引き出された毛長鶏(けながどり)。素晴らしいです」


 二品目は温野菜のカクテルサラダ。十二種類もの様々な野菜を温野菜にしたものだけど、味付けにはかなり気をつかった。王都の晩餐会みたいに薄味で旨味無しとかにはしてないからね。


 三品目は王都で出された紛い物ではなく、正真正銘本物のコンソメスープ。といっても具は入っておらず、本当にスープの味だけで勝負した物だ。そして四品目はサンショクダイの切り身のムニエル。


「このような料理もあったのだな。先王は贅を尽くした料理を口にしておったが、これほどの料理は無かった」


「当時は無い食材も多かったでしょうし、調理法も確立してなかったでしょう」


「毎日の食事は特別だと思っていましたが、アレは本当に普通の物だったのですね」


「この街のちょっといい食堂に行けば幾らでもあれ以上の物は出てきますよ? しかも割とリーズナブルな値段で」


「儂が作りたかったのもこんな国なのだ。こういった食べ物で溢れ、国民が安心して暮らせるような……」


「相手が悪かったですね。黒龍種アスタロトが相手ですと、この国最高レベルの冒険者でも赤子同然ですし」


「儂は面と向かって元王妃クリスタッロに意見すらできなんだからな。そんな夢など妄想にすぎんだろう」


 悪いけどその通りだろうさ。


 ただ、絶妙なバランスで事が進んでいたのも確かなんだよね。もし黒龍種アスタロトの反乱がもう少し早かったら、この世界は確実に滅んでいた。あの状態のあいつを倒すのはクリスタル男爵には無理だしね。


「メインは牛ヒレ肉のステーキ、フォアグラ乗せです。ちょっと辛めのソースと絡めて召し上がりください」


「柔らかく旨味の凄い肉とこの上に乗っておる物のコクがたまらぬな」


「本当にこの国一番の料理人といわれている意味が分かりましたわ。この世界にはこんな人が存在しているのですね」


「最後に、デザートのプリン・ア・ラ・モード三種のシャーベットと季節の果物添えです。そのプリンには毛長鶏(けながどり)の卵を使用しています」


「本当に最後まで驚かされる。儂が今まで口にした事の無い料理ばかりだ」


「今回は王都でよく使われていた毛長鶏(けながどり)を使っています。その意味もお分かりだと思いますが」


「手元にあっても使いきれておらぬ事は承知しておるよ。神とは残酷なものだな」


 毛長鶏(けながどり)ですら使いこなせていなかった。それが勇者クラスの人材であればどうなのか、もう完全に理解しただろうね。


「この後の事は私はあまり関わりません。もし万が一、先がある時は慎ましい生活を送るといいでしょう。この国ですと美味しい料理はどこでも食べられますよ」


「あまり希望を持たせるな。覚悟はできておる」


「ではこれで」


 あの時期に国王であったことが不運の始まりだけど、その不運を覆すだけの努力はしてこなかった。


 レオナルド・モルビデリが一領主だったら俺は全力で擁護しただろうけど、一国を担う王だとその責任を追及するしかない。


 さて、このあとはカロンドロ男爵に任せるけど、なんだか本当に蘇生させそうな気がするな……。




読んでいただきましてありがとうございます。

誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。

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