第三百二十一話 この状態の俺にこれだけの仕事を持ってくるとか鬼か? 祝勝会の料理だけじゃなくて、こっちのリクエストは何なんだよ?
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楽しんでいただければ幸いです。
王都で黒龍種アスタロトを倒した日の夜は今までとは比べ物にならないレベルであの痛みが襲ってきたんだけど、傍で見守ってくれていたヴィルナがそのあまりのひどさに少し取り乱した位だった。
やっぱり全ブレイブ召喚が相当負担になったみたいで、さらに言えばその状況でオールブレイブクラッシュを放ったからね。正直数日寝込んでもおかしくない位の状況だよ。
「この状態の俺にこれだけの仕事を持ってくるとか鬼か? 祝勝会の料理だけじゃなくて、こっちのリクエストは何なんだよ?」
その書類を持ってきたのはスティーブンで、こいつも相当に忙しい筈なんだけどな。
むしろ今こんな場所にいていいのかわからない奴だぞ。
「レオナルド・モルビデリが最後に食べる料理のリクエストだ。どれだけ罪状を軽くしようと、あいつの処刑だけは決定事項だからな」
「……このメニュー。一人だけなのか?」
「王妃と王子として育てられていた王女は僻地に幽閉だそうだ。といっても今までよりも自由な生活になりそうだがな」
処刑されるのは元国王だけか。流石にあいつだけは無罪放免ってできないから仕方がないんだけどね。
「殺されないだけマシって話だろう。流石にカロンドロ男爵だな」
「国王はもう仕方が無いからな。お前が生かしたまま捕まえてきたから、カロンドロ男爵に国を譲る書類にサインさせる事もできる」
「正式な手続きで国を譲らせるのか。対外的には一番いいような気がする」
「そうだな。元々あの国王にはまともに国を運営する能力はない。如何に邪魔されてきたとはいえあまりに不味い国家運営能力だったからな」
如何に領主が運営する事が基本とはいえ、ここまで国を傾けたのはあいつの責任だしね。
うまくいきそうな所を邪魔するのは得意だったみたいだけどな。他の貴族領にあまり勢力を伸ばされると今回みたいに王位を奪われる可能性が高かったわけだし。
「おかげでこれからやる事が山積みって訳か」
「今まではカロンドロ男爵領だけだったのが、国の直轄地はすべて立て直さないといけないからな。あまりに飛び地になっている領地については他の貴族に報酬として引き渡した方がいいだろう」
「その辺りはうまくやるつもりなんだろ?」
「当然だ。この数年でこの先の百年近い状況が決まる。打てる手はすべて打つさ」
ここで躓く訳にはいかないだろうしな。
この機会に敵対しそうなやつはすべて排除して平和な国にしたいんだろう。
「料理関係や教会関係はお前位にしか頼めない。ドワーフもそうだがお前がいる事でどれだけこの先の運営が楽になったか分からない。流石といえば流石だ」
「カロンドロ男爵を信頼してるし、俺にできる事だったら割と何でもやるつもりだけどね」
「お前に何でもやらせすぎるとそれはそれで危険なんだよ。お前に私心が無くて旗揚げする危険が無いのは間違いない。しかし、誰かが神輿として利用する可能性はゼロじゃないだろ?」
「ゼロさ。そんな事をすれば教会関係者が黙ってないぞ」
「……それもそうか。女神フローラや女神シルキーは平和主義だしな」
どっちの女神も悪とは戦えと教えてるけど、平和を乱せとは教えてないからね。
男爵が国を良くしようと動いてる以上、それを邪魔する行動は教義に反する。
「料理の件は了承した。今回の報酬が書かれた書類は流石に目を通すのが苦痛なレベルなんだけど」
「お前の功績がでかすぎるんだよ。普通だと望みの領地を渡されるところなんだが、お前はそれを望んじゃいないだろうし」
「邪魔なだけだからな。この屋敷の土地だけで十分だよ」
「そうだろう、だからその量だ。お前にとっちゃゴミみたいな報酬だろうがな」
「対外的にも報酬を出しておかないとまずいだろうしね。ありがたく受け取っておくよ」
報酬の内容は金貨などの現金。宝石類や絵画などの美術品。魔石で動く魔導具。後は各地で獲れた珍しい植物などの種子。
王都の遠征分だけでも相当な額になってるんだけど、流石にこの位出さないと他に示しがつかないんだろうな。
「王城にあった金貨などの製造用魔導具は回収する。今後はこのカロンドロ男爵領で通貨が発行されるだろう」
「貨幣の発行を始めたら完全にこの国の中心だな。問題は地金や地銀か」
「そこも問題じゃないぞ。お前が以前男爵に渡した量で十年は貨幣を発行できる。相変わらず化け物の様なアイテムボックスを持ってやがるぜ」
「金や銀が食えるわけじゃないからな。有効活用して貰えるところに渡しただけだ」
俺がこの世界から持ち出して寿買に突っ込んだ量の金塊や銀塊は既にこの世界に還元できている。
この世界のバランスを崩す量はもう持ち込まないけどね。
「おっ。そろそろ仕事に戻らないとリリの奴が切れるんでな。すまんが」
「わかった。お前も大変だろうけど頑張れよ」
「お互いにな。こんな歴史の大舞台に立たされるとは思いもしなかったぜ」
そこは俺もな。
国が滅んで新しい国を建国する場面とか、歴史の教科書位でしか体験できねえよ。
◇◇◇
元国王……っていうか、今はまだ一応国王レオナルド・モルビデリの最後の晩餐というか人生最後の食事に食べたい物を託されたわけなんだけど。
「本当にこんな物でいいの? 仮にも一国の国王が人生の最後に口にする物だよ? こんな質素というか、ありきたりの料理で……」
渡された紙に書かれたメニューの内容はパン、ワイン、鳥料理、スープ。僅かにこれだけだ。
鳥料理って範囲が広すぎな気がするし、後は問題のスープだけど。
「あの国王の人生の最後を飾る料理だ。下手な物は出せないし、ここは相当に考えないといけないな」
ワインに関しては俺が最高の物を幾らでも提供できる。
パンはバゲットよりはバターロールのような物の方がいいか? 今まで王城で食べていた料理は粗雑な物が多かっただろうし、出来るだけいいものを食べて欲しい。
「問題は鳥料理なんだよな」
「また厨房に籠っておると思えば、なにを悩んでおるのじゃ?」
「あ、ヴィルナ。あの国王の最後の食事を任されてね。正直祝勝会の料理よりもこっちの方で頭を悩ませてる所だよ」
「人生最後の食事という訳じゃな。あの国王の思い出の味などはどうなのじゃ? 前王の時はかなり贅沢な暮らしじゃったんじゃろ?」
そうか!! あの国王が王位についてからは質素だったけど、それまでは割と豪華な料理を食べていたはず。
それをいったん調べる必要があるのか。その時代の晩餐会の料理なんかを知っている人物か……。
「ありがとうヴィルナ。俺は重要な事を見落とすところだった。そうだよな。王城の晩餐会が今の惨状になる前はそれにふさわしい物を食べていた筈なんだよ」
「この国の料理じゃ。王城の晩餐会とはいえそこまでのレベルではなかろう」
「それがどんなレベルなのか知りたいんだけど……」
誰に聞く?
男爵やスティーブンは論外。あの二人はこんな話を聞ける状況じゃないしな。
ある程度の地位があって晩餐会にも招かれていたであろう人物。
「あの人がいたか。ルッツァの父親で元侯爵のルーペルト・パッヘルベル。あの爺さんだったら当時の晩餐会の事もきけるだろう」
「侯爵であれば当時でも晩餐会には招待されておるじゃろうな。大したものは出ておらぬと思うのじゃが」
「当時はかなり贅沢してたみたいだし、当時なりのご馳走は出てると思うんだよね」
「ただ塩辛い料理か砂糖で甘く味付けた料理じゃろう。元々この国はそこまでソースを多用しておらぬ」
確かに食材や調味料が少なすぎて今みたいなものは出せないと思うけどね。
それでも当時の料理を知っているのと知らないのでは出せる料理が変わってくる。
「その辺りは確認してから調整するさ。ちょっと出かけてくる」
「相変わらず仕事の虫じゃな。たまにはシャルの相手をしてやらねばシャルもすねるのじゃぞ」
「この料理が出来たらシャルと遊んでやるさ」
忙しいを言い訳にしたらダメなんだけどな。
今はソレイユたちやヴィルナに任せっきりだし、ひと段落着いたらシャルと過ごす時間を作ろう。
読んでいただきましてありがとうございます。
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