第三百二十七話 あ、ちょっといいかな? この子たちは被害者って言うか、前王妃クリスタッロに攫われてから水晶像に変えられてさっきまでここに飾られてたんだ
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楽しんでいただければ幸いです。
基本的に魔族に石や宝石像などに変えられた人は、吸い上げられた精気を魔力か何かで補填しなければ元には戻らない。
しかし、爵位級以上の魔族ともなれば下級魔族との格の違いを示す為、自らが敗れた時は石像などに変えていた者を元に戻す傾向にある。また、歪内部に捕らえていた場合は安全な場所まで転移させるサービス付きだ。
俺が歪から出ると元王妃の部屋にはさっきまで水晶像に変えられていた少女たちと、少し手前の廊下で見張りをしていた兵士が言い争いを行っていた。さっきまで俺以外はいなかったんだからこうなるだろうけどさ。
「お前達!! いったいどこから忍び込んだんだ!! この厳重な警備を潜り抜けてここまで侵入するとは……」
「だから、私たちはいつの間にかここにいたんです!!」
「この毛布はここに置いてありました。まるで私たちの為に用意してくれているかのように」
「あの。ここ王妃様のお部屋ですよね? 私たち処刑されたりしちゃいます?」
元王妃なうえに魔族でラスボスだったからお咎めは無いんじゃないかな? むしろここにいる子は全員被害者だし。
「あ、ちょっといいかな? この子たちは被害者って言うか、前王妃クリスタッロに攫われてから水晶像に変えられてさっきまでここに飾られてたんだ」
「勇者クライド様。……その話は本当なのですか?」
「間違いない。さっき俺が正体を現した前王妃クリスタッロを倒したから元に戻ったんだ。たぶんこの国中に百万人を超える人が戻って来てる筈なんだけど」
「ひゃ……百万人ですか?」
「ああ。安全な場所って言っても何処か分からないからな。たぶん攫われた場所に近い場所で命の危険が無い場所だと思うんだ」
ただ、ひとつだけ不安要素があるとすればいまは冬だ。基本的に全員なにも着ていない状態だろうし、その状況だと……。
ん? 着信?
「俺だ。って、雷牙か。今取り込み中なんだが」
「こっちも大騒動でな。アツキサトの教会に裸の女性が突然現れた。全部の教会に約一万人ずつだ。で、スティーブンから元凶に心当たりがあるんじゃないかってな」
ダレダロウネ?
そうか教会か。確かに各教会だったらそこそこ人が送られてきても対応できるだろうけどさ。
「例の邪神の残滓を討伐したんだが、その結果だな。あのクソ女に今まで攫われていた女性が全員元に戻って安全な場所に送られている筈なんだけど」
「なるほど……。その言い草だとここだけじゃなさそうだな。どこにどの位送られたんだ?」
「多分この国中で百万人……。貿易都市ニワクイナでさらわれた人もいるだろうけど、その人たちも近場の街に送られてると思うぞ」
「百万人か!! それだけの人を救いだしたのは素晴らしい事だが、カロンドロ男爵とスティーブンの奴は近くで頭を抱えているぞ」
そりゃそうだろうな。でも、今を逃せばあいつを倒すチャンスなんてなかっただろうし、俺の状態に気が付いたら下手すりゃまたどこかに逃げる可能性すらあったからな。
俺を舐め切ってる今回のような状況の時に不意打ちに近い形でとどめを刺すしかなかった。
「教会って事だったら都合がいい。各教会に救出した女性の保護をお願いしてくれ。援助は必ず行うから」
「了解だ。こっちでもすでにカロンドロ男爵が色々指示を飛ばしている。しかし……、ひとりで邪神の残滓討伐に行ったのか?」
「俺の方が相性のいい敵だったしな。正直黒龍種アスタロトの方が敵としては遥かに上だった」
基本的に魔族は人を殺傷する力を持たない。精気や魔力とかを吸いつくして石や宝石に変えるだけだ。
俺の魔力はほぼ無限に近かったし、俺の使った神力は魔族に超特効だしな。逆に言えばアルティメットフォーム以外ではあいつに勝てなかった訳だけどね。
「その辺りの詳しい話はこっちに戻って来てからしてもらう。討伐ご苦労さん」
「ありがとう。これでこの世界は完全に滅びの運命から解放された」
逆に言えばこれでもう俺達みたいな力を持つ者は必要なくなるんだよな。
俺や土方は他にもいろいろ仕事があるけど、雷牙はあの力を持て余すんじゃないか?
ん? 周りの視線が……。
「邪神の残滓?」
「滅びの運命?」
「世界が救われた?」
「ああ。あの前王妃クリスタッロはこの世界を滅ぼそうとしていた世界の敵だったんだ。女神たちから俺が討伐を頼まれていた敵でもある。いや、もうあっただな」
倒した後だしな。完全消滅したから最低でもこの世界で再生する事はない。並行世界にいた同位体も滅んでる筈だしね。
「流石は勇者クライドだ!!」
「神の遣わした真の勇者!! すぐに各領主様に報告だ!! 各貴族領の教会に救出された女性の保護をお願いしろ!!」
「了解!! 可能な限り各方面に伝令を走らせろ!!」
多分カロンドロ男爵が魔道具か何かで各教会に色々伝えてるだろうけどね。
伝令として走った兵士に現地で説明して貰った方が話は早いかな。
「とりあえずこの子たち……。裸に毛布だといろいろ困るか」
「そうですけど……」
「流石に何か用意する事は出来ませんし」
できなくもないんだけどね。ヴィルナのウエディングドレスを仕立てた時と同じように採寸用の特殊フィールドを展開して……。
「とりあえず一人ずつこのサークルの上に乗って貰えるかな?」
「そこですか?」
「そう。一人ずつね」
女性の数は全部で八人。その全員分の採寸を終わらせて、ファクトリーサービスで作らせている割と一般的な服を各一式、三着ずつ用意した。
流石に下着とかのデザインは完全に任せたけど、おかしなものは混ざってないはず。
「これがあなたに。こっちがそこの子に……」
「こんな立派な服。頂いてよろしいんですか?」
「いいよ。それぞれに合わせてる筈だから問題はないと思うんだけど。ああ、ここじゃ着替えられないか。はい、俺たちは全員室外に退去」
「わかりました」
残っていた兵士数名と俺は前王妃クリスタッロの部屋の前で待機した……。って、俺まで彼女たちが着替えるまでここにいる必要ないじゃん。
ここはこの人たちに任せて俺はアツキサトに戻るか。あっちもここどころじゃない位大変だろうしね。その前にっと。
「これはさっきの人たちの当面の生活費。それぞれに大銀貨が二十枚入ってるからしばらくは暮らせるはずだ」
「こんなに……。数が多いようですが」
「お前たちの分もあるからさ。後は任せたぞ」
「了解しました!!」
こいつらも給料は貰っているんだろうけど、あの子たちだけに渡すのもフェアじゃないからな。
さて、全力でアツキサトに戻るか。
……いまだに天使ユーニスから連絡が来ないのが少し気になるんだけどね。
◇◇◇
アツキサトに帰還。
流石に今回は後始末というか、教会に現れた女性たちの対応に追われているために出迎えなんかは無しか。邪神の残滓については一部の人間しか知らないしね。
ひとりだけ出迎えがいたよ。
「よう、勇者の帰還だな」
「雷牙か。お前は教会の方に駆り出されなかったのか?」
「あっちはスティーブンが仕切ってるよ。俺たちはこんな時あまり役に立たないだろ?」
「違いない。俺たちに恐縮して他の奴らが動きにくいだけだ……。ん? なんだあれ?」
空に巨大な女性の姿が映し出された。敵意は無いというか、アレ女神か天使だろ?
「人? いや、女神の誰かか?」
「この世界を仮だけど管理してる女神フローラじゃないし、誰なんだろう?」
着てる服は女神っぽいデザインなんだけどさ。あの色のドレスって誰かに……。ああっ!!
【私は女神ユーニス。新たにこの世界の管理を任された神です】
……はい? 女神? 天使でも見習いでもなくて?
【勇者鞍井門颯真がこの世界を破滅させようとしていた邪神を倒し、この世界に本当の意味での平和が訪れました。彼こそがこの世界を救った真の勇者となります。この事は女神フローラ、女神シルキーも了承し、私が祝福の言葉を預かっています】
いや。これ絶対ヤバいパターンだろ? ここまで大々的にやられると、この先いろいろやりにくくなるんだけど。
【邪神に攫われていた女性たちは各教会に一時的に避難させました。各教会が彼女たちを手厚く保護する事を期待しています】
転送先を各教会に設定したのもユーニスか。確かに、一番いい方法だと思うけどさ。
【この世界に住む者に祝福を。そして、世界を救った勇者鞍井門に感謝を……】
今度会った時にいろいろ言う事が増えたな。
まさかこんな真似をしてくれるとは……。
「よう、真の勇者。これから大変そうだな」
「ありがとう。ホント嫌な予感しかしないよ。今まででも街を歩いてたら拝まれてるのにさ」
「女神直々のお言葉だからな。仕方ないだろうぜ」
ああやって宣言してきたって事は、この世界の救済が完了したって事でいいんだろう。
あのクソ女の置き土産というか、禍々しい魔素が満ちてる場所も幾つかあるから、そこに結界を張りに行かないといけないんだけどさ。
とりあえず今日はこのまま家に戻ってヴィルナにただいまを言わなくちゃね。
約束通りに無事に戻ってきたんだしさ。無事なのかどうかはこれから次第だけど……。
読んでいただきましてありがとうございます。
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