第三百三十二話 紹介いただきました鞍井門です。今回も料理は既に完成させて料理長のキアーラに渡していますのでここで一緒に楽しみたいと思います
連続更新中。料理回です。
楽しんでいただければと思います
今日はカロンドロ男爵の屋敷で晩餐会が開かれる事になった。
王都に巣食っていた巨悪。黒龍種アスタロトや邪神の残滓、それに黒龍種アスタロトの放った無数の魔怪種の討伐に成功した事に対する祝勝会。
はっきり言えば俺が黒龍種アスタロトの討伐に成功した後、王都周辺の治安維持や難民の救済などにあたっていた大貴族などを労う為の晩餐会だ。毎度のことながら一番活躍している筈の俺が料理を作ってるんだけどね。
「今回は王都を騒がせていた元凶を討伐した勇者クライド、そして王都からあふれた難民や救出された女性を保護した各位を労う為の宴である。存分に酒や料理を楽しんでいただきたい。とはいっても今回の料理もその勇者クライドが担当しておるのだがな」
「紹介いただきました鞍井門です。今回も料理は既に完成させて料理長のキアーラに渡していますのでここで一緒に楽しみたいと思います」
「勇者クライドは新たにこの世界の管理をすることになった女神ユーニスとも懇意にしておるそうだ。各教会としては面白くない話かもしれぬが、他の女神とも通じておるので何かあれば相談するがいいだろう」
いや。この場で改めてそれを言うのはどうかな? 流石に女神ユーニスが空に大写しで説明してたから知らない人はいないと思うけど。
「本当に神の使いだったのだな。神から直接名を呼ばれるとはどれだけ親密な関係なのだ?」
「つまり今後勇者クライド、そして彼を有するカロンドロ男爵に逆らうという事は神敵という事になるのか」
「この世界の平和を脅かす敵として処罰されかねぬ。こうしてともに宴席を共にできる我々は幸運だ」
今日呼ばれたって事はカロンドロ男爵に味方だと認識されてるって事だしね。慌ててるのは今日呼ばれなかった奴らだろう。
しかも今日の晩餐会には元領主のレッジェーリを弑逆してあの街を再建中のジョエルまで呼ばれている。あいつの行動が正しいと判断したからだしあの一件でシルキー教会はカロンドロ男爵をより一層信頼するようになったからね。
「あの男はレッジェーリ男爵領の……」
「領主殺しを認めるのか?」
「いや、話を聞けばあの男の取った行動は正しいそうだぞ。領主が兵を使って守るべきは領民であり、王都で火事場泥棒を働くべきではないという事だ」
ジョエルの行った事はシルキー教会を通じて国中に広めてある。
各教会からも信徒として正しい行いだったと評価されているしな。そりゃそうだ、領主の不当な要求を拒否って他の信徒を命懸けで守ったんだから。
おっ、料理が運ばれてきた。
「前菜はフレッシュ三点盛りです。クリスタルメロンの生ハム巻き、薄切り燻製キングサーモンのキャビア添え、黒龍海老のカルパッチョになります。バゲットなどのパンも各種用意しましたので、楽しんでいただければと思います」
パンは大きな篭に入れて出したものと、大皿の上に切り分けて乗せた物を用意した。
近くのメイドに言えば、付け合わせのジャムやチーズなどと一緒に手元に配られるようにしている。
「ほう……、これは美しい。クリスタルメロンは硬くて人気の無い果物ですが、こうして食べるとなかなか良いですな」
「フレッシュという事で燻製も生に近い状態でお届けしています」
クリスタルメロンはその名の通り色は薄い緑色で水晶の様に硬いメロンの事だ。甘みは少なく、完熟してもそこまで柔らかくならない。元の世界で生ハムメロンに使われているロックメロンと比べても少し硬いんだよな。でも、こうして使えば食べにくいけどそこまで悪くない。
クリスタルにキングに黒龍。つまり元王妃クリスタッロ、元国王レオナルド・モルビデリ、黒龍種アスタロトを指す食材を選んでみた訳だ。
近い名前の食材を探してそれを上手い具合に調理する方法を考えるのに苦労したよ。キングを煙で燻してるってのも割と訳ありだけどね。
「二品目は焼き茄子のサラダ、チーズ掛けです」
「サラダというには変わった料理ですな」
「この野菜はあまり見ませんが、この辺りの食材ですか?」
「ナスはこの辺りでも作られていますが、今はいろんな食材が増えているので知らない野菜も多いと思いますよ。流通しにくい物もありますし」
サラダって言うにはほんの少し厳しい料理だけど、元々ナスの焼き浸しをイタリアン風にアレンジしてチーズを掛けただけなんだよな。これ、雷牙と土方以外には通じない茄子と成すのダジャレだけどさ。
あ、意味に気が付いた雷牙の奴がちょっと笑ってる。
「三品目はタラコパスタとなります。その小さな粒は魚の卵です。その魚卵自体を少し辛目に味付けをしてありますが」
正確には明太子タラコパスタだ。
赤い色を強調したかったけど、料理の組み立て的にトマトソースを使う訳にはいかないのでこんな形になった。
量も少ないし、割と臭みは抑えてるから問題はなさそうでよかったよ。
「四品目は真聖鯛のパイ包み焼きになります。白身の真聖鯛をパイ生地に包んで焼き上げました」
「真聖鯛は赤い色が忌避されてあまり人気の無い魚ですが、この身は素晴らしいですな」
「まさかあの不人気な真聖鯛がこれほどとは」
全体的に真っ赤で血を連想させる真聖鯛はあまり食材として使われてないんだよな。元の世界の日本だとかなり人気になると思うんだけどさ。身は白身だし。
「赤い身体をパイ生地で包んだという訳か」
「そういう事ですね。赤い色でもこうして包めば良くなりますよ」
「赤……、血の色、まさかそういう事か?」
この料理は領主を弑逆して領民を守ったジョエルを称える料理だ。
赦したので血に染まったその罪はパイ生地で隠し、他者もこうして口にする事で外に出すなという意味でね。
「続いてのスープはミネストローネスープです。保存食として普及を始めているベーコンやウインナーソーセージを具として使用しております」
「これはトマトですか。真っ赤なスープとは今までの晩餐会とは趣が違いますな」
「今までは黄金色のコンソメスープなどが多かった気はします。毎回具材を変えて味を変えてましたが」
そう。今回はあえて真っ赤で具だくさんのミネストローネを使った。
生ハムとかキングサーモンもそうだけど、割と赤を強調する組み合わせになっている。
「最後の料理は牛肉のカツレツです。食感と味を楽しんで頂ければ幸いです」
「いや、勝つとカツの語呂合わせは俺と土方くらいしか分からんだろ? さっきのナスもそうだが」
流石に雷牙が笑いながら突っ込んできた。
土方の方は色々立場があるから笑いをこらえてるみたいだ。
「そっちはオマケだ。元々カツレツはイタリアン系の定番メニューだしね。どうしてもこの辺りでも牛肉を新しい食材として売り出したくてな。いろんな調理法で披露してるだけだよ」
イタリア風のカツレツだから割と肉は薄いし、衣をつける為の溶き卵にもたっぷりチーズが混ぜ込んである。
ソースは付けなくてもいいんだけど、俺に言わせればなんとなくとんかつソースとかマヨネーズが欲しくなるよな。
「こうして味わうと、牛肉も悪くありませんな」
「これからは食肉のひとつとしての地位を築くと思いますよ。調理法は本当にたくさんありますので」
調理法や料理に関しては豚とか鳥の方が多いという話もあるけどね。
個人的にはこれから牛は食肉のひとつとして流通してほしい所だ。
「全体的に赤味が強い料理であったが、この料理だけでもう赤は十分という事か?」
「最後にもうひとつ流れるでしょうが、それで最後にしたいものですね」
「わかっておる。できればそのひとつも避けたいと思っておったのだがな」
今まで多くの血が流れてきたし、これ以上の流血沙汰は避けたいって意味を込めての料理。でも、元国王レオナルド・モルビデリは処刑するって最初の料理で主張したでしょ?
確かに助けてやりたいところだけどさ、ここにいる貴族も多分納得しないよ? この先の事を考えたらあいつの首ひとつで多くの悲劇を避ける事が出来るはずなんだ。
処刑した後の事までは口出ししないからさ。あいつが生き返れるかどうかで審判が下るだろうだろうし。それより最後のデザートだね。
「最後にデザートはイチゴのショートケーキ、チーズケーキ、クリームパイ、果物のムースやジュレなどいろいろとご用意しております。お好きな物を近くのメイドにお申し付けください。また酒も様々な物を用意しておりますので楽しんでいただければと思います」
「このようなデザートだけでなく食後酒まで……」
「私たちシルキー教徒用に酒の肴として大王渡り蟹料理やシャケ料理まで用意していただけるとは」
「この細やかな気遣いこそが男爵や勇者クライドの魅力ですね」
「やがてこの街が王都と呼ばれるでしょう」
女神シルキー教会の司教マデリーネ、女神フローラ教会の司教ジュディット、女神ヴィオーラ教会の司教シュティーナの三人も当然今回の祝勝会に呼ばれているし、デザートや酒などを楽しみながらこれからの事を話し合っていた。
とりあえず今回の祝勝会は成功みたいだな。
問題は次の即位式の晩餐会だ。今回みたいに元の世界だと普通にレストランで食べられる料理じゃなくて、十分に絢爛豪華な料理を出す必要があるしね。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。
 




