第三百二十九話 覚悟をしていたとはいえこの激しい痛みに耐えながら神格化を押さえるのは一苦労だな……。世界を救った代償とはいえ……ん? 何だこれ
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楽しんでいただければ幸いです。
邪神の残滓ことクリスタル男爵の討伐に成功した夜。予想通りというか覚悟をしていた事だけど今までとは訳が違うほどの激しい痛みに襲われた。
今日はヴィルナも説得して別の部屋で寝て貰っている。流石にこの姿は見せたくないというか、この状態で気を抜くと身体から神力が溢れ出るんだよな。
氣もそうだけど、この辺りの粒子的な力っていろんな影響があるしヴィルナに何かあっても困るから嫌がるヴィルナに頼み込んでなんとかひとりにしてもらったんだよね。
「覚悟をしていたとはいえこの激しい痛みに耐えながら神格化を押さえるのは一苦労だな……。世界を救った代償とはいえ……ん? 何だこれ?」
視界が白い靄に包まれていく。
これに近い感覚は以前一度体験した事はあるけど、あの時よりもう少し感覚が強いというかなんなんだ?
「初めましてというのは少しおかしな気がしますが、こうして直接会うのは初めてですね。勇者鞍井門颯真さん」
「誰かと思えば……、その声はユーニスか。本当に女神になれたんだね」
「はい。私はかなり長い時間天使をしていましたし、以前女神見習いの時に救えなかった世界は今あなたがいるその世界だけですので。だからあなたがあの邪神の残滓。変貌したクリスタル男爵を滅ぼした瞬間、女神への昇進が決まりました」
そういえば以前女神フローラに呼ばれた時に私より先にみたいなことを言ってた気がするな。女神見習いになったのはユーニスが先で、女神に昇進したのはフローラが先ってとこなのか。
「その通りです。私は女神シルキーが誕生したすぐ後の世代に女神見習いになりました。ですが他の世界を順調に救い過ぎて、この世界に潜む真の脅威に気が付かなかったのです」
「クリスタル男爵は別世界から侵入していたんだから、基本的には界渡り案件なんじゃないのか? あいつはどう考えてもこの世界の人間にどうにかできる存在じゃないだろう?」
少なくとも一定レベルの神力を有していないと討伐する事すら不可能だ。それに、あの分体の秘密まで辿り着かないと倒しても逃げられるだけだしね。
「そうですね。私が召喚した勇者はその分体の秘密にまで辿り着けませんでした。そしてもう勇者が来ないと分かったクリスタル男爵は邪神と称して活動し、一時的にあの世界の一部を魔界化させる事まで成功しているのです」
「その時に女神になっていたフローラがなんとかした訳か。そして、あいつは表立って活動する事をやめて暗躍し始めたと」
「王族に紛れ込み、権力を使って少しずつ世界を闇へ染めようとしたみたいですね。悪政もそうですが、人を苦しめて魔素に闇を混ぜて禍々しい魔素で世界が満ち溢れるように」
「その為には禍々しい魔素を浄化するハイエルフや聖魔族が邪魔だったわけだ。ハイエルフの方は今もどこかにいるのか?」
「あの種族は人になど手を貸しません。人類側からいえば、聖魔族だけが禍々しい魔素を浄化する希望だったのです」
「謂れのない悪評を流して聖魔族を迫害しようとしたのもその一環だった訳だ。そして最終的に真魔獣を使って世界中の聖魔族を喰い殺したという事か」
禍々しい魔素を浄化する存在が邪魔だったわけだよな。そりゃそうだろう、最大級の懸念というかあのクソ女はせっかく作り出した禍々しい魔素を聖魔族に浄化されちゃたまらないだろうからな。
あれ以上結界と聖域を広げられる前に何とかしたかったんだろう。あの一件だけは絶対に許さない。
「そう言えばまだお礼を言っていませんでしたね。鞍井門颯真さん。あの世界を救ってくれてありがとうございます。あのままクリスタル男爵が計画を進めれば、あの世界にいる生物はすべて魔族か魔生物へと変貌していたでしょう」
「そして妖精界に攻め込んだ後、元の魔界にまで侵攻する算段だったんだろう。妖精界を滅ぼすつもりだったのかどうかは知らないけど、少なくとも妖精界の王女には復讐するつもりだったはずだし……。今も妖精界の女王ってルピナなの?」
「どうしてそれを知っているのかは知りませんが、今の妖精界の女王はルピナですね」
「お付きがプリムで貧乳王女の?」
「……どこでその情報を知ったんですか? その通りですがあまり貧乳王女呼びはやめてあげてください。本人も気にしていますので」
やっぱり妖精界の女王はあの子なのか。
彼女の親友たちはもう人生を全うしたのかそれとも……って、女神ヴィオーラはあの子の事だよな? という事はもう一人のあの子もどこかで女神やってる可能性もあるのかな。
「それにしても……。魂の神格化というか、アルティメットフォームに変身した副作用がここだと抑えられている?」
「その為にこの時間を選んでここにお呼びしたのですよ。この場所ですと副作用も抑えられますし、魂の神格化も進みませんので」
「便利な空間だな。というか、俺が発している神力がこの世界に溶け込んでる?」
「鋭いですね。この世界は神力でも維持されていますので、不足している神力はこうして補充したりもしているのです」
俺にとってはありがたい状況だけど、普通の人にはあまり影響はない気がするな。
神界にとっても神力を補充できるからメリットはあるんだろうけど、今の状態の俺ででもない限りあまり意味は無い気もするね。
「アイテムボックスに流してる神力は結晶化させてるけど、それも届けた方がいい?」
「神力の結晶化? そんな技術聞いた事も無いんだけど!! そうか、ワールドリンカーの力で強引に結晶化させたのね」
「……もしかして前代未聞?」
「多分……。こっちが大騒ぎになりそうな大発見かな? 女神たちだけじゃなくて神様も多分その結晶を欲しがると思うよ」
まだ生成し始めたばかりだからどの位で結晶化するか分からないけどさ。
「とりあえず結晶が出来たらそっちのフォルダに送るよ」
「ありがとう。ほんと貴方には驚かされてばかりだね」
「話し方が元に戻ってるけどいいのか?」
「もう取り繕わないでいいでしょ。私と貴方の仲なんだし~」
「ユーニスとの付き合いも割と長いからね。神界の女神や天使のなかだと一番よくやり取りしてたし」
「もともと私の担当してた世界だったから。その世界は絶対に魔界化して滅ぶと思ってたんだよ」
俺っていう超不確定要素が転移して来なけりゃ、うまくいったんだろうけどね。
来たばっかりの頃の俺だったら倒せたかもしれないけど、舐め切ってどんな敵がいるのか調べなかった結果だよな。
「でも。以前女神フローラに聞いた話だと俺が世界を救った報酬でお願いしないと女神になれないって話だったと思うんだけど」
「うん。その願いが無事に受理されたよ」
……はい?
以前そういう話をしてたから世界を救った報酬がそうなってたのか。別に欲しいモノがある訳じゃないし、別にどうでもいいんだけどさ。
「貴方って本当に器が大きくて優しい人だよね。ここで別の願いがよかったとか言い出されたりするかもって言ってた女神もいるんだよ」
「女神フローラや女神ユーニスは疑ってなかっただろ?」
「そりゃそうだけどさ。そこまで無欲な人間はいないって言われたし」
「欲しい物はほぼ手に入ってるしね。ヴィルナとの子供の件。ちゃんとその時期を教えて貰えるんだったら他に必要な物なんてないさ」
「それは絶対に教えるから。ある意味貴方とあの子の子供ってこっちでも注目されてるんだよ」
どっちの能力を引き継いでも神界にとっちゃ監視対象人物だろうからな。
俺みたいに物欲を含めてそこまで強い人間じゃなければいいけど、下手すると魔王とかそっちのコースに行きそうだし。そうならない様に育てるけどさ。ん? まさか。
「もしかして、将来の勇者候補?」
「ばれた?」
「俺とヴィルナの子でも勇者向けの性格や能力とは限らないぞ」
「いや~、能力に関しては絶対に人外だと思うよ? 貴方たちの力の百分の一でも受け継げば、それだけでその世界でもほぼ最強の力を持ってるわけだしさ」
「ブレイブの力抜きだったらそこまででもないだろ?」
「貴方の場合、変身しなくてもその世界で最強でしょ?」
そういえば今は神力を使えるから変身とかって問題じゃないよな。
今だったら黒龍種アスタロトの最終形態とクリスタル男爵以外は変身しなくても倒せるしさ。
「幾ら強くても本人の意思を無視して勇者活動の勧誘はやめてくれ。今だったら雷牙の奴も暇してるだろう?」
「その手もあったわね。今後貴方に世界の救済の手助けをしてもらおうと考えてたけど、あの人も十分に人外の能力持ちだったよ」
「世界救済って言ってそこまで長く家を空けさせてやるなよ。あいつも俺も妻帯者なんだから」
「大丈夫。時間の流れを調整するから、こっちや貴方のいる世界の時間で一時間程度で救いに行く世界では一年活動できるから」
「四時間で約四年か。最悪一日で二十四年。それだけあればなんとかなる? いや、幾ら不老不死に近くても俺達も歳を取るだろ?」
「その辺りも調整されてるから問題ないよ。今まで多くの人に手伝って貰ってるんだし、対策は完璧なんだから」
その条件だと雷牙の奴は喜んで引き受けるだろうな。
もともと人助けが趣味みたいなやつだし。
「そういえば世界救済の報酬とかあるのか? 俺はともかく、雷牙の奴はもう少し実入りがあってもいいだろうし」
「救う世界でも結構稼げると思うけどさ、元の世界に戻る時に金とかに変えて手渡したりできるよ。もちろん色々報酬も出るけど」
「土方も俺も仕事が忙しくて動けない事が多いしさ、多分一番世界の救済を引き受けるのは雷牙だと思うんだよ」
「貴方にしか倒せない敵とかいるけど、その時はお願いね」
「爵位級魔族か。雷牙とは相性が悪いしその時は何とかするよ」
それ以外はあいつで十分何とか出来るだろうし、あいつに任せれば世界をいい方向に向かわせる可能性が高い。
逆に言えば俺なんかが首を突っ込むと、アイテムボックスの力を使って余計な事までしちゃいそうだしね。
「あ~、その可能性はあったね。貴方の事だからそこまで世界を混乱させないと思うけど、控えめに行動して貰えると嬉しいかな」
「善処するよ。その時の状況次第だ」
「信用してるんだからね。ん~、そろそろ大丈夫かな? もう貴方の身体は安定してるだろうし、元の世界に戻っても問題ないよ」
「ありがとう。俺の神格化を押さえる目的もあったんだろうけど、今回は本当に感謝してる。まだ人の枠を超えたくないからな」
「まだギリギリ人だと思うよ」
やっぱりギリギリか。
ヴィルナと一緒にいる間はもう二度とアルティメットフォームは使えないぞ。今だと爵位級の魔族でもマキシマムフォームで倒せるだろうしな。それはともかく。
「俺たちの力を必要とする時は遠慮なく言ってくれ。誰かを助けるのがブレイブの役目だ」
「ありがとう」
意識が戻る。
これで目が覚めたら元の寝室にいるのかな? というか、今回は肉体ごと召喚されてた?
……女神ユーニスの匂いが付いてないだろうな? シャルもヴィルナも感覚が鋭いし……。
神格化を押さえる為だし、こうするしかなかったんだろうから、説明すれば感謝してくれるだろうけどさ。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。とても助かっています。




